日本の投資信託の人気は移ろいやすい

日本では2015年8月末現在、5,748本もの公募投信が運用されています。上場株式よりも数がある、ということになりますが、いったいどんな投資信託が良いのか分からない人の方が多いでしょう。

例えば株の場合は、トヨタやJR、NTT等、有名な人気銘柄があり、株をやらない人でも名前くらいは知っています。

しかし、投資信託については、どんなものがあるのかを知っている人は少なく、名前を聞いてもピンとこないことの方が多いのではないでしょうか。

このような背景からか、日本の場合は人気のある投資信託を購入する人が多いようです。しかし、日本の場合、投資信託の人気は時代によって変わる傾向があります。

例えば下の表を見て下さい。これは、2011年11月末時点と2015年10月28日時点の人気投資信託ランキングです。

なお、このランキングは、純資産額の上位ファンドを1位から10位まで並べたものです。約4年の間に、トップ10が入れ替わっていることが分かります。

1 グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)
2 短期豪ドル債オープン(毎月分配型)
3 ハイグレード・オセアニア・ポンド(毎月分配)
4 野村G・ハイ・イールド債権(資源国通貨)毎月
5 新光US-REITオープン
6 ラサール・グローバルREIT(毎月分配型)
7 ピクテ・グローバル・インカム株式(毎月分配)
8 ブラジル・ボンド・オープン(毎月決算型)
9 (通貨選択S)新興国債権<レアル>(毎月)
10 財産3分法F(不動産・債権・株式)毎月分配型
2011年11月末時点
出典:モーニングスター
1 新光 US-REITオープン
2 ラサール・グローバルREITオープン(毎月分配型)
3 フィデリティ・USハイ・イールド・ファンド
4 フィデリティ・USハイ・イールド・ファンドB(為替ヘッジなし)
5 ピクテ・グローバル・インカム株式(毎月分配型)
6 グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)
7 ダイワ米国リート・ファンド(毎月分配型)
8 アジア・オセアニア好配当成長株オープン(毎月分配型)
9 野村・ドイチェ・高配当インフラ関連株投信(米ドルコース)毎月分配型
10 ダイワ・US-REIT・オープン(毎月決算型)Bコース(為替ヘッジなし)
2015年10月23日時点
出典:投信まとなび

なお、2011年の人気ランキングの投資信託ですが、1位から10位までのうち6つが債券型のファンドで、株式型のファンドは7位のピクテ・グローバル・インカム株式のみです。

一方の2015年は、1位から10位までのうちの3つが株式型で、債券型のファンドは2つ、残りは全てREITになります。このように、人気のあるファンドのタイプが大きく変わっていることが分かります。

なお、2011年はまだ民主党政権でした。この頃は過度な円高に悩まされ、日本経済は低迷していました。国内の輸出産業はダメージを受け伸び悩んでおり、2008年に起きたリーマンショックの影響が、いまだ日本市場にもあった頃でした。

一方、2015年は、2012年12月の自民党への政権移行後であるため、アベノミクスが実施された後です。2011年当時よりも景気が回復しており、円安・株高が進んでいます。

一般的に、好景気時には株への投資が増え、不景気時には債券への投資が増えます。投資信託の人気ランキングはその時の景気を如実に表していると言えます。

また、REITについてもアベノミクスの恩恵を受けており、日銀が昨年10月にREITの買入額を3倍にするとの発表を受けたことで、さらなる活況となっています。そのような状況が、このランキングに反映されていると言えます。

このように、景気が変わることで、人気の投資信託も当然変わってもおかしくないのかもしれません。

では、不況にあえいでいた民主党政権時の投資信託の人気ランキングはどうでしょうか。このランキングは、2010年と2011年の投資信託の資金流入額を示したものです。

1 野村グローバル・ハイ・イールド(資源国通貨)
2 フィデリティ・USリート・ファンドB
3 短期豪ドル債オープン
4 新興国債権F(ブラジルレアルコース)
5 ブラジル・ボンド・オープン(毎月決算型)
6 アシュモア新興国財産3分法F(レアル)
7 米国ハイ・イールド債投 ブラジルレアル
8 ダイワ・グローバルREIT・オープン
9 フィデリティ・USハイ・イールドF
10 エマージングボンドFブラジルレアル
2010年12月30日時点
出典:モーニングスター
1 新光 US-REITオープン
2 短期豪ドル債オープン
3 ダイワ米国リート・ファンド(毎月分配型)
4 ラサール・グローバルREIT
5 ダイワ・US-REIT・オープンB
6 ドイチェ高配当インフラ関連(ブラジルレアル)
7 ワールド・リート・オープン
8 ハイブリッド3分法 新興国通貨
9 フィデリティ・USハイ・イールドF
10 EM・ハイイールドボンドF・ブラジルレアル
2011年12月30日時点
出典:モーニングスター

たった一年でもだいぶ顔ぶれが変わっていることが分かります。

なお、2010年はトップ10のうち8つが債権型の投資信託で、2011年はトップ10のうち4つが債権型となっており、半分に減っています。

その代わり、REITへ投資する投資信託が4つランクインしており、ランキングに大きな変化があったことが分かります。

なお、2011年は円高がさらに進み、1ドル75円32銭という、戦後最大値を記録しています。

ちなみに、2013年の場合は下表のようになっています。

1 フィデリティ・USハイ・イールドF
2 新光US-REITオープン
3 ダイワ高格付カナダドル債(毎月分配型)
4 ドイチェ・高配当インフラ関連株(米ドル)毎
5 日興ピムコHインカム・S毎(リラ)
6 ラサール・グローバルREIT(毎月分配型)
7 日興・新経済成長国エクイティ・ファンド
8 フィデリティ・ストラテジック・インカムA
9 ピクテ・グローバル・インカム株式(毎月分配)
10 野村 日本ブランド株投資(レアル)毎月
2013年12月30日時点
出典:モーニングスター

2013年は、アベノミクスがすでに始まっており、過度な円高が修正されるなど、徐々に日本経済が上向いてきた年です。株に投資する投資信託が複数ランクインするなど、ランキングにまた変化があったことがよく分かります。

このように、日本の投資信託の人気は非常に移ろいやすいと言えます。

人気ファンドに注意

投資信託は株の人気銘柄のように知名度のあるファンドは少ないため、どんな投資信託が良いのか分からない人も多いでしょう。そのため、「とりあえず人気のあるものを買ってみよう」と考える人が多いようです。

しかし、当然ではありますが、人気のある投資信託=良い、という図式は成り立ちません。

先ほどの投資信託人気ランキングを見ても分かるとおり、たった一年であっという間にランキングが入れ替わります。順位が少し上下するのではなく、総入れ替えに近い状態になることもよくあります。

人気ランキングの上位にあったファンドが純資産額を減らし、ランキングから消えていくことも多々あります。

解約や元本の取り崩しなどで基準価額を減らしたために、ランキングから消えていくのです。そして、そのようにしてランキングから消えた投資信託は、分配額も減っていることが多々あります。

そのため、人気のある投資信託については、あくまで参考程度にとどめておく必要があります。何度も言うとおり、人気がある投資信託が運用成績も良いとは言えないからです。

とはいえ、投資信託の人気ランキングで参考にするのであれば、順位がどんどん落ちていっている投資信託の方に注意した方が良いと言えます。

順位が落ちているということは、解約が増えている可能性があります。解約のために資金が流出してしまい、その投資信託の純資産残高が減っていると考えられるからです。