アメリカの投資信託は長寿
「貯蓄から投資へ」という言葉を聞いたことはありませんか?現在の日本は超低金利のため、預貯金では金利はほとんどつかないに等しい状態です。そのため、貯金よりも投資にお金を回して賢く運用しましょう、ということで、このような言葉を聞く機会が増えたのではないでしょうか。
NISAなどもまさに「貯蓄から投資へ」という言葉を代表するような仕組みです。貯金好きの日本人の資金、それもお金を持っている60代以上のリタイア世代の預貯金を投資に回そう、という試みもNISA制度の裏側にはあります。
投資信託はおまかせ運用ですので、株やFXなどと違い、自分で取引画面を見て取引する必要はありません。そのため、貯金感覚で気軽にできるという側面があります。
また、すでに紹介した毎月分配型投資信託のように、定期的に分配金が支払われるものもあるなど、「投資」に対するハードルの高さを和らげるような商品が多いのも特徴と言えます。
とはいえ、日本の投資信託の場合、人気ランキングが短いスパンで変わります。また、人気があるからと言って、良い投資信託であるとは言えません。
ハードルが低いように一見見えますが、日本における投資信託は、実は運用しにくい商品になってしまっています。
日本で投資信託が誕生したのは1951年のことですが、アメリカやイギリスでは、誕生から100年以上経っています。
そして、アメリカについては、投資信託の市場規模が日本と比べてはるかに大きく、投資信託残高は日本の10倍以上、世界の投資信託残高の約半分を占めています。
そんなアメリカでは、日本と違い、個人金融資産の約13%を投資信託が占めており、株に至っては個人金融資産の30%以上にもなります。
預貯金は投資信託と同じくらいの13%程度で、この他にも債権を積極的に運用するなど、日本とはまったく異なる金融資産の内訳になっています。
ちなみに日本は、預貯金が半分以上を占めており、投資信託は5~6%程度と非常に低くなっています。
このように、アメリカでは投資商品を利用した資産運用が盛んに行われており、投資信託も資産運用手段の一つとして、多くの人が利用しています。
また、アメリカでは、投資信託=長期投資のイメージが広く浸透しているのも特徴の一つです。市場規模が大きいこともあって、アメリカの投資信託は日本とはまったく異なる状況にあります。
すでに書いたとおり、日本の投資信託は入れ替わりが激しく、人気のある投資信託は短期間で入れ替わります。
しかしアメリカの場合は日本とは違い、80年以上も運用されている超ロングセラー商品もあります。
1934年に設定された「アメリカン・ファンズ・インベストメント・カンパニー・オブ・アメリカ」(ICAファンド)という株式ファンドがまさにそれで、戦争や大不況、オイルショックやリーマンショック等多くの金融危機などを乗り越え、いまだに運用されています。
また、1960年代や1970年代に設定された投資信託が残高上位に入ってくるなど、昔から運用されている投資信託が好まれています。
というのも、アメリカは日本より金融リテラシーが進んでいることもあって、購入した投資信託の運用成績が悪ければ、購入者はあっさり解約します。
日本の場合はこれができず、塩漬けにしてしまうパターンが多いのですが(よくわからないからそのままにしてしまう、というパターンも多いようです)、アメリカの場合はすぐに投資信託を乗り換えて、運用し直すのです。
そのため、運用成績が悪い投資信託は長年運用することはできません。何十年にも渡って運用されている投資信託=運用成績が良い、ということになり、多くの支持を集めます。
また、アメリカの場合、インデックス運用の投資信託が人気がを集めているのも特徴です。2015年5月27日付の日本経済新聞によれば、2015年3月末時点で、アメリカの投資信託の売れ筋TOP5にラインナップされている投資信託は、
1位 バンガード・トータル・ストック
2位 バンガード500
3位 バンガード・トータル・インターナショナル
4位 アメリカン・ファンズ・グロース
5位 バンガード・トータル・ボンド
となっており、すべてインデックス運用の投資信託です。つまり、手数料が少なく、長期運用に向いた投資信託が選ばれている、ということです。
なお、アメリカの投資信託の場合、確定拠出型年金(DC)の存在が大きいことも見逃せません。
アメリカの投資信託にロングセラーが多いのは、DCの影響が大きいのです。なお、ここで言うDCは、企業年金の401kのような職場のDCと、個人向けDCであるIRA(Individual Retirement Account)の両方を言います。
アメリカのDCは約半分が投資信託で占められるなどDCの運用の中心を占めています。そして、DC経由の投資信託投資は、投資信託市場全資産残高の4割以上を占めるまでになっています。
DCで運用する投資信託は、退職資産を作ることが目的ですので、長期的かつ安定的な運用をするための資金が市場に流入します。
このことも、アメリカでロングセラーの投資信託が生まれやすい理由の一つになっています。
日本の投資信託の不思議
日本の場合、すでに何度も書いた通り、投資信託の人気が移ろいやすく、たった1年で人気ランキングから消えることもよくあります。
アメリカのようなロングセラー商品は少なく、運用開始から20年弱のものでもロングセラーになってしまいます。また、アメリカとは違い、投資信託を長期運用向けの投資商品であると捉えている人は少ないようです。
というのも、日本の場合、投資信託の平均保有年数は2.8年です。これでは長期運用とは言い難いでしょう。それを裏付けるような記事が2015年5月27日付の日本経済新聞に掲載されています。
記事には2015年3月末時点での日本の資信託売れ筋ランキング上位5位が掲載されているのですが、すべてアクティブ運用となっています。そして、このどれもが毎月分配型の投資信託です。毎月分配型の投資信託が長期運用に向かないことはすでに書いたとおりです。
そして、アクティブ運用の投資信託もインデックス運用のものよりもコストがかかるため、長期運用には向かず、長期になればなるほど、インデックス運用よりもパフォーマンスが低くなります。
このようなアクティブ運用の投資信託が売れているのも、投資信託を長期運用として考える人が少ないことを示しています。
また、アクティブ型の方が信託報酬が高いため、販売会社が力を入れて販売することも、日本でアクティブ運用の投資信託がよく売れる原因の一つとなっています。
投資信託をよく分からず勧められるまま買ったり、「雑誌に良いと書いてあったから」という理由で買う人が多いのも、日本における投資信託の不思議の一つです。
なぜなら、おすすめされたり、良いとされる投資信託が、自分の希望する運用スタイルに合っているかどうか分かりませんし、自分の運用目標に合っているかも分からないからです。
いずれにせよ、投資信託という金融商品がどんなものなのかきちんと理解せずに、「とりあえず買ってみる」人が多いことが、日本の投資信託が抱える問題の根底にあると思われます。