同業種比較で会社の中身を比べてみよう

では、これまで挙げたポイントを基に、同業種の会社の中身を比べてみましょう。

今回は自動車業界で見てみたいと思います。

トヨタ自動車、日産自動車、富士重工業の3社を比べてみたいと思います。

トヨタ自動車(株)
2015年3月期 2014年3月期 2013年3月期
売上高 27,234,521百万円 25,691,911百万円 22,064,192百万円
営業利益 2,750,564百万円 2,292,112百万円 1,320,888百万円
経常利益 2,892,828百万円 2,441,080百万円 1,403,649百万円
当期利益 2,173,338百万円 1,823,119百万円 962,163百万円
EPS(一株当たり利益) 688.02円 575.30円 303.82円
調整一株当たり利益 687.66円 574.92円 303.78円
BPS(一株当たり純資産) 5,334.96円 4564.74円 3,835.30円
総資産 47,729,830百万円 41,437,473百万円 35,483,317百万円
自己資本 16,788,131百万円 14,469,148百万円 12,148,035百万円
資本金 397,050百万円 397,050百万円 397,050百万円
有利子負債 18,977,887百万円 16,327,393百万円 14,131,780百万円
自己資本比率 35.20% 34.90% 34.20%
ROA(総資産利益率) 4.87% 4.74% 2.91%
ROE(自己資本比率) 13.91% 13.70% 8.48%
総資産経常利益率 6.49% 6.35% 4.24%
総資本回転率 0.57 0.62 0.62
売上高経常利益率 10.6% 9.5% 6.3%
出典:有価証券報告書
日産自動車(株)
2015年3月期 2014年3月期 2013年3月期
売上高 11,375,207百万円 10,482,520百万円 9,629,574百万円
営業利益 589,561百万円 498,365百万円 523,544百万円
経常利益 694,232百万円 527,189百万円 529,320百万円
当期利益 457,574百万円 389,034百万円 342,446百万円
EPS(一株当たり利益) 109.15円 92.82円 81.70円
調整一株当たり利益 109.14円 92.82円
BPS(一株当たり純資産) 1,152.83円 1,035.06円 890.73円
総資産 17,045,659百万円 14,703,403百万円 12,805,170百万円
自己資本 4,834,416百万円 4,338,654百万円 3,733,302百万円
資本金 605,814百万円 605,814百万円 605,814百万円
有利子負債 6,630,023百万円 5,596,051百万円 4,730,885百万円
自己資本比率 28.40% 29.50% 29.20%
ROA(総資産利益率) 2.88% 2.83% 2.87%
ROE(自己資本比率) 9.98% 9.64% 9.95%
総資産経常利益率 4.37% 3.83% 4.43%
総資本回転率 0.67 0.71 0.75
売上高経常利益率 6.0% 5.0% 5.0%
出典:有価証券報告書
富士重工業(株)
2015年3月期 2014年3月期 2013年3月期
売上高 2,877,913百万円 2,408,129百万円 1,912,968百万円
営業利益 423,045百万円 326,489百万円 120,411百万円
経常利益 393,648百万円 314,437百万円 100,609百万円
当期利益 261,873百万円 206,616百万円 119,588百万円
EPS(一株当たり利益) 335.57円 264.76円 153.23円
調整一株当たり利益
BPS(一株当たり純資産) 1,310.15円 980.98円 762.87円
総資産 2,199,714百万円 1,888,363百万円 1,577,454百万円
自己資本 1,022,417百万円 765,544百万円 595,365百万円
資本金 153,795百万円 153,795百万円 153,795百万円
有利子負債 211,192百万円 269,654百万円 307,157百万円
自己資本比率 46.50% 40.50% 37.70%
ROA(総資産利益率) 12.81% 11.92% 8.16%
ROE(自己資本比率) 29.29% 30.36% 22.87%
総資産経常利益率 19.26% 18.15% 6.87%
総資本回転率 1.3 1.28 1.21
売上高経常利益率 12.6% 13.0% 5.3%
出典:有価証券報告書

まずはこの表からは分からない情報から書きます。

各社の会社予想のクセですが、各社とも保守的な傾向にあります。ただしその中でもトヨタはずば抜けて保守的な予想をしており、結果的に強気予想となってしまったのは過去15年間の中でたった1回だけです。

日産も保守的ですが、トヨタに比べると強気予想が目立ち、4割くらいは強気予想となってしまっています。富士重工も保守的ですが、トヨタ程保守的ではなく、日産ほど強気予想の回数は多くありません。

また、各社の利益の出し方は特定の四半期に偏ることはありませんが、トヨタについては、毎年第4四半期の利益が、他の期に比べて弱いようです。

また、この3つの中で、富士重工だけがネットキャッシュ、つまり手元資金があります。

さらに、この3社のネットDEレシオですが、トヨタが1.0、日産が1.3、富士重工が-0.1です。

このことから、トヨタは自己資本で負債をカバーできる状態、日産は自己資本よりも負債の方が大きい状態、富士重工は自己資本で負債をカバーできるだけでなくおつりがくる状態、つまり現預金が多いキャッシュリッチ企業であることが分かります。

また、EV/EBITDA倍率はトヨタが9.0、日産が8.5、富士重工が4.9です。このことから、富士重工は利益を非常によく稼ぎ出していると言えます。

では、表を見ていきましょう。見ていくのは、表の中の最新の期である「前期」の部分です。

まずは自己資本比率をチェックしましょう。

トヨタは35.2%、日産は28.4%、富士重工が46.5%となっています。一般的に自己資本比率は20~39%が普通ですので、トヨタも日産も普通レベルであることが分かります。

一方富士重工は46.5%ですので倒産しにくい優良企業であることが分かります。

また、トヨタの有利子負債は他の2つと比べて図抜けて大きく、19兆円近くあることが分かります。

次に総資本回転率を見てみましょう。自動車製造業全体の総資本回転率は、帝国データバンクの全国企業財務諸表分析統計(第56版)によれば、2012年4月期~2013年3月期までの間で、1.26回であることが分かります。

それに比べると、トヨタは0.57回、日産は0.67回で平均よりはるかに低く、富士重工が1.3回で平均と同等かそれより良いことが分かります。

総資本回転率については、巨額の設備投資が必要な会社は数値が低くなる傾向があります。トヨタも日産も、設備投資に多額の資金をかけている可能性が考えられます。トヨタや日産に比べ、富士重工は身軽で効率的な経営をしていると言えるでしょう。

売上高経常利益率について比べてみましょう。トヨタは10.6%、日産が6.0%、富士重工が12.6%です。日産がだいぶ低いことが分かり、事業全体の収益力に課題があると言えます。

トヨタに関しては売上高経常利益率は次第に改善していることが分かりますが、日産については改善のスピードが遅いことが見てとれます。

注目したいのは富士重工です。富士重工については、3期前までの売上高経常利益は日産と同程度で5.0%でした。しかし、2期前に一気に改善し、13.0%になっています。これは何故なのでしょうか。

経常利益のところで書いたとおり、経常利益には為替差益が含まれます。富士重工はもともと北米での売上が高い会社です。日本国内以上に北米で自動車が売れており、北米での売上台数はここ数年で1.5倍以上に増加しています。

そこに、急速に進んだ円安が加わり、大きな為替差益を生んだのです。そのため、富士重工の経常利益が一気に改善したのです。

このように3社の財務内容を比べることで、各社の特徴が見えてきます。

トヨタは売上も負債も規模も巨大で、その分経営効率に課題があることが分かりますし、日産については経営効率や事業全体の収益力に課題があると考えられます。

富士重工はトヨタや日産に比べると小さな会社ですが、自己資本比率も高く、キャッシュリッチな優良企業であることが分かります。また、円安基調の時には大きな利益を生み出しやすい体質であることが分かりますが、円高基調の時には課題が残るかもしれません。