信用取引はこのように行われている

信用取引は下げ相場でも利益が取れる空売りや、少ない資金の時にレバレッジをかけることで株を買える信用買いの他に、別の目的でも利用されています。

それは、「保有している株式の値下がり損をカバーする」という目的です。

権利取りのところでも説明したつなぎ売りがまさにそれに当たります。

株を取引してる時に、株価が下がることが予想されるにも関わらず、すぐに売却できない場合があります。そんな時に、同じ銘柄を信用取引で空売りし、買いで出る損失を相殺させるのです。

この空売りがつなぎ売りです。

また、信用取引には、市場での取引量を増やし、株を流動化させることで、株価の乱高下を防ぎ、市場価格を安定させる効果があります。

しかし、信用取引が過度に利用されてしまうと、相場が過熱し、株価の変動は激しくなります。これを抑制するために、規制措置がとられます。

規制措置は、新規約定分のみを対象としています。主な規制には、委託保証金率の引き上げ、代用掛け目率の変更、信用取引の売買制限・禁止などがあります。

また、日本証券業協会では、信用取引の過度の利用を防ぐため、ガイドラインに基づいて日々公表銘柄を指定し、信用取引の残高(売り残、買い残)を毎日公表しています。

また、証券金融会社は、特定の貸借銘柄に取引が集中した場合は注意喚起通知を行います。それでも改善されない場合には、証券会社に対して、貸借取引の申込制限・停止を実施します。

証券取引所は、注意喚起通知が実施された銘柄を「貸株注意喚起銘柄」、貸借取引の申込制限・停止が実施された銘柄を「貸株申込制限銘柄」として、信用取引の残高(売り残、買い残)を毎日公表しています。

このように信用取引は相場が過熱しすぎないよう、防止策が取られているのです。

また、信用取引では買い方、売り方が不当な利益を得ることがないよう、制度信用銘柄の買建玉または売建玉に、権利(新株引受権の付与、配当など)が発生した場合、権利処理と呼ばれる適正な処理を行います。

この処理は、貸借銘柄の株主である証券金融会社が、証券会社を通して買い方・売り方に行っています。証券金融会社は株を発行している会社から権利を受け取り、権利処理価格を決定したうえで、権利処理を行うのです。

さらに、株式分割などで新株引受けの権利が発生した場合、証券金融会社はこの権利を売却処理し、換算します。

証券金融会社は、権利引受を希望する買い方からの申し込みを受け、その残りを競争入札方式で売却します。この落札価格により権利処理価格を決定し、売り方から徴収し、買い方に支払うのです

買い方は、資金を借り、株式を所有しているため、権利を受取ることになります。これは、株の購入価格から、権利処理価格を差し引く方法で処理を行います。

売り方は、売却している株式の配当が支払われると権利落ちとなり、株価は配当分だけ下がると考えられます。そのため、売り方は権利処理価格を支払います。株の売却価格から、権利処理価格を差し引く方法で処理します。

信用取引の委託保証金のルール

委託保証金は、証券会社が取引の安全を図ることを目的に、顧客から預かるお金です。

顧客は借りた資金や株式を返すための保証として、売買約定日の翌々日の正午までに、証券会社に委託保証金を差し入れます。

なお、委託保証金は割合が定められており、約定価額の約30%以上とされています。これを、委託保証金率といいます。

また、委託保証金には割合のみならず金額にも基準があり、委託保証金の最低額は30万円と決められています。取引に必要な委託保証金が仮に30万円未満だったとしても、30万円の証拠金が必要です。

ちなみに、委託保証金率および最低額を上回る部分については、委託保証金を引き出すことができます。

また、委託保証金の最低維持率は20%で、これを下回った場合は追加保証金(追証)が必要になります。

代用有価証券と掛目

信用取引の委託保証金は、現金以外に有価証券で代用することもでき、これを代用有価証券といいます。

代用有価証券は、それぞれ掛け目と呼ばれる現金換算率が定められています。主な有価証券の掛け目についてですが、国債は95%以下、政府保証債は90%以下、地方債・社債と金融債は85%以下です。また、上場銘柄と店頭取引銘柄は80%以下となります。

なお、代用有価証券が値下がりしたために委託保証金率が20%未満となった場合、現金同様、追加保証金の差し入れが必要となります。

信用取引の決済方法は2つある

信用取引では資金や株券を借りますが、これらは予め定められた期限に決済(返済)しなければなりません。この決済は、差金決済と実物決済のどちらかの方法で行われます。

差金決済は、反対売買し、その差額を受け渡す方法です。実物決済は、証券会社から借りていた資金や株式をそのまま返済する方法です。信用取引では、通常、差金決済で行われます。

差金決済では、反対売買をしますので、信用買いの場合は担保にしている株を売却します。空売りの場合は、担保にしている売却代金で株を買戻します。このように反対売買をすることで発生する損益を顧客と証券会社との間で行います。

一方、実物決済は、証券会社から借りていたお金や株式をそのまま返済しますが、このことを、現引きや現渡しと言います。現引きとは信用買いのために借りた買い付け代金相当の現金を証券会社に渡し、担保にしている株を受け取ることです。

現渡しは、空売りのために借りた株券と同じものを同じ数量証券会社に渡し、担保にしている売却代金を受け取ることをいいます。

信用残とは

信用残とは正式には信用取引残高と言い、信用取引の売買の残高の合計のことです。信用残は株価に影響を与えます。

信用取引には6ヶ月以内に決済しなければならないというルールがあります。期間内にまだ決済していない取引の残高が信用残で、買いの場合は信用買い残高(略して買い残)、売りの場合は信用売り残高(略して売り残)と言います。

買い残が多い場合、これらは6ヶ月以内に決済というルールがある以上、いずれ売らなければなりません。これは株価の下落要因となります。反対に売り残は、いずれ買い戻さないといけないため、株価の上昇要因となります。

とはいえ、決済までに6ヶ月という期間がある以上、6ヶ月先までの相場見通しを持って取引していることも考えられます。そのため、買い残の中身が「決済までの6ヶ月の間に株価が上がる」と予想している人が多ければ、買い残は増えてきますし、反対の場合は売り残が増えます。

相場見通しが、「今後しばらく上昇トレンドが続く」というものが多ければ、買い残が増えたところで株価が下がることは必ずしも起きないことになります。決済する人以上に、信用買いを行う人が増えてしまうためです。

もし仮に、大方の相場予想を外し、さほど株価が上がらない場合、決済期日ギリギリまで粘り、信用取引の決済をします。そのため、その場合は決済期日が近づくと決済のための売り注文が増え、株価は下落します。

この買い残と売り残ですが、信用倍率を出す時に使われます。信用倍率とは、信用取引における信用買いと空売りの割合を数値化したもので、信用買い残÷信用売り残という式で算出されます。なおこの式の数値は、日本証券金融から日々発表される「融資・貸株残高」をもとにしています。

一般的には、買い残の方が売り残より多くなるため、1以上の数字になるのですが、下降トレンドの時や、相場が過熱して、これから下がりそうな時は、売り残が増加し、1倍を切ることがあります。

信用倍率とは

信用倍率は、信用買いと空売りの割合を数値で表したもので、信用買いと空売りのバランスが分かります。
信用倍率は、

信用倍率=信用買い残÷信用売り残

という式で算出され、日本証券金融から日々発表される「融資・貸株残高」をもとに計算されます。