がんにかかると、どれくらいの日数の入院治療が必要なのでしょうか?実は、がんの入院は、年々短くなっています。また、入院しないで通院のみで治療するケースも増えています。その理由は、どんなところにあるのでしょうか?

内視鏡手術は入院が短くてすむ

がんの治療は何日の入院をするか、厚生労働省のデータ(患者調査)で、2002年までさかのぼって調べてみました。

図表1 がんの種類別入院日数の推移          単位:日
2002年 2005年 2008年 2011年
胃がん 39.3 34.6 26.8 22.6
大腸がん 34.1 30.7 19.2 17.5
肝がん 30.4 26.9 22.4 18.6
肺がん 39.7 34.1 27.2 21.7
乳がん – – – 11.8

※厚生労働省「患者調査」より

図表1は、がんの種類別入院日数の推移をまとめたものですが、胃がん、大腸がん、肝がん、肺がんのいずれも、入院日数が短くなっていることがわかります(乳がんは過去のデータがないので不明)。

では、どんな理由で入院が短くなっているのでしょうか?大きく2つあると考えられます。

1つ目は、医療技術の進歩です。がんの3大治療は手術、抗がん剤、放射線ですが、いずれの治療も進歩しています。がんの種類や進行具合によって、身体に負担の少ない、つまり入院が短いか入院しないですむ最新の治療を選べます。

手術については、身体をメスなどの器具で切開する場合は、身体の傷が大きくなって回復まで時間がかかるため、入院も長くなる傾向があります。

最近は、技術の発達で腹腔鏡や胸腔鏡など内視鏡を使った手術も増えて、これらの手術を受けた場合は入院が短くなります。

例えば、2011年の患者調査「手術名別にみた手術前平均在院日数・手術後平均在院日数」のデータを見ると、開腹手術の術前入院日数は5.4日、術後入院日数は15.2日であるのに対して、腹腔鏡下手術は術前4.7日、術後9.4日と、術前と術後のどちらも短くなっています。

抗がん剤も放射線治療も短期入院か通院で可能に

抗がん剤治療というと、一般的には長期の入院が必要で、強い副作用に悩まされる印象があります。しかし、最近は新しい薬剤が次々と開発され、副作用が軽くなる傾向にあり、通院での治療が可能になっています。

通院治療で大丈夫かどうかは、最初に、副作用の有無、ある場合は種類や程度などを見極める入院を1週間ほどして判断されます。抗がん剤治療は、医療機関に通院して点滴で受ける、飲むタイプを自宅で服用する、両方を併用する場合があります。

放射線治療も、抗がん剤と同じように、長期入院が必要で副作用が強いイメージがありますが、最近では、治療によっては日帰りや2~3日の入院ですむものがあります。

例えば、定位放射線治療と呼ばれる治療は、がんの病巣に多方面から放射線を集中させる方法で、通常の放射線治療と比べて、周囲の正常組織が受ける放射線量を極端に減少させることができます。治療は、日帰りまたは2泊3日程度の入院ですみます。

医療機関にとっては短い入院の方が報酬は多い

2つ目の理由は、公的医療保険の診療報酬の改訂です。診療報酬とは、国が決めている保険診療の価格で、点数で表されます。

がんに限らず、医療費の多くの部分は公的医療保険と国(税金)から給付されています。高齢化と医療技術の高度化で公的医療保険と国が負担する医療費は増え続けています。そこで、国は医療費を抑えるため、診療報酬を下げる改訂を断続的に行っているのです。

入院に関しての診療報酬は、入院基本料と入院期間による追加料金で構成されています。入院期間によって加算される追加料金は、14日以内の短い入院の方が高い点数となります。

つまり、医療機関にとっては、長く入院させるより、短い入院の方が多い報酬をもらえるということです。

以上のような理由で、がんの入院も短くなっていますが、今後もこの傾向は続くと思われます。

がんにかかったときの医療費の備えができるがん保険は、従来は、入院と手術の保障が中心でしたが、現在のような治療状況では、給付金が出ないこともあります。

そこで、最近のがん保険は、がん治療の変化に対応して、通院のみの治療でも給付金が支払われる内容に変わってきています。