論語には孔子が「四十にして惑わず」と述べられた、と記載されていますが、現代社会では社会人生活も折り返しに差し掛かり、生きがい、家族の生活、そして老後など様々な事について惑い始めるのが40歳代かもしれません。

子曰く、吾十有五にして学に志す、三十にして立つ、四十にして惑わず、五十にし天命を知る、六十にして耳順う、七十にして心の欲する所に従えども、矩を踰えず

出典:論語

仕事や家族生活は充実してはいますが、このまま賃貸物件に住み続けるのが懸命な選択か迷い始めた人は意外と多いのではないでしょうか。

本稿では40歳を超えて住宅ローンを組もうと検討し始められた方に向けて、注意点やチェックポイントをまとめ、解説していきます。

 

40歳代でも住宅ローンに申し込めます!

40歳を超えてから住宅を購入しようとかと検討を始めた時にまず気になるのが、住宅ローンは組めるのかどうかですね。まずは申込み条件を確認してみましょう。

以下の表は主要なネット銀行の申し込み条件をまとめたものです。
 

住宅ローン名 年齢下限 年齢上限 完済時年齢
auじぶん銀行 18歳以上 65歳未満 80歳の誕生日まで
SBI新生銀行 20歳以上 65歳以下 80歳未満
ソニー銀行 20歳以上 65歳未満 80歳の誕生日まで
イオン銀行 18歳以上※ 71歳未満 80歳未満
住信SBIネット銀行 18歳以上 65歳以下 80歳未満

上記の表の通り、ネット銀行では、「70歳(イオン銀行の71歳未満)」までであれば住宅ローンに申し込みが可能な商品が存在しています。

仮に80歳までに全ての返済を終わらせられるとすれば、定年退職後でも住宅ローンが組める可能性があります。

ちなみにフラット35の申込者の年齢制限は70歳未満ですが、親子リレー返済というコースであれば70歳以上でも申し込みが可能です。

 

40歳代で住宅ローンを組む人は意外と多い

70歳まで申し込める住宅ローンがあるのは、人生の後半に差し掛かってからも住宅ローンを組みたいというニーズが一定数あることの現れでしょう。

実際に40歳、50歳、60歳を過ぎてから住宅ローンを組むのは決して珍しくはありません。

下記の図はフラット35を運営している住宅金融支援機構が公表しているデータです。

金融機関から買取り又は付保の申請があった案件(借換えに係るものを除く。)で、2017年4月1日から2018年3月31日までに買取り又は付保の承認を行ったもののうち、集計可能となった77,964件(2018年4月16日現在のデータに基づく)

出典:住宅支援機構の2017年度集計表 調査の概要

2017年に集計可能となった約7.8万件のデータによると、40歳代が25.1%、50歳代が10.8%、60歳代が7.0%と40歳超の申込者が全体の42.8%と半数近くいることがわかります。

どのタイミングで住宅を購入するかは個人差があり、住宅ローンはどの年齢の人にも広く利用されていることがわかります。

ちなみに、2017年の平均(歳)は40歳ジャストだったようです。平均寿命が伸び、晩婚化、退職後の再就職が一般化した昨今、40歳を超えてから新規で住宅を購入するのは珍しいことではなくなっています。

ただし、住宅金融支援機構が公表している5歳区切りの詳細データを見ると、40歳代前半が40歳代後半の倍近く(つまり後半になると半減して)いることが見て取れます。

世間のトレンドとしては40歳代前半を一つのピークとして申込者が減少する傾向にあるようです。

 

年齢区分 申込者数 割合
~24歳 1,757 2.30%
25~29歳 9,406 12.10%
30~34歳 17,353 22.30%
35~39歳 16,085 20.60%
40~44歳 12,083 15.50%
45~49歳 7,448 9.60%
50~54歳 4,807 6.20%
55~59歳 3,581 4.60%
60~64歳 2,626 3.40%
65歳~ 2,818 3.60%
総数 77,964 100%

出典:住宅金融支援機構(2017年)
https://www.jhf.go.jp/about/research/loan_flat35.html

 

みんなはどんな住宅を購入してるの?

ちなみにですが、どのような物件を購入しているかというと、戸建てが8割弱、マンションが2割強という結果でした。

せっかく家をかうなら戸建てが良い、と考える人が多いのかもしれません。

住宅タイプ 内訳
注文住宅 17.5%
土地付き注文住宅 31.9%
建売住宅 20.2%
中古戸建て 7.8%
新築マンション 10.5%
中古マンション 12.2%

出典:住宅金融支援機構のデータを元に一部を加筆

 

戸建て物件のメリット

  1. 管理費用、修繕費が不要
  2. 築年数が深くなっても土地の試算価値があるため、値崩れがマンションほどではない
  3. 集合住宅にくれべてプライバシーがあり、騒音の問題も少ない
  4. 建て増し、建て替えが自由に行える

 
同等の立地条件であれば、集合住宅より戸建て物件のほうが割高ですが、それでも人気があるのはこれらのメリットに魅力を感じる人が多いからでしょう。

 

まずはライフプランを明確にしよう

「一戸建て」であれ「マンション」であれ、「新築」であれ「中古」であれ、どのような家を購入するのがベストなのかは、どんなライフプラン(人生設計)を思い描くかによって自ずと決まってくるでしょう。

まずは可能な範囲で明確なライフプランを夫婦間・家族間で話し合うとよいでしょう。

趣味や旅行などの娯楽にどれぐらいお金を使いたいか、自炊の水準や外食の頻度、子供の人数やどういった教育方針で育児するか、通勤時間と住居環境(間取りや周辺の環境)のバランス、共働きするか、、、などなど、どのような生活を実現したいかをある程度把握しておく必要があります。

40歳代で住宅を購入するのであれば、親の介護の問題についても話し合っておきましょう。状況によっては2世帯住宅というオプションもあり得ます。

また、自分たちの老後についても具体的なレベルで話し合っておく必要があります。

定年退職後も仕事を続けるのか、退職金や年金はどれぐらいもらえるのか、どのような老後を過ごしたいのか、夫婦間でそれぞれの希望を確認しておきましょう。くと

自動車の維持や子供の教育、親の介護など、時期によっては一気に支出額が増える項目もありますから、将来の支出を見込んで貯金しておく必要性も出てきます。

家族の中で実現したいことの優先順位を明確にしておくと、限られた予算を有効に使えます。

優先順位が明確にすると、我慢するところは我慢し、エンジョイするところはエンジョイするという方針が具体的に見えてきます。

そうすることで、あらゆる支出項目の間での予算配分やキャッシュフローのバランスをより最適化でき、無理のない収支計画が立てやすくなり、バランスが取りやすくなるはずです。

 

なぜ家を買う?(目的を明確化しよう)

住宅はとても大きな買い物ですから、一時の感情で決めるのでなく、目的を明確化し、その目的にあった物件を購入すべきです。例えば、今まで賃貸物件に住んできたのに、なぜ家を買うのでしょうか?

例えば次のような理由が考えられるかもしれません。

  • 現在の住宅が狭いから(家族や同居する世帯が増えたなどの理由で)
  • 結婚などの理由で世帯を分けるため
  • 家賃が高いから(持ち家のほうが費用を抑えられると考えるため)
  • 通勤、通学の良い立地を求めて
  • 良い近隣環境を求めて
  • 住宅が老朽化

購入する住宅はそれぞれの理由にあった住宅である必要があります。

例えば、市場価格に比べて割安だからという理由だけで、目的にそぐわない家を買ってしまうと後悔することになってしまいかねません。

 

予算の上限を決める

自分の年収に見合った返済計画が立てやすい範囲内で予算の上限を決めましょう。

身の丈に合わない金額のローンを申し込んでも審査が通らないかもしれませんし、審査が通っても返済に苦労します。

予算の上限を決める上で目安になるのがフラット35が開示している「返済負担率」という数値です。

 

フラット35の返済負担率

フラット35は借入可能な住宅ローンの金額をこの返済負担率という数字を用いて開示しています。ちなみに返済負担率とは、年収に対して毎年の住宅ローン返済額がどれぐらいの比率であるかを表す数値です。

年収 400万円未満 400万円以上
返済負担率 30%以下 35%以下

フラット35が公表している貸付上限額は、年収400万円未満の場合は返済負担率が「30%以下」、年収400万円以上の場合は返済負担率が「35%以下」となっています。

つまり、年収600万円の場合、返済負担率が35%ですから、年間の返済額が210万円に収まる範囲であれば自由に住宅ローンの金額を設定できるというわけです。

この基準をもとに、簡単なシュミレーションを行って、それぞれの年収におけるフラット35が開示ている貸出上限額を計算してみましょう。

年間の返済額から住宅ローンの上限額を割る出すためには、住宅ローンの貸出条件を仮定する必要がありますので、ここでは以下のように設定します。

前提条件
  • 元利均等返済
  • 固定金利2%
  • 30年ローン
  • ボーナス払いは利用しない

 

年収 返済負担率 年間返済額 借入限度額 月額返済額
300万円 30%以下 90万円 ¥20,291,200 ¥75,000
400万円 35%以下 140万円 ¥31,564,000 ¥116,667
500万円 35%以下 175万円 ¥39,455,000 ¥145,833
600万円 35%以下 210万円 ¥47,346,000 ¥175,000
700万円 35%以下 245万円 ¥55,237,000 ¥204,167

例えば年収600万円の場合、前述の通り返済負担率の上限は35%ですから、年間の返済額が210万円以内となる金額まで住宅ローンを組むことが可能です。

年間の返済額が210万円となる住宅ローンは割り出すと、47,346,000円となります。つまり、約4,730万円が、年収600万円の方が借入できる最大の額となります。

年間の返済額が210万円ということは、1ヶ月当たりの返済額が17.5万円となりますから、約4,730万円の住宅ローンを組むと、毎月17.5万円の返済を30年間続ける必要があります。

(※借入可能な住宅ローンの最大額は、「金利」や「借入期間」などの前提条件が変わればその数値に合わせて前後します)

 

無理のない返済計画

シュミレーションを行って冷静さと現実的な感覚をキープする

住宅の購入は大きな買い物であり、一部の例外を除き、ほとんどの人にとって未体験なイベントです。

不慣れなイベントでありながら、夢や希望が現実化するという高揚感によって一時的にテンションが上ってしまい、冷静さを保つのが難しくなりがちです。

金額は日常生活で取り扱う金額の数十倍・数百倍の規模になり、返済期間も20年・30年と長期に渡るので、現実的な感覚を失い、さらに冷静さも失ってしまえば、正しい意思決定をするのは困難でしょう。

冷静さと現実的な感覚を保ちながら意思決定をすることがとても大切です。

「頑張れば返却できそうだ」という楽観的な希望的観測だけではとても危険です。そのためには、シュミレーションを行うと良いでしょう。

シュミレーションといっても大仰なものではありません。毎月の家計簿がどうなるかを想像するだけです。

ローン返済が完了するまでの期間、家計簿がどのようなものになるかを具体的な数字を当てはめながら計算していくのです。

このシュミレーションを行うに際して、今まで一度も家計簿をつけたことのない人は、まずは今現在の家計簿をつけてみましょう。

家計簿をつけると色々は発見があるはずです。思いがけない出費があちらこちらで生じているかもしれません。

日常生活には様々な出費の機会があり、日常生活では想像以上にお金を使っているものです。

こうして現実的な感覚を再確認し、その感覚でローン完済までの家計簿を想像しながらつけてみましょう。

ライフステージの変化に伴い、出費や収入の内容も変化していくでしょう。お子さんの大学進学にともない一時的に教育関連の出費が増加したり、ご両親の介護関連での出費や、退職後の夢だった世界一周旅行に出るかもしれません。

定年退職を迎え、再就職したり、年金生活に突入、、、。現在どのような生活をしており、今後どのような生活になるかを想像しながら、それらに関するお金の出入りを計算してみましょう。

シュミレーションのサンプルがありますのでこちらの記事もご参照ください。
年収600万円の住宅ローン。いくらまでなら借入可能?

 

頭金を用意しよう

40歳代で住宅ローンを組むのでしたら、一定額以上の頭金を用意するとよいでしょう。

住宅金融支援機構の調査によると、2017年にフラット35に申し込んだ人の大半が頭金を用意しています。

住宅を購入する際の手持の資金として平均で447.3万円(中央値は271万円)所持し、それらの費用を頭金や諸経費の支払いに当てていたようです。

また、住宅ローンを利用する場合、頭金を物件取得価格の1割以上用意すると金利が下がるケースが多く存在します。

さらに、審査の通りやすさでも、フルローン(住宅購入価格の全額のローンを組む)より、頭金を用意したほうが良いと言われることもあるようですから、ある程度の資金を用意しておくと良いでしょう。

 

何年のローンを組むべきか

40歳代でローンを組む際に最も慎重に判断しなければならないのは、定年退職後も返済を続ける形でローンを組むかどうかです。

例えば、現在45歳のサラリーマンの方で定年退職が60歳の場合は、安定した給与所得が見込める期間は15年です。

退職後に年金でローン返済を継続しようと計画していたとしても、年金の支給が開始される67歳まで7年(法律が改定されればさらに長くなる可能性があります)をなんとか凌がなければなりません。

定年退職後に働ける職場を得られるでしょうか? もしくは定年退職後も継続して働く意志をお持ちでしょうか?

それらの可能性を総合的に考慮してから借入期間を決定する必要があります。

昨今の銀行間における貸出競争の中で、返済完了時の年齢制限が80歳にまでへと引き上げる銀行があらわれ、多くの銀行がこの先導者に追随しました。

ただし、銀行が貸出を制限しないからといって安易に80歳までの返済計画でローンを組むことは注意が必要です。

 

実質的な返済期間は短い

繰り上げ返済を利用する家庭は非常に多く、実質的な返済期間は短くなっています。

以下は住宅金融支援機構が公表した「約定時の貸出期間」と「完済時の経過期間」です(2017年調査実施)。

「約定時の貸出期間」とは、住宅ローンの契約が締結された時点の貸出期間です。

20年以下の返済期間でローンを組んでいる人は全体の15%程度で、大半が20年を超える期間のローンを組んでいることがわかります。平均の契約期間は26.4年です。

「完済時の経過期間」とは、住宅ローンの返済を終えるまでに経過した期間のことです。10年以下、15年以下で完済している割合が多く、平均は15.2年でした。

 

約定時の貸出期間 完済時の経過期間
10年以下 0.4% 25.9%
15年以下 3.8% 39.2%
20年以下 11.9% 13.3%
25年以下 21.2% 13.3%
30年以下 41.9% 8.4%
35年以下 20.8%
平均 26.4年 15.2年

上記の表を見れば、約定時と完済時で大きくローン期間が異なることがはっきりと見て取れます。

このデータから推測できることは、繰り上げ返済を実施しているケースが大半である点です。

住宅ローンを申し込む時点では、長期間で返済する「ゆったりめの計画」を立て、実際に融資を受けた後は繰り上げ返済を実施して予定より大幅な短期間で完済する、というのが世間一般のトレンドのようです。

大半の家庭ではゆったり目の計画を立てて融資を受けた後は堅実に返済を進め、契約期間より大幅に短縮した期間で完済しているため、返済可能と思われる金額を超過して住宅ローンを組むことは世間のトレンドからも逸脱する、ということですね。

ゆとりをもって住宅ローンを利用するからこと想定外の臨時支出などにも対応できるようになり、より安心して老後を迎えられるのだと考えられます。

 

退職金を活用する

退職金を住宅ローン返済に割り当てられる場合は、その資金を使って住宅ローンの繰上返済をすることも考えられます。

繰り上げ返済を行うのであれば、繰上返済の手数料が安い金融機関を使うことがおすすめです。

銀行名 一部繰上返済手数料 全額繰上返済手数料
auじぶん銀行 0円 変動金利適応中 ⇒ 0円
固定金利適応中 ⇒ 33,000円(税込)
SBI新生銀行 0円 0円
ソニー銀行 0円 0円
イオン銀行 0円 54,000円(税込)
住信SBIネット銀行 0円 変動金利期間中 ⇒ 0円
固定金利特約期間中 ⇒ 32,400円(税込)

これらの点を考慮しながら、設定するローン年数を検討しましょう。

一般論としては、定年退職までに返済を終わらせるのが安心です。

 

その他の出費にも備えよう

住宅は購入して終わりではありません。その他諸々の諸経費が発生します。
 

住宅以外で発生するその他の支出項目

  • 諸経費(登記、ローン手数料)
  • 保険(団信、火災保険、など)
  • 固定資産取得税
  • 修繕管理費(戸建ての場合はメンテナンス費用)
  • 耐久消費財の購入(家具や車など)
  • 老後の資金

 
耐久消費財とは、家具類、電化製品(家事用器具、冷暖房、照明器具など)、教養・娯楽設備、自動車・バイクなどが主な出費項目です。

大半の家庭では新居への引越に際して耐久消費財の購入(買い替え、買い増し)を実施しているようで、住宅金融支援機構の調査(※)によれば、1世帯あたり127.4万円を耐久消費財の購入に割いているようです。

老後の資金についても注意が必要です。40歳を超えてローンを組むのであれば、自分たちの老後についても明確な資金計画を立てておく必要があります。

※住宅取得に係る消費実態調査(2014年度)

 

まとめ

40歳を過ぎても多くの人が住宅ローンを組んで住宅購入をしています。

しっかりとした返済計画があれば定年退職までの期間が短かったとしても問題なくローンを完済することができるでしょうから、まずは自身のライフプランを見つめ直してしっかりとした返済計画を立ててみましょう。