年収600万なら、いくらの住宅ローンを組めばいいの?

賃貸物件に住んでいる夫婦や家族が様々な理由で「家の購入」を検討しはじめた時、まず何から始めれば良いのでしょうか?

  • 住む地域は?
  • 都市部 or 郊外
  • 一戸建て or マンション
  • 新築 or 中古

など、それぞれのメリット・デメリットを比較検討したり、どのような選択肢があるか模索し始めるかもしれません。

ですが、まずはじめに決めておくべきことは、「予算の上限をいくらに設定するか」ということでしょう。予算の概算がわからなければ、具体的に家探しをすることはできませんね。

予算の枠の中でどのような選択肢があり、自分たちに適した物件はどのようなものなのかを絞り込んでいくとスムーズに意思決定ができるはずです。

では、どうやって「予算の上限」を設定すればよいのか?

本稿では「年収600万円の家庭」にとって「最適な住宅ローンの金額」はいくらなのかを、シュミレーションを通じて具体的に考察してみたいと思います。

ステップは3つです。

  1. 明確なライフプランを思い描く(家庭内で話し合い)
  2. 具体的な数字を使ってシュミレーションする
  3. シュミレーションをもとに、適正な住宅ローンの金額を弾き出す

サンプルとして年収600万円の家庭を使っていますが、年収が異なる家庭でも参考にしてみて下さい。

この3つのステップはどのようなご家庭でも、適正な住宅ローンの金額を弾きだすために役立つはずです。

 

金融機関の貸出上限額って?

住宅を購入するための予算を設定する際にまず気になるのが、金融機関が貸し付けを行うローンの上限額がどのように設定されるかですね。

そもそも金融機関が設定している貸付上限額を超えてお金を借りることはできませんから、この数字をまず把握しましょう。

貸し付けの上限額は金融機関や商品によって差があると言われています。例えばネット銀行では数百万円~1億円の範囲内で貸付を行うと明示しています。

金融機関名 融資額
auじぶん銀行 500万円以上~2億円以下
SBI新生銀行 500万円以上~1億円以下
ソニー銀行 500万円以上~1億円以下
イオン銀行 200万円以上~1億円以内
住信SBIネット銀行 500万円以上~1億円以下

ただし、この数字はあくまでもこれらの金融機関が取り扱う商品としての住宅ローンの限度額であって、ふわっとした参考値でしかありません。

上限額が1億円の商品だからといって、だれでも1億円をすっと借り入れできるわけではありません。融資を受ける人の与信に見合った金額の範囲内で住宅ローンの金額が決まってきます。

住宅ローンを実際に借りるためには、各金融機関が設定した審査基準を満たす必要があります。

年収と不釣合いな金額の住宅ローンを申し込んだ場合、貸し付けた金額の全てを返済する見込みがないと判断され、審査に落とされてしまいます。

住宅ローンの審査

つまり、ご自身の収入に見合った金額の範囲内で予算を設定しないと、実際に住宅ローンを借りることはできません。

ただし、どれぐらいの収入に対してどれぐらいの住宅ローンを組めるかといった具体的な基準となる数値を公開している金融機関は多くありません。

そこで目安にしたいのがフラット35が開示している基準です。フラット35は「返済負担率」という数値をベースにした融資可能な金額の上限を公開しています。

 

フラット35の返済負担率

フラット35は借入可能な住宅ローンの金額をこの返済負担率という数字を用いて開示しています。

この「返済負担率」とは、年収に対して毎年の住宅ローン返済額がどれぐらいの比率であるかを表す数値です。

年収 400万円未満 400万円以上
返済負担率 30%以下 35%以下

フラット35が公表している貸付上限額は、年収400万円未満の場合は返済負担率が「30%以下」、年収400万円以上の場合は返済負担率が「35%以下」となっています。

つまり、年収600万円の場合、返済負担率が35%ですから、年間の返済額が210万円に収まる範囲であれば自由に住宅ローンの金額を設定できるというわけです。

この基準をもとに、簡単なシュミレーションを行って、それぞれの年収におけれフラット35が開示ている貸出上限額を計算してみましょう。

年間の返済額から住宅ローンの上限額を割る出すためには、住宅ローンの貸出条件を仮定する必要がありますので、ここでは以下のように設定します。

前提条件
  • 元利均等返済
  • 固定金利2%
  • 30年ローン
  • ボーナス払いは利用しない
年収 返済負担率 年間返済額 借入限度額 月額返済額
300万円 30%以下 90万円 ¥20,291,200 ¥75,000
400万円 35%以下 140万円 ¥31,564,000 ¥116,667
500万円 35%以下 175万円 ¥39,455,000 ¥145,833
600万円 35%以下 210万円 ¥47,346,000 ¥175,000
700万円 35%以下 245万円 ¥55,237,000 ¥204,167

例えば年収600万円の場合、前述の通り返済負担率の上限は35%ですから、年間の返済額が210万円以内となる金額まで住宅ローンを組むことが可能です。

年間の返済額が210万円となる住宅ローンは割り出すと、47,346,000円となります。つまり、年収600万円の方が借入できる最大の額は約4,730万円となります。

年間の返済額が210万円ということは、1ヶ月当たりの返済額が17.5万円となりますから、約4,730万円の住宅ローンを組むと、毎月17.5万円の返済を30年間続ける必要があります。

(※借入可能な住宅ローンの最大額は、「金利」や「借入期間」などの前提条件が変わればその数値に合わせて前後します)

 

ローンの上限額まで借り入れすることはオススメできない!?

ネット銀行が開示している貸付の上限額が1億円であり、フラット35が開示している貸付の上限額が年収400万円未満の場合は返済負担率30%以下、年収400万円以上の場合は返済負担率30%以下であることを見てきました。

フラット35の基準で考えると、年収600万円の場合の借入上限額は、1ヶ月当たりの返済額は17.5万円となる住宅ローンでした。

ですが、この上限額まで借入を申し込むことが賢明であるかどうかは、別の話です。

貸してもらえるからといって、返済するだけの甲斐性がないのに借入してしまったり、返済を続ける為に爪に火を灯しながらなんとか借金を返す、、、という人生になってしまっては元も子もありませんね。

そうならないためには、もう少し具体的にシュミレーションする必要があります。

 

年収600万円の可処分所得(手取り)は約450~480万円

では、具体的に年収600万円の家庭の家計がどのような状況であるか把握し直してみましょう。

家計簿をつける習慣がない家庭では現状把握できていないケースが多々あるようですから、ここでおさらいしてみましょう。

額面上で600万円の年収がある場合、可処分所得(手取り)はどれぐらいになるのでしょうか。

可処分所得とは、所得税や地方税などの直接税と、厚生年金保険料や健康保険料などの社会保障費を差し引いた残りの金額のことで、手取りとも言われます。

同じ年収だったとしても、家族構成、勤務形態、住む自治体などの変化によって「課税所得」「負担する社会保障費等」が異なりますから、手取りの金額は上下します。

一般的には税引前年収から20~25%差し引いた金額と言われていますので、年収600万円の場合の手取りは「450~480万円」と考えられます。

手取り年収が「450~480万円」の場合、1ヶ月あたりの可処分所得は「37.5~40万円」です。

※計算を簡易にするためボーナスの有無を度外視して1ヶ月あたりの金額に均しています。

 

可処分所得の4割以上の金額が住宅ローン返済に

もし、年収600万円の人が、借入可能な上限額で住宅ローンを組んだ場合、年間の返済額は210万円。

年収600万円の場合の手取りは「450~480万円」ですから、240~270万円でやりくりしなければなりません。

月額でいうと20~22.5万円ですから、この金額の中から夫婦の生活費やお子さんの教育費、将来への貯金を捻り出さなければならなくなり、かなりタイトな生活となることが予想されます。

<サンプル>20万円で家族3人が生活した場合
支出項目 金額
食費 5万円
光熱費 2万円
通信費 1.5万円
保険 2万円
教育費 3万円
遊興費* 4.5万円
雑費 2万円
貯金 0円
総額 20万円

*遊興費=家族3人のお小遣い、レジャー費、交際費

贅沢をせず食費や遊興費はかなり抑えめで計算しましたが、これ以上削るのは難しい印象です。

このような倹約した生活をしても全く貯金することができません

せっかく4,730万円もの住宅ローンを組んで立派なお家に住んでいるのに、生活自体はかなり質素なものとなりそうです。

よほど安定した企業に勤務されてない限り毎年給与所得が増加する、と楽観的に考えることはとても危険です。現在の収入の水準でもやりくりできるだろうと思える金額内で住宅ローンを組むようにしましょう。

住宅ローンの返済が厳しくなり、支払いが滞ってしまうと最悪のケースでは競売と任意売却を行わざる得なくなり自宅を失うこともありえますので、なんとかやりくりできるだろうと楽観的な判断で住宅ローンを組むのは厳禁です。

もちろん状況によっては、借入可能な上限額まで住宅ローンを組んでも問題ない場合もあるかもしれません。

例えば、手元に蓄えがあり多少の臨時支出には対応可能、さらに子育てが落ち着つく数年後に共働きを開始する予定があり見込み収入が増えることが明確に分かっている場合は問題ありません。

返済負担率が高かったとしても、それは一時的なことでしょうから、住宅ローンを完済することが可能でしょう。

 

幸福度を最大化させるためのツール

知るべきなのは金融機関がいくらまでなら貸付を行うかではなく、「いくらの住宅ローンを組むめば、家族みんなの人生を最も幸せにすることができるか」ということのはずです。

住宅ローンとは自分自身や家族の幸福度を最大化させるためのツールでしかありません。このツールに振り回されるのでなく、賢く活用できるようになりましょう。

数十年もの間返済し続けなければなならい住宅ローンですから、借入後の家計や生活がどのような状態になるか、具体的にイメージするとよいでしょう。

 

年収600万円の最適な借入額って?

まずはライフプランを明確にしよう

「一戸建て」であれ「マンション」であれ、「新築」であれ「中古」であれ、どのような家を購入するのがベストなのかは、どんなライフプラン(人生設計)を思い描くかによって自ずと決まってくるでしょう。ですから、まずは可能な範囲で明確なライフプランを夫婦や家族間で話し合うとよいでしょう。

趣味や旅行などの娯楽にどれぐらいお金を使いたいか、自炊や外食のバランス、子供の人数やどういった教育方針で育てるか、通勤時間と住居環境(間取りや周辺の環境)のバランス、共働きするか・・・などなど、どういった生活を実現したいかをある程度具体的に思い描いておく必要があります。

子供の教育や親の介護などライフステージによって増減する支出項目だったり、自動車の有無やレジャー(趣味、旅行など)といったライフスタイルに大きく左右される支出項目もあります。さらに家のメンテナンス費用は一戸建てであれマンションであれそれなりに掛かるものです。

少し想像力を働かせるだけで、将来どれぐらいのお金が出ていくのか把握でき、こうすることで、あらゆる支出項目の間での予算配分やキャッシュフローのバランスを取り最適化しやすくなるでしょう。

また、家族の中で実現したいことの優先順位を明確化されていれば意思決定もしやすく、優先順位が明確だからこそ、我慢するところは我慢し、エンジョイするところはエンジョイするという、より潤いのある生活を実現することができるはずです。

 

具体的に計算しよう

住宅の購入を決断する前に、具体的な数字を使って何度も計算(シュミレーション)しましょう。具体的に計算すると、収支計算や項目別の支出割合、さらに見落としがちであった隠れた費用などに気づくことができます。

家を買うということはとても大きなイベントですし、その後の人生や家計に大きな影響を及ぼします。ですから可能な限りの準備を行いましょう。

せっかく購入した住宅でもオーバースペックでは大切な資金の浪費となってしまう可能性もありますし、一方で家族の必要条件を満たさなければせっかくのマイホームでも数年後には引っ越しをするはめになってしまう、ということもあり得るかもしれません。

できるだけ具体的に考えましょう。もちろん未来のことは誰もわかりません。考えてもどうにもならないこともあります。そうだとしても、可能な範囲で考える努力をしましょう。

また、「冷静さを保つ」ということも大切です。不動産を購入する時は、得をしようと欲張らず、失敗を防ぐことを第一に心がける事が肝要です。

「得をしたい」と過剰に欲が先行してしまう時、人は冷静さを失い正しい判断を下すことができなくなってしまいます。

自分たち「家族にふさわしい物件」を「適切な価格」で購入されできればよい、という冷静で賢明なスタンスを心がけるとよいでしょう。

例えば割安と思える物件に出会ってしまうと、「誰かに先に買われてしまうかもしれないし・・・」という不安な気持ちから、冷静さを失いがちです。

不動産の営業マンも、競争心を煽るためからか、他にも関心をもつ人が複数いる旨を匂わせる発言なり行動を取るかもしれません。それでも冷静さを保つことが大切です。

ほとんどの場合、割安な物件には割安な理由があるものです。そういった点を総合的に判断するためには冷静でなければなりません。

具体的なライフプランを思い描き、優先順位を把握し、具体的な数字を使って何度かシュミレーションを繰り返すことで、冷静さを保ち、賢明に判断ができるようになるでしょう。ですから繰り返しシュミレーションすることが大切なのです。

 

シュミレーション

では具体的にシミュレーションをしてみましょう。

ここでは3人家族(夫婦+子供1人)を想定して計算してみます。

前提条件
  • 夫は30歳のサラリーマンで安定収入がある
  • 妻は専業主婦
  • 夫の年収は600万円で公租公課を引いた手取り450万円
  • 年収は増減せず横ばい
  • 30年のローンを組み一戸建てを購入
  • 固定金利(2%)を選択
  • 元利均等返済

 
この条件で2,000万円~4,500万円の住宅ローンを組んだ場合の毎月の返済額や生活費を算出してみましょう。

ローン総額 年間返済額 月間返済額 生活費
4,500 万円 200.4 万円 16.7 万円 20.8 万円
4,000 万円 177.6 万円 14.8 万円 22.7 万円
3,500 万円 156 万円 13 万円 24.5 万円
3,000 万円 133.2 万円 11.1 万円 26.4 万円
2,500 万円 111.6 万円 9.3 万円 28.2 万円
2,000 万円 88.8 万円 7.4 万円 30.1 万円

住宅ローン4,500万円の住宅ローンを組んだ場合の年間返済額は200.4万円で、この額を手取り収入から引くと残高は249.6万円です。

つまりひと月当たりの生活費は20.8 万円となり、この金額で家族3人のすべての支出を賄わなければなりません。

一方で年収600万円の家族が、2,000万円の住宅ローンを組んだ場合、ひと月あたりの生活費は30.1 万円と4,500万円の住宅ローンを組んだ場合に比べて約10万円のゆとりができることがわかります。

少し細かくなりますが、金額が異なる住宅ローンを組んだ場合の「生活費の内訳例」を作成してみました。

同じ年収600万円の家庭でも2,000万円、3,000万円、4,000万円と異なる住宅ローンを組んだ場合に使える生活費が大きく変わってくることがわかります。

住宅ローンの総額
《一ヶ月の生活費》
2,000 万円
《30.1 万円》
3,000 万円
《26.4 万円》
4,000 万円
《22.7 万円》
食費 7 万円 6 万円 6 万円
水道光熱費 2 万円 2 万円 2 万円
通信費 1.5 万円 1.5 万円 1.5 万円
保険* 1.5 万円 1.5 万円 1.5 万円
衣服費・日用品費 3 万円 3 万円 3 万円
教育費 3 万円 3 万円 3 万円
遊興費** 5 万円 4 万円 3 万円
雑費 1 万円 1 万円 1 万円
自動車維持費 2 万円 0 円 0 円
固定資産税 0.8 万円 1.25 万円 1.7 万円
貯金 3.3 万円 3.15 万円 0 円

*「保険」は火災保険、生命保険等
**「遊興費」は家族3人のお小遣い+レジャー費、子供の玩具代など
*** 住宅ローン減税で還付される金額は住宅のメンテナンス費用で相殺されると仮定
****2,500万円、3,500万円、4,500万円の住宅ローンのサンプルは割愛

もちろん、2,000万円、3,000万円、4,000万円で購入できる一戸建てはその間取りや地域などが大きく異なってくるでしょう。

2,000万円のローンを組み住宅を購入した場合は郊外を想定していますので、車が必須となり、自動車維持費が毎月2万円かかると計算しています。

一方で3,000万円、4,000万円の場合は駅近いもしくは公共交通機関がそれなりに利用可能な地域を想定しており自動車維持費はゼロ円です。

水道光熱費、保険、教育費、衣料費・日用品費、通信費、雑費はなかなか削ることが難しいと考えらるので同レベルと仮定しています。

一方、固定資産税、食費、遊興費、貯金のそれぞれの項目で差が出ています。遊興費(お小遣いやレジャー費、玩具代)にそれなりに金額がさけることは生活に潤いを与え、貯金は将来への備えとなります。

4000万円の住宅ローンは厳しい

結論としては、年収600万円で4,000万円の住宅ローンを組むことは倹約した生活を強いられ生活の潤いがない質素なものとなりそうです。将来的に可処分所得が増える見通しがないのであれば、諦めたほうがいいかもしれません。

2000万円~3000万円の住宅ローンはあり

3,000万円の住宅ローンを組んだ場合、かならずしも余裕がある生活とは言えない水準ではないでしょうか。ただ、将来的に共働きを予定するなど世帯収入が増える予定があれば無理なく返済できる水準と思われます。

一方で、2,000万円の住宅ローンを組む場合は、住める地域や間取りなど限定されてしまうかもしれませんが、一方で家族旅行や趣味、習い事などにある程度のお金を使っても問題なく住宅ローンの返済を継続できる水準と言えます。

 

まとめ

いかがだったでしょうか。

ここではシュミレーションを通じて家庭にあわせた住宅ローンの金額を算出する方法を検討してきました。

本稿で取り上げた例はあくまでも簡素化した項目を使ったサンプルですが、シュミレーションするのに必要最低限の項目は抑えてあります。

より緻密なシュミレーションをする必要がある場合はありますが、住宅ローンの利用を検討しはじめた初期段階では緻密な計算でなくても十分な役割を果たしてくれます。

大切なのは住宅ローンを利用した場合の生活や家計の収支をイメージできるようになることです。

もし現在の家計の収支を把握されてないのであればまずは家計簿を取り始めましょう。

細かく家計簿を取る必要はありません。現在どれぐらいのお金をつかってどのような生活をしているかを把握してください。

その知識を使ってシュミレーションをすることでより具体的にイメージできるようになるはずです。