不動産売買の指値注文とは

以前の買付証明についての項でも簡単に解説しましたが、ここでは指値注文について詳しく解説していきます。

通常、お店で物を買うときには価格が表示されていて、会計に持って行ってその分のお金を支払うとその物が手に入ります。この表示されている価格が、不動産物件では売り出し価格ということになります。

さて、コンビニなどの商店であれば、価格を付けて、そのときすぐに売れなかったとしてもお客さんはたくさんいますので、定価程度で売っていればいずれ買うお客さんは現れます。

しかし、不動産は個別性が大きく、欲しいと思う人はもう現れないかもしれません。

また、売り出している売主側も、その売りたい価格、売り出し価格は決めていたとしても、「いずれ」売れればいいと思っているのか、「早く」売りたいのかによってその価格への意識は異なってきます。

売り出し価格を下回る価格であってもすぐに売れるのであればそれでよし。とする売主も少なくはないのです。したがって、買い手側から価格を打診することができます。

このような注文を指値注文と呼び、指値の提示から取引が成立に向かうことも少なくありません。

流動性が小さい、言い換えれば現金化することが難しい不動産では、買いたくても買えない時も売りたいときに売れない場合もあるため、売り出し側だけではなく、買い手側からの価格提示を行うことができるのです。

では、指値注文について少し説明を加えていきます。

指値注文は通常の取引で言えば値切りにあたります。したがって、交渉や駆け引きが必要となり、時間のかかる取引になることは覚えておきましょう。

時間がかかるということは、その周辺環境も変化するでしょうし、その時点でのレントロールが手元にある場合でも、その変化の可能性も視野に入れなければならないということになります。

しかし、値切りを申し出ている以上、売主が物件の持つ潜在的な価値の変化を加味した上で売却に踏み切った場合。わかりやすく言えば物件そのものが変化していなくてもそのキャッシュフローに変化が生じている場合でも購入するのが筋になります。

指値注文によって「安く買える」ことが出来ますが、「安くなったものを掴まされる」場合もあることに注意をしてください。

不動産取引について何についてでも言えることですが、自分の目で判断して、予測し、実行に移すことが大切になります。

さらに、値切る場合でも、単純に「安くしろ」と伝えるだけでは売主も納得するわけがありません。値切るからにはそれだけの理由を用意する必要があります。

例えば、「本来補修すべきところを指摘した上で、現状そのままでの引き渡しを要求する」のも指値注文に含まれます。この場合、補修について相場以下で施工できる見通しがあるならばその分を安く手に入れることができるでしょう。

また、「周辺相場や路線価との比較」も説得力のある指値注文ができるでしょう。売り出し価格が相場よりも高いことを指摘して、その相場程度の指値を主張することができます。

このような説得力があり、その指値についても正当性を認められるようなものの場合には売主も比較的納得いく形での取引になりますのでスムーズに交渉は進んでくれることの方が多いでしょう。

さらに、こちらの事情を正直に説明して売主に対して理解を求める方法もあります。

例えば、銀行融資について自己資本も含めて、ここまでの「金額が限界であることを売主に伝える」という方法もあります。

この方法で注文する以上、ダメ元の交渉にはなりますが、その物件についての熱意をしっかりと伝えて大切に扱うことを約束してしっかりと誠意を見せることができれば売主も悪い気はしません。

同様に、現在出せる「現金での交渉」もできるでしょう。

指値を受け入れてくれる売主は早くに流動性を確保したい人がほどんどです。したがって一括での支払いによる流動性の確保を保証してくれるのであれば多少の値下がりについても目をつぶってくれることが多いのです。

逆に、そもそも指値を受け付けない売主であれば目先の流動性よりも確固たる資産の額について興味があるはずですから受け入れてはもらえないでしょう。

注意して欲しいのは、現金での支払いをする場合にはそれだけ資金がないとできませんし、それを用意する場合の方法もしっかり考えておかないと後々キャッシュフローで詰まってしまう場合があるということです。

もしここで流れがショートする事態になってしまえば、緊急回避的な融資を頼む羽目になるかもしれません。そして、そのような融資の場合には往々にして高金利であることが多いのです。

ところで、これらの方法は売主の心情に訴えかける方法になります。

買主側がその物件を本当に欲しいという熱意を伝え流必要がありますし、その上での取引辞退はあなたの人間性自体を疑われてしまう場合もありますので注意してください。ただでも指値交渉の買主からの辞退は好まれないのに、嘘までついたと思われては心象はこれ以上なく下がってしまいます。

その売主との関係はその物件限りかもしれませんが、物件を紹介してくれた不動産会社にはまたお世話になる機会もあるでしょうし、売主側の仲介をしてくれるのもまた不動産会社になります。

あなたが口先だけで冷やかしの指値を出す人間だと判断されてしまったならば、おそらくはもうまともに取り合ってもらえないか、少なくともお勧めの有利な取引ができそうな物件についての紹介はしてもらえないでしょう。

不動産取引に限りませんが、全ての取引は信頼によって裏打ちされた上での行為になります。

信頼は心情的な部分で、数値化することは不可能ですが、その信頼が実際の取引や利率など、さらには物件を所有した後の入居に関する変動。言い換えればキャッシュフローの根幹について影響を与えるのです。

指値で注文する以上、相手に対して失礼な行為をしているという前提のもと、誠意ある対応を売主だけでなく仲介する不動産会社にも見せることで、その時の指値交渉が不調に終わったとしても、その後の物件取引についての紹介についてはしっかりと信頼できる人間として紹介されて行くことになるのです。

したがって指値交渉は買主の腕の見せ所でもありますし、その物件だけについて安い高いを決定するだけではなく、その後のあなたの不動産投資人生に関わるものであるとの認識で行動する必要があるのです。