さて、ここまで様々な不動産投資に関する要素の説明をしてきましたが、結局不動産投資での成功を収めるにはどのような考え方をすれば良いのでしょうか。

ここではもう一度その注意点や収益を上げるためのコツを整理していきます。

不動産投資の失敗事例

自己資金ゼロのうたい文句に騙されてしまうパターン

何度かキャッシュフローの重要性を説明していますので、もう何を説明するのかはお分かりかもしれませんが、自己資金ゼロの投資は元手がかからない分キャッシュフローに多大なマイナスを与えることになります。

例えば(1−1)の場合3000万円の物件、実質利回り15%の物件を頭金ゼロ、返済期間20年で算出した場合のキャッシュフローになります。

一見文句のない表に見えますが、あくまで数字上のこと。

実はこの物件、実質利回りは高いのですが、その段階での入居者は少なく、さらに、築年数も大きく、家賃を利回り計算で利用した家賃の8割まで値下げしてなんとか入居者を募っている物件でした。

さらに、この物件は人口の大きくない、雪の降る地方にもかかわらず空調設備に問題がある部屋が多く、購入後にその補修点検で200万円ほどの経費が必要でした。

ここまでの情報を加味すると、実際のキャッシュフローは(1−2)のようになり、さらに入居者が元々少ない状況で、なおかつ需要の小さい地方の物件ということになります。

算出上200万円を借入にそのまま含めてしまいましたが、ローン審査後に必要であるとわかった場合にはより金利の高い金融機関からの借入になりますので、実際にはこれよりさらに悪化したキャッシュフローでの運用となります。

もしこれが200万円分を自己資金で賄うことができて、さらに頭金を500万円用意すれば話は大きく変わります。

少なくとも半分を超える入居さえ確保できれば収益を確保できますので、空調を整備した上でその分の入居者の確保を期待していれば済むだけだったのです。

このような失敗を避けるためにはレントロールを事前に確認し、さらに実際にその物件に足を運ぶこと。さらに、気候などを考え、その物件について入居者を遠ざけるような要素はないかを考える必要があったのです。

堅実さゆえの失敗

では、自己資本も含めて堅実であれば良いのかというとやはり状況の変化も加味して判断しなければならない場合もあるのも事実なのです。

(2−1)は物件価格4000万円、実質利回り10%の物件になります。

堅実な仕事をしていたため先ほどより利率も低く、さらにこの物件は利回りは劣りますが入居については近隣都市部のベッドタウンとして安定的な需要が見込める地域にあったため、8割程度の入居が常に見込める物件でした。

なおかつ、購入後はほぼ満室の状態が続いて収益は想定以上になっていました。

したがって、大家としては速やかに借入を解消してしまおうと、購入10年目に繰上げ返済を検討しました。残りの期間を半分にしての返済に変更したのです。

その時点での収支が(2−2)となります。

ここまでの収益もある程度貯金し、多少の持ち出しを覚悟はしていたのでしょう。当然、ローンが終われば悠々自適です。返済に悩まされることもなくなります。が、さすがにこれは危険な賭けでした。

確かに繰上げて返済できればその後は家賃がそのまま収益になります。しかし、10年も5年は決して短い期間ではありません。

ちょうど返済期間を繰上げたのと時を同じくして新築の物件が近隣にできてしまいました。

資金がそこをつくことはなかったにしろ、繰上げ後の5年間で貯蓄に回した分の資金はほとんど底をついたそうです。もちろん、その後は収益を期待できますが、一時的にしろ生活レベルを引き下げざるを得なくなる状況は避けるべきです。

家賃滞納に関する問題

少し特殊な事例を紹介してみます。

今まではキャッシュフローを中心としての失敗例の解説でしたが、最後は家賃滞納についての失敗例になります。ちょうど「リストラ」という言葉が流行し始めた頃の話です。

大手企業の城下町都市にある物件でしたが、当時はまだ景気がそこまで悪くはなく、その企業の社員が多くいたため入居者に困ることもまずありませんでした。
しかし、不景気が進み、大幅なコストカットにより正社員がリストラされ、賃金の安いパートタイム、期間労働者が中心となっていきました。

この頃から家賃滞納が増えてきましたが、大家さんはそこまでの問題と捉えず、最終的に裁判で戻ってくると考えていました。

しかし、実際に裁判となると滞納期間に加えその間の資金の動きは全く止まってしまい、ローン返済こそ滞らなかったにしろ生活は苦しい状況に追い込まれてしまいました。

さらに、強制退去についても甘く考えていた部分があり、なんの収益もあげられない期間すらあったそうです。

家賃滞納は入居者の不義理ですし、本来あってはならないことです。元々大手企業の社員を相手にしていたため、そのあってはならないことについてまで考える危機感がなかったことがこの失敗の原因でしょう。

(1-1) (1-2) (1-3) (2-1) (2-2)
購入物件(万円) 3000 3000 3000 4000 4000
頭金(万円) 0 0 500 1000 1000
借入金(万円) 3000 3200 2500 3000 1759
金利(%) 4.0 4.0 4.0 3.5 3.5
返済期間(年) 20 20 20 20 5
最終返済額(万円) 4363.1 4653.9 3635.9 4175.7 1920.5
月返済額(万円) 18.2 19.4 15.1 17.4 32.0
月最大家賃(万円) 37.5 37.5 37.5 33.3 33.3
100%入居月収益(万円) 19.3 10.6 14.9 15.9 1.3
75%入居月収益(万円) 9.9 3.1 7.4 7.6 -7.0
50%入居月収益(万円) 0.6 -4.4 -0.1 -0.7 -15.3

不動産投資で失敗しないポイント

さて、3つの事例をあげましたが、特にここで注意しておきたいのは、「気を抜かないこと」になります。

例1では頭金ゼロによるキャッシュフローの厳しさと周辺の状況判断が命取りでした。投資して利益だけを考えすぎたのが失敗の原因でしょう。

おそらく利回りに騙されたのかもしれませんが、より堅実さが必要とされるパターンと言えるでしょう。

例2では逆に、堅実に返済し借入を早く解消することを考えすぎたパターンです。利益よりも返済を優先したためにキャッシュフローを悪化させ、不必要な困難を味わうことになりました。

不運もありましたが、収益に対して自己犠牲的になるのはお勧めできません。あくまで投資なのですから、できる限りリスクは小さくするべきで、自らリスクを増大させた時点で黄色信号は灯っていたのです。

例3では入居者に対してのモラルを要求しすぎました。当然常識は持つべきでしょうが、ちょうど時代の変わり目で客層の移り変わりに大家の対応が遅れてしまったことは否定できないでしょう。

これらの例は各々原因は異なるかもしれませんが、根底にあるのは「調子に乗ってしまった」ことにあるでしょう。

個々人が調子に乗るタイミングは異なりますが、好調である時ほど(例1であれば利回り。例2であれば入居状況。例3であれば元々の客層)罠に気をつけるか、能動的な動きは慎むべきなのです。

さらに、変化が起きた時には速やかに反応する心がけを持つのが大きな怪我を防ぐ秘訣になります。