マイホームを建てるために必要な「宅地」。どんな条件の土地でも「建物を建ててもOK」ではなく、住宅を建てるために整備された土地でなければなりません。
私たちが宅地としてイメージしがちなのは、周辺が住宅地になっている平坦な土地ですが、実際には宅地にはいろいろな種類があり、中には土地の片側に傾斜がついている「法地」もあります。
傾斜の部分を含む法地は、一般的な土地と違った部分で考えることが多く、購入前にはじっくりと考えることが望ましいです。

傾斜のある土地「法地」とは
新しく分譲された土地を購入する時に、傾斜のある地域を宅地として開発された分譲地を目にすることもあります。傾斜がついている土地を「法地(のりち)」、「傾斜地」「崖地」などと言います。
傾斜がついているため、一般的な土地の利用法とは異なる部分も多くあります。
住宅地として既に住宅がいくつか建設されている場合には「何の問題もないのだろう」と軽く考えてしまいそうです。既に崖地に居住済みの住宅があれば、なおさら「問題なし」と思うことでしょう。
しかし「傾斜地」についてきちんと把握してから購入することが大事です。
切土や盛土で傾斜ができる
そもそも「宅地」となっている土地は、そのままで「住宅用の敷地」としての利用が可能です。しかし宅地以外の土地は、宅地造成をして「宅地」へと変化させなければなりません。
山や林、農地などはそのままの状態で住むことはできませんよね。それに、傾斜を含む土地は「宅地」として平坦な状態を造るため、余分な土を取り除く、不足な部分に土を増やすなどの工事が必要です。
このように、山状の土地を切って宅地造成することを「切土」、土を盛って平らな宅地にすることを「盛土」と言います。また、切土や盛土をして傾斜がついた斜面の部分を「法面」と言います。
用語チェック
切土 | 山状の土地を切って宅地にすること |
---|---|
盛土 | 土を盛って平らな宅地にすること |
法面 | 切土や盛土をして傾斜がついた斜面の部分 |
傾斜度について
上記のように、切土や盛土によって宅地になった土地は、一般的には法地というのですが、斜面の角度によっては「崖地」ということもあります。崖地の定義については、宅地造成等規制法施行令1条2項により「傾斜が30度以上のもの」としているものの、細かな定義がないのが実際です。
用語チェック
法地 | 切土や盛土によって宅地になった土地 |
---|---|
崖地 | 傾斜が30度以上のものともあるが細かな定義はない |
地盤は?自然災害のリスクは?
土を切ったり盛ったりした地盤なので、その強度については気になるところではないでしょうか。
切土の場合
土地の斜面を切り取って平坦な宅地を造る場合、そもそもの地盤が強いケースが多いです。
盛土の場合
切土の土地と比較すると、地盤が軟弱なケースが多いです。また、盛土には元の土地が「田」など湿地であるケースもあります。地盤が弱い場合には、自然災害のリスクが伴うことを頭にいれておくべきでしょう。

全国12箇所の自治体で、比較的大きな盛土の宅地造成地についての情報を発表しているので、参考にしてみてはいかがでしょうか。
住宅ローンへの影響
必ずしも「盛土=地盤が弱い」とは言い切れませんが、住宅ローンを借りて住宅を建設する場合には、慎重な調査により担保地としての評価が下がり、厳しいケースもあります。
切土、盛土を混ぜた土地の場合
地盤が丈夫な切土部分と地盤が弱めな盛土を混同して造成した土地は、地盤が不安定で不同沈下を起こしやすいと言います。
「不同沈下」は、全体的に建物が沈下するのではなく、弱い地盤の方に傾いて沈下していくことです。盛土をした部分の下の土、つまりもともとの地盤が軟弱であると不同沈下が起きやすくなります。
不同沈下が起きてしまうと、建物自体が傾き始めます。いきなり傾く訳ではありませんから、状況は見た目には分からないことが多いものです。多くは、建物内部に影響が出て初めて不同沈下を疑うことになるでしょう。建物が斜めになることで、徐々に次のような悪影響が出てきます。
【不動沈下が建物に与える影響】
- ドアの建付けが悪くなる
- 基礎に亀裂が入る
- サッシのカギがかからない
- 雨水が室内に侵入する
- 外壁、外壁に亀裂が入る
- 排水が流れていかない

不同沈下が起きて、建物が斜めになった状況によっても異なりますが、沈下が大きければ大きいほど、建物に悪影響を及ぼし建物内に住む人々の日常生活を脅かします。
平坦でない建物に住むということは、バランスが乱れますので、精神的にも辛い日々となってしまいます。たった数度の傾きでも、その中に住み続けることでバランスの悪さによる頭痛、めまいなど体調悪化をも引き起こしてしまいます。
法地を購入するメリット、デメリット
これまでに法地についていくつか書きましたが、法地のメリットやデメリットについて考えてみます。
法地のメリットは「眺望の良さ」

傾斜があることで、法面側に接する道路や土地との高低差があるため、今後、住宅が建つことはないでしょう。
そのため、見晴はらしがよく開放感がある風景が、毎日自分達のものになります。街並を見下ろす感覚なので、高低差によっては「戸建住宅なのにまるでマンションに住んでいる」、そんな気分をも味わえることもできるかもしれません。
リビング側に法地があれば、カーテンを開けていても、通行人がいないので外から見られる心配もありません。また、向きにもよりますが、高台のため日当たりも良好です。
デメリットが多い法地
「眺望が良い」という気分的なメリットがあるものの、デメリット部分も確認しておきましょう。
自然災害の際の不安がある
まず、先ほどお話しした自然災害のリスクがあります。
災害による被害については「起きるかもしれないし、起きないかもしれない」という「可能性」としてしか言えないものですが、被害に合う可能性が一般的な土地よりは考えておかなければならない土地と言えます。
販売業者からの説明
販売業者が説明してくれるケースもありますが、擁壁に関すること、前の土地の用途がなんであったかなど100%を伝えてくれるとも限りません。それに、専門用語が多ければ、アバウトにしたまま契約を結んでしまい後から悔やんでしまうこともあります。
販売業者に以前の土地が何だったのか(農地など)について、調べてもらうのもいいですが、以下の方法で自分で調べてみることをお勧めします。
自分でできる法地のチェック方法
- 周辺地域がどのような地域であるか、地盤はどのようなものかは自治体などへ問い合せ
- 役所で近隣の土地の古い時代について調べる
- 土地周辺を歩いて近所の人に地盤について聞いてみる
面積や擁壁についても注意
また、敷地の面積、擁壁についても注意をする必要があります。これらについては次項で詳しく説明していきます。
擁壁がネック!?

「擁壁」部分は見落としがちなので、しっかりチェックしたいもの。基本的には、土地に斜面の部分がある時には、「擁壁」が必要になるものです。
擁壁は法地には重要
一般的な平坦な敷地に住宅を建てる場合には、必要性のない「擁壁」ですから、なんとなくイメージが湧いてこない方もいるかもしれません。
擁壁は、切土や盛土をして傾斜になっている法面部分から、土砂が流れ出てくるのを防ぐために設けられるストッパーのような役割をする構造物です。多くは、コンクリートで固められたり、ブロックタイプであったり、石を積んだりしたタイプの擁壁です。
擁壁は永久的なものではない?
擁壁は、土地の強度を保つためのものなので、その役割を果たしてくれなければ意味をなさないものになってしまいます。それに、一度、擁壁工事をしたら永遠に機能を果たす訳ではありません。経年や状況によって劣化していけば、機能を戻すためにメンテナンスが必要です。
法地、あるいはその上に建つ中古住宅を購入する場合には「安全な擁壁であるか」という次のようなチェックをすることが大事です。
擁壁に亀裂が入っていないか
コンクリートの擁壁の場合は亀裂を発見したならば、不動沈下の可能性もあります。
水を抜く穴の有無

盛土による法地の場合、一般的には地盤が弱いものです。そこで擁壁で崩れ落ちるのを防ぐ訳ですが、雨が降る事によって地盤がさらに軟弱してしまうリスクを負ってしまいます。
そのリスクを防止するのが水抜き穴です。水抜き穴には擁壁で覆われた部分の土の中の水分量を調節する役割があり、穴から余計な水分が抜けていきます。
水抜き穴が無い場合
しかし、水抜き穴がない場合には、盛土に含まれる水分が多くなり擁壁に圧力がかかってしまいます。それが原因で擁壁にヒビ割れをもたらすことになるでしょう。
水抜き穴がない擁壁は、擁壁そのものに悪影響を与えるだけでなく、建物の土台となる地盤をも弱らせ、さらには建物自体への影響します。
機能してない場合
水抜き穴があるケースでも、正常に機能しているかのチェックをすることも大事です。穴が土や雑草で詰まっていたりすれば、機能を果たしていないため土壌に悪影響を与えてしまうことになります。
年代の古い擁壁ではないか
古い時代の擁壁は、現在の建築基準法と異なる部分も多いです。現在は2m超えの擁壁を設置する場合には、確認申請をすることが建築基準法で定められているのですが、古い時代のものは確認申請していないものが多々あるようです。
新しく擁壁を作り直す
新しく擁壁を作り直す場合、新たに擁壁の確認申請をしなければなりませんが、場合によっては新たに作り直すか補強するかの選択をせまられる場合もあります。
新しく作り直す時には、数百万という大きな費用がかかることもあります。さらに、状況によってはもっとかかり1千万円近くかかるケースもあります。
一般的に法地を含む宅地は、安く購入できるのが魅力ですが、思わぬ出費が後から発生する可能性があることも頭にいれておきましょう。
登記面積と有効敷地面積
法面部分の面積が、全体敷地面積の30%に満たない場合は、不動産取引において表示しなくてもいいことになっています。そのため、法面部分は敷地に含まれていないと思ってしまう方もいるかもしれません。
しかし実際は、斜面の部分も所有権がある範囲となります。所有権の発生する登記面積の内、30%を超えれば販売業者で取引上の記載があるのでいいでしょうが、それ以内の場合は自分で確認するようにしたいものです。
法務局で取得できる公図や登記簿謄本にも「法地で○平方メートルが法面部分」という記載がされている訳でないので、やはり現地をチェックするのが一番です。
境界線は法面部分の下のラインですから、それを除いた面積が有効敷地面積となります。
がけ条例
また、各自治体の「がけ条例」によって条件は異なりますが、傾斜の角度や高さによっては、「傾斜からどのくらいの距離を離して建築しなければならない」という決まりもあります。建築する際には、こうした細かい点までも注意が必要になります。
法地を含む土地の価値って?
不動産屋で住宅を探している時に「日当たり良好で遮るものがなく眺望抜群」というフレーズが出てきそうな法地を含む土地ですが、価値的にはどのように考えられるものでしょうか。
傾斜がある土地は「減価」の対象になる
土地を売買する時には、その土地に見合った適正な価格がつけられるべきです。その価格を算定する時には接している道路の幅や舗装状況、地盤や日当たりの良さ、最寄り駅までの近さ、眺望の良さ、土地の形状、道路との高低差など、さまざまなポイントから考えられます。
傾斜の角度によっても異なりますが、傾斜地を含んだ土地の場合一般的には流通性が低い土地と判断され価格が安くなることが多いです。
売却する時にも、平坦な土地と違って災害時のリスクも加味しなければならず、売れにくい土地であると考えなければなりません。そのため、住宅ローンの担保にするには、審査が厳しくなったり借入額が少なくなったりする可能性が大きいです。
がけ下に建つ住宅
購入予定地の背後に傾斜のある場合はどうでしょうか。
傾斜のある部分をひとくちに「がけ」と言ってしまいますが、定義としては「角度30度以上を超える角度の斜面」とされています。「がけ」付近に建物を建てる時には、条例により規制があるものですから、事前チェックはとても大事です。
がけの下に建物を建てる場合には、がけと建物の間に防護壁と呼ばれるものを設けたり、一定の距離を保ったり、建物の崖側を鉄筋コンクリートなど強度のあるものにするなど、万が一の災害に対する対策を考えなければならないケースが多くあります。
まとめ
斜面がある土地は、比較的安く売買される傾向にあります。ただ、擁壁のメンテナンスや安全性で考えると「お買い得」と即決するべきではない土地であることが分かります。
購入時の費用がリーズナブルというメリットはありますが、大事なマイホームの買い物ですから、「安全性」「将来のリスク」など全体的に考えて購入をじっくり検討することが大切です。