現先取引とは
現先取引とは、債券の条件付き売買取引のことです。市中金利の変動に関わらず、一定期間後に一定の価格で債券などを買い戻すことを条件に売買します。債券以外にも、CP(コマーシャルペーパー)、CD(譲渡性預金)などでも現先取引は行われています。
現先取引は、売り手から見た場合を「売り現先」、買い手から見た場合を「買い現先」と呼びます。売り手は短期の資金調達手段として、買い手は短期の資金運用手段として現先取引きを利用します。主に銀行や証券会社などで現先取引を利用しています。
現先取引では対象期間の利回りが相場とは無関係に確定されます。この確定された利率(収益率)を現先レートといいます。
現先取引はかつては債務不履行やリスク管理に対する規定が未整備でした。そのため、2002年4月から欧米の手法(マージンコール、リプライシング、サブスティテューション等)を取り入れた新現先取引が導入されています。
現先取引には、証券会社が自社の資金繰りのために行う自己現先、証券会社が顧客の委託を受けて行う委託現先、売り手と買い手が直接取引を行う直現先があります。委託現先取引では、スタート取引にかかる売買日と買付日、エンド取引にかかる買戻日と売戻日がそれぞれ同一日になるようにする必要があります。
債券の現先取引と似たような取引に、債券のレポ取引があります。現先取引が債券を担保に現金を貸し借りするのに対し、レポ取引は現金を担保に債券を貸し借りするというものです。この二つは債券と現金のどちらに注目しているかの違いしかなく、実質的な経済効果は同じです。
現先取引の特徴
現先取引における売り手は、買戻しまでの期間、一定の利回りで資金の調達ができるのが現先取引の特徴です。そのため、短期の資金調達手段として利用できます。
反対に買い手にとっては、売戻しまでの期間、一定の利回りで資金を運用できますので、短期の資金運用の手段となります。
現先取引は売買の形式をとっていますが、スタート取引(個別の現先取引において、売り手が買い手に取引対象債券等を売りつける取引)の時点で、エンド取引(個別の現先取引において、買い手が売り手に同種・同量の債券等を売り戻す取引)の売買価格を決めておくことで、一定期間の利回りを確定する仕組みになっているのが特徴です。
現先取引の対象者と対象債権
現先取引は個人が行うことはできません。金融商品取引会社、上場会社またはこれに準ずる法人のみが現先取引を行えます。このことから、社会的・経済的にも信用のあるもののみが取引を許されていることが分かります。
資金調達手段である売り現先は、一般的に証券会社が行います。証券会社は資金調達のため、自己が保有する債券を売り現先に回します。証券会社はそれ以外にも、現先取引における買い方と売り方の仲介業者としても重要な役割を担っています。
一方、資金運用手段である買い現先は、投資信託、信託銀行、事業法人などです。
なお、現先取引の対象となる債券は、国債、地方債、特別債、特定社債、社債、投資法人債、これらの性質を有する外国債券、国内CP、海外CP、外国債券信託受益証券などです。
現先取引の形態
現先取引には、自己現先取引と委託現先取引の2つの形態があります。
自己現先取引は、先ほども少し触れたとおり、証券会社が資金調達のために行います。証券会社は保有する債券を買戻し条件付で売却するのです。これが自己現先取引です。
一方、委託現先取引は、証券会社等以外の法人が債券の売り手だった場合に、証券会社等を通して売り現先を行う取引のことです。委託現先取引では、証券会社等は売り手から買い受けた債券を用いて売り現先を行います。
新現先取引について
現先取引は、1949年に起債市場が再開した後、長らく債券市場で行われている取引ですが、取引期間中のリスク管理の仕組みや取引相手がデフォルト(債務不履行)を起こした場合の取扱いに関する規定が未整備であるといった問題がかねてから指摘されていました。
内外投資家のニーズが高い短期国債の発行拡大と、有価証券取引税の撤廃が行われたことで導入環境も整いつつあったため、欧米で主流の新現先取引が導入されました。
新現先取引は、現先取引のうち、債券等の現先取引に関する基本契約書に「リスク・コントロール条項」と「サブスティチューション条項」が設けられている現先取引のことです。
これらの条項の適用は、当事者間の合意によって行われるものであるため、必須項目ではありません。
リスク・コントロール条項とは、取引の安全性を確保するためには、債券価格の変動によって担保不足が生じないように担保の額を機動的にコントロールできる仕組みで、ヘア・カット、マージン・コール、リプライシングが導入されています。
ヘア・カットとは、約定時点の債券の時価とスタート売買単価との間に乖離幅を設ける仕組みで、一括清算が発生した場合、債券の時価が下落・上昇していることに伴い発生するリスクを回避するために行われます。
例えば、時価100円の債券を買い入れる際、債券の時価が3%下落するかもしれないリスクがある場合、スタート売買単価を97円に設定します。
マージン・コールとは、取引期間中、取引対象債券等の時価変動に応じ、担保の受渡しにより与信リスクの解消を行うことです。
例えば、債券を担保に資金運用を行っている場合、債券の時価が下落すれば担保価値が減少します。この下回った分をカバーするため、資金の取り手に担保(=マージン)の差入れを請求する仕組みがマージン・コールです。
なお、担保としては、現金だけでなく、証券を用いることも可能です。
リプライシングとは、当事者の合意により、取引期間中に個別取引を一旦終了し、その時点の時価に基づく新たなスタート売買単価を用いて、終了前の取引と同じ条件(取引対象債券等の銘柄・数量、現先レート、エンド日等)で新たな取引をスタートさせる仕組みのことです。
マージン・コールと同様、与信リスクの解消手段です。
サブスティテューション条項とは銘柄差替えのことで、債券の売り手が、買い手の同意を前提として、取引期間中に取引対象債券等を差し替えることを可能とする仕組みで、取引の利便性を向上させるためのものです。
債券の売り手は、取引対象債券等と同じ銘柄を売却した後、この銘柄が急遽必要となった場合、これを他の銘柄と差し替えて受け戻すことができるため、ターム物取引をより行いやすくなるメリットがあります。
もともとサブスティテューションが想定されていなかった現担レポ取引等では、玉の固定化に繋がるため、ターム物の取引を行いにくいという指摘があったため、サブスティテューション条項が導入されました。