フローアプローチとストックアプローチ
為替レートは様々な要因で変動しますが、基本は自国通貨と外国通貨の交換比率がどれくらいか、ということで決まります。外貨を買う人と売る人がそれぞれどれだけいるか、という為替の需給で決まります。
為替相場が何で決まるかについては様々な学説がありますが、フローアプローチとストックアプローチの2つの体系に分けられます。
フローアプローチは、一定期間の取引高から需給を捉える方法です。一定期間に生じた対外取引の受取りと支払いの金額から、為替レートを導き出します。
輸出入などで決まる経常取引と,金利差で決まる資本取引によって生じる外国為替のフローの需給均衡で短期的な為替レートが決まるとする理論です。かつて固定相場制度の時代は,為替取引のほとんどが経常取引だったため、この考え方が広く浸透していました。
一方、ストックアプローチは、アセットバランスアプローチとも言います。ある一時点の資産残高から為替の需給を捉えます。
ストックアプローチは、投資資産に占める外貨資産の保有額の比率から為替レートが決まると考える理論です。
市場参加者の思惑
為替は短期的な要因で動くことが頻繁にあります。
例えば、海外との貿易決済をしなければならないグローバル企業などの実需筋の動向は、為替相場に大きな影響をもたらします。
海外での売上が大きい大手企業などは、ドルやユーロで売った代金を円転換します。反対に、日本国内で大きな売上のある外国企業が、本国に送金するために、円をドルやユーロに替えることもあります。
実需筋は、支払いの関係で外貨が必要な企業等の市場参加者ですが、それとは別に、外貨が要るわけではないものの、為替差益で儲けるために取引をする会社もあります。
それが投機筋と呼ばれる市場参加者で、銀行や証券会社、ヘッジファンド等がそれに該当します。FXを取引する個人投資家も投機筋に該当します。
これらとはまた異なるスタンスで為替取引をするのが、年金などです。
年金基金は中長期的な運用を目指しているため、すぐに決済することはなく、売りポジションや買いポジションを市場に積み上げていきます。この影響は大きく、為替市場で注目されます。
また、為替市場ではオプションも注目されます。オプション取引を機関投資家などが行っている場合、オプションのレート近くで為替が動くことがあります。それは、為替オプションを利用している機関投資家が大量に売り買いするためです。
このように、様々な市場参加者の思惑に為替相場は影響されます。
国際的な大きな会議等のイベント
国際的な会議は、為替相場に大きな影響をもたらします。
例えばG7はその代表的なものです。先進7か国(米国、日本、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ)の財務省・中央銀行総裁会議では、貿易不均衡や金利、為替レートがしばしば取り上げられます。
ここで話合われる経済に関する議題は為替相場に大きな影響を与えます。この会議は各国の通貨政策や金融政策を取りまとめるトップ達が出席し、話し合いがもたれるため、ここでの発言内容は市場の注目を集めます。
実際2015年5月に開催されたG7では、「為替の議論はG7では出ていない」という、閉幕後の麻生太郎財務相の発言に為替相場は敏感に反応し、円安が進みました。
このG7については、急激に進んだ円安について、参加国から何らかのけん制や批判が出るかもしれないという市場の憶測から、円相場は乱高下していました。
現在は、G7以外にもG20などの国際会議も注目されています。ここでも為替レートについての議題が取り上げられることがあり、関係者の発言や、共同声明等に大きな注目が集まります。
要人発言
為替相場に大きな影響を及ぼすもので、見逃せないのが要人発言です。米国であれば財務長官、日本であれば財務大臣などの発言は、為替相場に大きな影響を及ぼします。
例えば2013年2月にドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁が会見で、「インフレ率は向こう数カ月で2%を下回る見通し」「ユーロ圏の景気低迷は2013年初めも続く見通し」などと発言したことで急激なユーロ売りとなり、その影響を受けて円がユーロに対し、急激な円高となりました。
このように為替相場に影響を与える要人発言には色々とありますが、ドルが基軸通貨であることから、米国財務長官の発言は為替市場に非常に大きな影響を与えます。
その次に大きな影響を与えるのが、日本で言うところの日銀総裁に当たる、米国FRB議長の発言です。そして、その次に、ECB総裁の発言が大きな影響を与えます。また、日本の財務大臣や日銀総裁の発言も、為替市場に大きな影響を与えます。
要人発言の内容に合わせて、為替相場も一喜一憂します。そのため、例えば日本の場合は、日銀総裁が会見中、ポジティブな内容を話している時には円安が進み、その後ネガティブな内容を話し出すと一転、円高になる、ということもよくあります。
各国の要人発言があるタイミングは、各FX会社のHPでも紹介されているので、事前にそのタイミングを確認しておくことがFX取引では大切です。
経済指標
為替相場に大きな影響を与えるものとして重要なのが、経済指標です。その中でも特に為替相場に大きな影響を与え、さらには株式相場にも大きな影響を与えるのが、米国の雇用統計です。米国雇用統計の結果によって、米国の景気の良しあしが分かるからです。
経済指標は毎日のように発表されていますが、さほど為替相場に大きな影響を与えないものもあります。また、直接日本と関係がないものであっても、通貨ペアによっては影響が出るものもあります。
例えば中国の経済指標は、円にはさほど大きな影響を与えないものが多いのですが、中国とオーストラリアとの経済的なつながりが強いことから、中国の指標発表の結果によって、豪ドルのレートにも影響を与えます。その結果、豪ドル円のレートに影響を及ぼすのです。
経済指標については、各FX会社のHPに、経済指標発表のスケジュールや重要度を掲載しています。重要度が高い指標については、何日の何時に発表されるのかをきちんと把握しておきましょう。
特に、冒頭で紹介した米国雇用統計については、為替レートが乱高下することが頻繁にありますので、そのタイミングでの取引は避けた方が賢明でしょう。
戦争、テロ、経済危機、災害
戦争やテロ、経済危機や災害なども為替相場に大きな影響を与えます。
例えば戦争であれば、1991年の湾岸戦争の時は、開戦によってドルが下落し、1ドル135円だったのが1ヶ月間で1ドル127円になりました。
また2001年9月に起きた米国同時多発テロでは、1ドル121円だったのが、1ドル115円まで円高が進みました。
2011年3月の東日本大震災の時には、もともと1ドル80円台と円高だったのが、さらに円高が進み、一時は1ドル76円台まで円高が進みましたが、これはかなりイレギュラーと言えます。
というのも、戦争やテロの事例でも分かるとおり、このような場合、円を売って外貨を買おうとする動きが出てきてもおかしくなく、円が売られて円安が進むはずなのです。しかし、反対に円高となってしまいました。
その理由として、保険会社が保険金支払いのために、外貨建て資産を売って円を買った、製造業などの会社が、被災した工場等の修理工事等の費用ねん出のため、外貨建て資産を売って円を買った…といった理由が考えられます。
円高に進んだところに、円高の動きに乗る投資家も出てきたために、さらに円高が加速したと考えられます。