企業は、取引の決済のために金融機関に当座預金を開設して、小切手や約束手形などを振り出して支払いに活用しています。手形をもとに銀行が融資を行うのが手形貸付です。
銀行が企業の信用力に基づいて手形貸付を行いますので、企業にとって手形は日々の資金繰りに利用できる有効な資金調達手段です。
反面、手形貸付の返済を怠り当座預金に資金がなくなると、銀行取引停止処分を受けてしまうため注意が必要です。
信用力がものをいう手形貸付の仕組み
用力に基づく融資制度
手形貸付とは、企業が銀行から融資を受けるための方法のひとつで、自己手形割引ともいわれます。
企業が約束手形を発行し、発行した手形を担保にして銀行から融資を受けるという仕組みです。担保差入れによる融資は、銀行だけでなくノンバンクでも取扱っていますが、手形貸付は、銀行のみで行われている融資制度です。
企業が手形を振出す際には、振出す金額に応じた収入印紙を添付します。額面1億円の手形なら収入印紙は2万円、額面5億円の手形なら10万円を添付する決まりです。
融資を受けるための手数料として考えると、担保を差入れる他の融資でかかる諸経費に比べて、割安な手数料で融資が受けられます。

手形貸付は、簡単にどんな企業でも融資が受けられる制度ではなく、信用力のある企業だけが利用できます。
銀行における信用力とは、預金残高、貸出実績、滞納や延滞等の有無、健全で黒字経営をしているかなど、全体の取引状態や会社の経営状態から判断されます。
つまり、融資する銀行にとって貸したお金を確実に回収できるかどうかがポイントとなります。
そのうえ、銀行に当座預金があるからといって、すぐに手形を振出して融資が受けられるというわけではありません。企業は銀行と事前に取り決めをして、手形貸付の限度額を決めておく必要があります。
あらかじめ利息が差し引かれて融資を受ける
企業が実際に手形貸付を受けるときは、あらかじめ支払うべき利息分を差引いた金額が融資されます。企業が振出した手形の金額よりも必ず少ない金額が融資されることになります。
また、企業が手形貸付を受けるときには、銀行に対し資金使途を明らかにしなければなりません。
たとえば、たんに「ビジネスのために使う」というのではだめで、「○○の機械が古くなってきたので買換え費用に充当する」「新店舗開設のための準備資金として使う」「従業員のボーナスの支払に使う」というように、具体的な内容を示す必要があります。
手形貸付の返済期限と返済方法
返済期限は1年未満
同じ銀行の融資でも担保を差入れた融資の場合、返済期限は10年、20年というように設定されます。
一方、手形貸付の返済期限は1年未満と設定されます。このように、返済期限が短いことが手形貸付の特徴の一つです。ちなみに、銀行では1年未満の返済資金のことを短期資金とも呼んでいます。手形貸付は短期資金の代表的な融資制度です。
一般的に、決済に利用している約束手形は、振出日を含めて3営業日以内(銀行の休業日を含まない)に持参すると現金化できる仕組みになっています。手形貸付は、その仕組みをアレンジした融資制度ですので、融資期間は短くなります。
返済期日までに当座預金に額面分の資金を用意しておく
具体的な返済期限は、手形に記載されている支払期日欄に書かれている日付が期日になります。
手形を振出した会社は、期日までの当座預金に振出した額面分の資金を用意しておかなくてはなりません。
返済方法は銀行によって違いがありますが、支払期日に一括返済する方法や支払期日で完済できるように分割で支払う方法があります。返済は振込ではなく、当座預金から引き落とされます。
手形貸付の注意点
6カ月以内不渡り2回で銀行取引停止処分
企業にとって手形貸付は、日々の資金繰りに利用できる便利な制度ですが、最も注意しなければならないのが期日の管理です。
通常の融資でも、返済期日までに返済をしないと企業には遅延損害金などの追加負担が生じるなどペナルティが課せられます。
手形貸付は、当座預金の残高が不足して返済期日にお金が引き落とされなかったときには「不渡り」となってしまいます。万一、6カ月以内に不渡りを2回出してしまうと、その企業は、以後2年間は取引停止処分となり銀行と取引できなくなってしまいます。
銀行を利用した資金繰りがつかなくなりますので、取引先からの信用を失うことになってしまいます。
不渡りの情報は、手形交換所や全国銀行個人情報センター等の関連機関に、不渡りを出した事実、経緯、詳細、振出人の個人データや会社のデータまでが登録されます。
未取引の銀行にまで不渡りを出した事実が明らかになってしまうと、資金繰りができずに倒産するといった事態を招きかねません。
スイングサービスで不渡りを防ぐ
また、うっかり当座預金に入金するのを忘れてしまった!ということも起こりえます。そのようなミスを防ぐ方法として、他の預金口座から資金を自動的に移せるスイングサービスを利用するなど、手形貸付を利用するときは不渡りをなんとしても防ぐ工夫が必要です。