逓増定期保険は、契約日から時間の経過とともに保障額が徐々に大きくなっていく定期保険です。他の生命保険と比較して保険料が高く、解約返戻金が大きく積み上がっていきます。

法人契約では保険料の損金算入が可能なため、節税をしながら経営者や役員などの退職金を準備できる方法として広く活用されています。

逓増定期保険を使って退職金を準備する

逓増定期保険の保険金額は、契約当初に設定した金額の5倍を上限に、時間の経過とともに増加していきます。保険金額が上昇していく一方で、保険料は上がることなく一定です。

保険期間終了に伴う満期保険金はありませんが、短期間のうちに解約返戻金が大きく積み上がっていく構造になっており、契約後の早い段階でピークを迎えます。解約返戻金は、ピークを迎えた後は徐々に減少し、最終的にはゼロになります。

帳簿の外に積み上がっていく解約返戻金という資産を利用し、5年、10年、15年など比較的短い期間の退職に向けた退職金の準備資金として活用されることが一般的です。

保険会社や契約形態によっては、解約返戻金が払い込んだ保険料の100%を超える場合もありますが、どのケースでも、退職のタイミングに合わせて最も解約返戻金が高くなるように設計します。

 

図表1 逓増定期保険の保険金の図

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逓増定期保険の節税効果

逓増定期保険は、支払った保険料の一部が損金として計上されるため、節税効果が得られます。

一般的に他の生命保険と比較しても保険料が高く設定されているため、圧縮できる利益も大きくなり、その分高い節税効果が期待できます。損金に計上されない部分は、資産として計上されていきます。

保険期間のうち、契約当初から6割が経過するまでの期間に、損金と資産が図表2のとおり計上されます。

残りの4割の期間では、保険料は全額損金計上され、前半で資産計上された保険料を取り崩していきます。保険期間が20年であれば前半は12年、後半は8年ということになります。

図表2 保険料の損金算入
1 保険期間満了時の被保険者の年齢が45歳超 1/2損金、1/2資産計上
2 保険期間満了時の被保険者の年齢が70歳超
かつ
被保険者の契約時の年齢+保険期間×2が95超
1/3損金、2/3資産計上
3 保険期間満了時の被保険者の年齢が80歳超
かつ
被保険者の契約時の年齢+保険期間×2が120超
1/4損金、3/4資産計上
4 1~3以外 全額損金算入

逓増定期保険の具体的活用プラン

具体的な例で見てみましょう。A社長は現在55歳で、10年後の65歳での退職を考え、図表3のような逓増定期保険に加入したとします。

図表3 10年目に解約返戻金がピークを迎える逓増定期保険の加入プラン
契約者 法人
被保険者 A社長
受取人 法人
保険金額 1億円
年間保険料 900万円
保険期間 20年

前半の12年は、このプランの保険料900万円のうち450万円は損金計上され、残りの450万円は資産として計上されていきます。

10年後に設定したピーク時の解約返戻金は、支払った保険料の97%であったとすると、8,730万円となります。このとき、保険積立金(前払保険料)として4,500万円(=450万円×10年)が資産計上されています。

解約返戻金から保険積立金を引いた金額4,230万円(=8,730万円-4,500万円)が雑収入として計上され、法人税の課税対象となります。

予定どおりA社長が同じ年度内に退職し、同額の退職金4,230万円を受け取れば、雑収入と退職金が相殺され、税負担は軽減されることになります。

デメリットは何か?

このように、節税しながら簿外で退職金を準備できるメリットがある一方で、デメリットもあります。それは、退職のタイミングを解約返戻金のピークに合わせられなくなってしまう場合です。

例えば、後継者が育っていないなどの理由で予定していた時期に退職できないケースなどです。

退職金を受け取らずに逓増定期保険を解約した場合、前述の雑収入を相殺することができず、雑収入は法人税の課税対象となってしまいます。大きな課税を避けるため、当初の想定どおり解約返戻金のピーク時に解約できないという事態が起こり得ます。

ピークを過ぎてから受け取った場合、返戻率が減少し、予定していた退職金を下回ってしまうことになります。逓増定期保険を活用する場合は、解約時のタイミングをしっかり考えたうえで加入することが大切です。

このほか、簿外に積み上がっていく解約返戻金は、退職金以外の資金使途として活用することもできます。

例えば、新たな設備投資資金や、一時的な資金需要などに活用するケースです。特に、一時的に資金繰り厳しくなった際などは契約者貸付制度を利用し、解約返戻金を担保として保険会社から借入れを起こすことも可能です。