農地を二分すると周辺にも農地が広がる農地と、周辺は住宅が建っていて宅地として利用しても問題ないような農地があります。周辺が住宅の農地は登記簿謄本の地目だけが農地となっています。
周辺が住宅の農地の場合は住宅を建てても問題なさそうですが、実は登記簿謄本に記されている地目が農地のままでは、住宅の建設ができません。さらにその立地によっては許可のための手続きが複雑になっています。農地に住宅を建てる時の注意点や住宅ローンへの影響も含めて説明します。

目次
農地を活用するには「農地転用」の手続きが必要
登記簿謄本を見ると「地目(ちもく)」という欄があります。地目には、その土地の利用用途が何かを記している項目です。地目は23種類にも区分されています。住宅用の土地として使える「宅地」、農作業として利用する「田」「畑」、交通に利用する「公衆用道路」などは多くの方がご存知ではないでしょうか。
そのうち、田や畑など農作業の用地として利用されているのが「農地」です。農地は、利用用途が違うので、この状態のままマイホームを建てることができません。基本的に住宅を建てる場合には地目の欄が「宅地」でなければならないので、家を建てるためには「宅地」として届け出る必要があります。これが「農地転用」です。
また、農地に関しては「農地法」という法律があり、さまざまな制限を受けています。農地を農地以外の目的に利用するには、農地転用の許可が必要であると農地法で定められています。
農地転用の手続きですが書類が難しいため、行政書士といった専門家に依頼する方も多いです。自分で申請できれば費用は安く済みそうですが、書類の準備などが複雑という声も多くあります。特に市街化調整区域で「許可」を受ける場合には、数万円の費用がかかると考えてもいいでしょう。
農地法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S27/S27HO229.html
農地転用の許可基準について

ひとくくりに農地と言いますが、必ずしも転用できる訳ではありません。
立地基準について
原則的に転用ができない土地
第1種農地 | 10ha以上もの広さで、生産性の高い、農地としての機能が優良な農地 |
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甲種農地 | 第1種農地のうち、市街化調整区域内にある生産性の高い条件のいい農地 |
農用地区域内農地 | 各自治体が農業振興地域整備計画において「農地」として利用すべきと定められている区域内に存する農地 |
転用ができる土地
第2種農地 | 500m圏内に駅があり、農地として考えた時に生産性が低い農地(条件付で転用許可) |
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第3種農地 | 300m圏内に駅があり、すでに市街化傾向が顕著な農地 |
一般基準
上記の区分に基づいた審査のほか、申請の目的や被害防除措置などその他事項についても審査されます。その結果、その申請が適当ではないと判断されれば許可がおりません。
農地転用に関する農地法について
農地転用に関する農地法ですが次の3つに区分されています。許可を受けずに勝手に農地を転用することはできません。
農地法第3条(権利移動)
農地を農地という地目のまま所有権だけを移動することです。ただし、「農地」のままでは売買が難しいです。なぜなら、基本的に農地を購入できるのは農業に従事している人という制限があるからです。農地という地目を変更せずに所有権だけを移転する場合には、買受人として妥当かどうかの農業委員会の許可が必要です。
つまり「会社勤めをしている人が趣味で畑をやりたいから購入する」などというケースは買受人としての資格の認定を受けることができません。
また、同じ市区町村に居住する人に売却する場合には農業委員会の許可、違う市町村の人に売却する場合には都道府県知事の許可が必要になってきます。
農地法第4条(農地転用)
農地の所有者が権利を移動せずに、農地以外のものに変更する場合に必要な許可です。ただし、すべての農地が転用できるわけではありません。
農地法第5条(農地転用と権利の移動)
農地の所有者を変更して、農地を農地以外に変更する際に必要な許可です。
農林水産省 農地転用許可制度
http://www.maff.go.jp/j/nousin/noukei/totiriyo/t_tenyo/
立地条件によって手続きが違う農地転用
日本にある土地は、土地計画法において各エリアに規制がかけられています。「自分が所有している」理由だけで自由に土地を利用できる訳ではありません。その土地が存する地域によって、受けるべき許可や手続き方法が違うので要注意です。
都市計画で定められているのは「市街化区域」「市街化調整区域」「非線引き区域」です。行政で定められている区域により手続きや条件が異なります。
市街化区域では「届出」、市街化調整区域では「許可の申請」の手続きが必要です。
市街化区域内では
すでに「市街地」として開発が進んで街が形成されている市街化区域では、農地を宅地にする許可申請もそれほど難しいものではありません。その農地が存在する農業委員会に「届出」を出すだけでOKです。
マイホームを建てるために土地探しをしているとリーズナブルな土地に出会えたと思ったら地目が農地であったというケースもあることでしょう。登記簿で調べてみたら農地だったという場合には、そのままでは住宅ローンの審査も受けることができないので農地転用の届出をしなければなりません。
申請に必要な書類や受理期間などについては、地域によって異なることも多いので、その土地の存する市町村の農業委員会に詳細を確認するようにします。
市街化調整区域内では
一方、市街化調整区域では、マイホームを建てること自体に規制が多いです。
開発許可、農地転用の許可の2種類が必要
そもそも市街化調整区域は、「市街化を抑制しよう」という地域なので、基本的に建物の建築がNGとされています。そのため、建物を建てる場合には「建物を建築してよい」という開発許可を受けることも必要になります。
そのため、市街化調整区域では建物を建ててよいという開発許可に加えて、農地を宅地にするという農地転用の許可、この2種類の許可を受けることが必要になります。
注意点
注意したいのは、「開発許可」と「農地転用の許可」は元になる法律が異なることです。開発許可は都市計画法、農地転用は農地法に基づくものです。市街化調整区域の農地にマイホームを建設する場合には、手続きも複雑になるので注意しましょう。
周辺には農地が広がっているような農家住宅のようなケースでは、農家の分家など建設する人が限定されたり、水道やガスなどの問題があったりなど、さまざまな条件がつけられるので申請もスムーズにいかないことがあります。
スムーズな場合
ただ、市街化調整区域と言っても、市街化区域の生活圏にあるような「ほぼ市街化区域」というエリアもありますよね。周辺の街並を見た時に建物が連なっていて、登記簿謄本の地目が農地なだけ…というケースも。
現況的には宅地と考えてもよさそうな農地とは名ばかりで、現実的には今後「農業をする場所」として機能しないのではないでしょうか。そういった立地にある農地は、「おおむね市街化区域として一体として生活できる」としてスムーズに開発許可がおりることが多いです。
農地と住宅ローンとの関係

住宅ローンの審査には、地目が農地のままで行うことはできません。基本的に開発許可を受け、建築確認が済んでいる場合には、住宅ローンの申込みをすることは可能です。
ただ、「農地に住宅を建てることができる」と「住宅ローンの審査がおりる」というのは必ずしもイコールではないと言えます。住宅ローンの審査の場合、その不動産の担保としての価値について判断されます。
そもそも農地という地目のままでは、多くの金融機関は融資に消極的です。住宅ローンを利用するなら、宅地への地目変更が前提条件です。地目変更したとしても、慎重に扱われる事案です。都市計画の一環として大きく宅地開発された農地、市街化区域内の農地であれば、あまり問題なく「宅地」として十分に価値のある担保と考えられることもあります。
前項でお話したような市街化区域と生活圏を一緒にするような市街化調整区域の農地は、都市計画法34条によって許可がおりやすく、扱いが市街化区域と同等なので万が一の住宅ローンの滞納時にも売却しやすいと考えられます。
一般的には市街化調整区域の農地売買は購入者に制限があるなど、流通性で一般的な住宅よりも担保価値が低く判断されます。住宅ローンの融資も審査が厳しくなる傾向です。
まとめ
繰り返しますが、農地はそのままではマイホームを建てることができません。また、市街区域内の農地は転用の手続きが比較的簡単ですが、市街化調整区域の場合は手続きの手間も増えますし、必ずしも許可を受けることができないです。
また、地目が農地であっても周辺状態から現況が宅地として考えられる、市街化区域内の農地であるという場合は比較的手続きがしやすく、一般的な宅地のように許可も受けやすいです。そして住宅ローンでも担保としての価値があります。
農地を宅地にして利用するのは、その立地や状況によって全体的に手続きや条件も異なります。一般的な宅地よりも安く購入できるかもしれませんが、その土地が持つ背景を十分に考慮しながら慎重に検討していきたいものですね。