住宅を建てることができる土地の中には、地図上では特に問題がなさそうでも、現地を見に行ったら住宅ローンの評価や資産価値としての評価が下がるポイントが見つかる場合があります。
どんな土地がマイナスとなるのか事前に知っておくと土地選びの指標ができます。マイナスとなる特殊な事情が背景にある土地についてお話していきたいと思います。

目次
高圧線の下にある土地

毎日生活する上で欠かすことができないものの一つに「電気」があります。電気を届けてくれる電線は、電柱を支えに街中に張り巡らされています。
そして、電柱だけでなく少し大きな鉄塔を見かけることもあります。電柱で支えている電線は、鉄塔で支えている送電線とは電圧が異なりますが、鉄塔周辺も住宅街となっていることは珍しくありません。
このような高圧線の下にある土地は、住宅の建築に決まり事があるため、確認しておくべきことが多いものです。
高圧線とは?
発電所でつくられた電気は電線を使って運ばれますが、発電所で作られた高圧の電気は危険なので、直接家庭に運ばれることはありません。まずは、高圧線から送電線を経て変電所に運ばれ、低圧に電圧を変えて一般家庭に運ばれます。
電圧には種類があり、以下の表のようになっています。
低圧直 | 流750ボルト、交流600ボルト以下 |
---|---|
高圧 | 直流750ボルト、交流600ボルト以上7000ボルト以下 |
特別高圧 | 7000ボルト以上 |
土地の資産としての評価を知る上で価格に減価の影響が出るのは、特別高圧の下の土地となっています。
制限が多い

高圧線の下にある土地は、周辺の取引よりもお得に購入できることがあります。手ごろな価格を見て現地確認したら、近くに鉄塔があって高圧線の下だったということがあるかもしれません。
また、大きな鉄塔が近くにあれば見逃さないでしょうが、土地の形や道路の幅など地上の部分に気をとられ過ぎると、送電線に気づかないまま契約段階まで進んでしまうケースもあります。
実は、高圧線の下の土地には「地役権」が設定されていることもあり、その場合には住宅を建築する時に一定の距離を保たなければならない等の制限が設けられています。しっかりと確認しておきたい事項です。
地役権とは
地役権が設定されている土地は、設定時に定められた目的のために土地を他人のために提供するというものです。
提供をすると言っても、相手に差し出すということではありません。高圧線の下の土地で地役権が設定されている場合には、「送電線」に影響が出ない範囲でしか建物を建築することができないということになります。その範囲については、送電線の電圧や送電線の高さによって異なります。
もし、「6m以上の建物は建てられない」などと低く設定されていれば、一般的な2階建の住宅が無理なこともあります。このように、高圧線の下の土地は、「自由に利用するのが難しい」という事情が背景に隠されている土地であり、評価が低くなってしまう現実は避けることが難しいのです。
また、住宅ローンを利用する場合、担保評価が低くなるため希望の借入額を借りることが難しくなってしまうケースもあります。
地役権が設定されいていると…
- 送電線の下建物の高さが制限される
- 担保価値が下がる ⇒ 希望額の借入難しくなる可能性もある
地役権設定はコレで調べる
高圧線の下にある土地が土地の評価や住宅ローンに影響があるかどうかを知りたい場合には、現地での目視による確認だけでなく、法務局で公図や登記簿謄本でも知ることができます。
公図
公図を見て高圧線の下の土地であると分かるのは、その土地が三角形や台形のような形に分筆されていることです。
一筆分の土地の公図を取得すれば、周辺の土地まで印刷されていて、隣地や周辺の土地も同じように分筆された形が分かります。繋げた状態の形は、送電線が通っているような形状となっているでしょうから気づきやすいです。
不動産登記簿謄本
また、不動産登記簿謄本も取得してみましょう。現在は登記事項証明書といってコンピューター化されていています。
権利関係も含めて土地のすべての事項について証明するものを「全部事項証明書」、土地の所在・所有者や面積という一部の必要な事項を証明するものを「一部事項証明書」と言います。
権利関係を確認するには、前者の全部事項証明書を取得する必要があります。
土地の所在や地番、地目(宅地、田、道路などといった土地の種別)、面積について記載されている部分が「表題部」、権利関係の詳細が記載されている部分が「権利部」です。
権利部は、甲区と乙区に分かれていて、甲区の方には土地の所有者の住所や氏名、登記の受付がされた年月日が記載されています。
一方、乙区には所有権以外の権利に関する事項が記載されています。抵当権や根抵当権、地役権も乙区に表示があるでしょう。
地役権が設定されていない場合もある?
しかし、高圧線の下にある土地でも、登記はせずに、電力会社となんらかの契約だけを結んでいることもあるので注意が必要です。どのような状況になっているかを知るには、電力会社に確認してみなければ明確な事実が分からないこともあります。
高圧線の下の補償契約とは
登記簿謄本上で地役権が設定されている場合、対価として電力会社からお金が一括で支払われます。一方、地役権が設定されていないけれども補償契約をしている場合、年賦払いで電力会社からお金が支払われます。
土地の評価
高圧線下地は安く購入できるメリット的な部分もあるものの「安い=訳あり」ということです。
一般の土地と比較しても流通性には問題がありますし、その他のマイナス要因も含んでいます。そのため、不動産の価値を知る鑑定や住宅ローン申し込みの際の担保評価では減価されてしまいます。
土地の上空に高い電圧の送電線が通っているため、安全上に基づいた規定による建築しかできない物理的要因もありますが、心理的な要因も評価の低さに繋がっています。
心理的な負担がある土地
利用する際に制約があったとしても、それを我慢さえすれば、電力会社からの補償料をもらうことができるため、お得と考える方もいるかもしれません。考え方は、その人次第ですが、一般的には人気がない土地です。
電磁波の影響
まず、多くの人が考えるのは送電線による電磁波の影響です。健康への被害があるかどうかは、さまざまな研究が行われているものの、日本では因果関係については明確になっていません。
しかし、高圧線からは電磁波が発生していることは確かなので、全く影響がないとは言い切れません。そもそも、高圧線の下に住むということは、「怖い」「不安」「心配」という心理的負担が大きくなるため、ストレスとなり体調に影響を及ぼすこともあるかもしれません。
音
特に、高圧線の鉄塔の付近では雨の日には、不快な音がするようです。「ブーンブーン」「ジージー」「パチパチ」など、気になるという方が多いでしょう。
この音は、高圧線から放電されることによるものなのですが、雨の日に聞こえやすいのは空気中の湿気が多くなるためです。安全性に問題がない症状であるとはいえ、音が気になって一層不安が増すという方もいるのではないでしょうか。
不安要素

また、「強風時には断線などがあるのではないか」「電波障害が起こるのではないか」「体に影響を及ぼすと言われる電磁波は大丈夫なのだろうか」といった不安や心配は、購入前よりも住んでみてから増すケースも多いかもしれません。
こういった心理的な問題からも、住宅ローンの担保評価の際には、土地の評価が減価されてしまうものなのです。高圧線の下にある土地は、こうした減価の影響を受けるということを購入時には認識しておくことが大事です。
固定資産税の支払い
地役権が設定されていて、利用に制限があったとしても所有者が固定資産税を支払わなければなりません。ただ、前述しましたように土地としての評価が低くなるため、固定資産税の評価額も低く、税金の支払い額も減額されていると考えてもいいでしょう。
固定資産税の評価は自治体によって異なる部分はありますが、高圧線の下となる土地が所有地の何割にあたるかということで、減価率は異なっています。一般的には、所有する土地の面積のうち、地役権が設定されている割合が多いほど、マイナスポイントとなり評価がかなり下がることになります。
嫌悪施設が周辺にある土地
土地探しをしている時に「嫌悪施設」という言葉を耳にすることがあるかもしれません。文字の通り理解するとすれば、「人々から嫌がられる」という悪いイメージが頭に浮かびますよね。先ほど取り上げていた高圧線下の土地も、嫌悪施設として考えられることもあります。
嫌悪施設は、一般的には好まれないことがあるので、近隣に嫌悪施設があると土地の評価および住宅ローンの担保評価の際に影響が出ることがあるので、住宅ローンを利用してマイホームの購入を考えている人はチェックしたいポイントです。
嫌悪施設
嫌悪施設には明確な定義がありません。それは、人の感じ方には差があるものだからです。しかし、土地の評価や住宅ローンの担保評価の際には、一般的な視点で考えられます。
生活していく上で「住環境」を考えた時にふさわしくないのでは?と嫌悪感を抱くことが多い、一般的に嫌悪施設と言われる例について見ていきましょう。
工場、ゴミ焼却場

工場と言っても付近が工場ばかりの土地であれば、嫌悪施設として言われることはないでしょう。しかし、住宅地の付近にあれば気になる面が多いのが実際のところです。現地を一度チェックしただけでは気づきにくいことも多くあります。
例えば、騒音。工場の稼働時間が24時間とひっきりなしならば、夜間でも休日でも騒音がすることもあります。大きな車両が出入りしている工場ならば、なおさら気になってしまうのではないでしょうか。
また、空気が悪いという話もよく耳にする話です。近隣に工場があった場合でも、風の流れによって臭いの流れも変わりますから、一度の現地見学では分かりづらいこともあります。
墓地、火葬場

家の中に入ってしまえば、墓地を見なくてもいいと割り切って住むことはできますが、評価としては下がります。墓地が近くにあることで考えられることが、眺望の問題です。
すがすがしい朝に窓を開けて飛び込む風景が「お墓」という生活は、毎日続くのは気が晴れないものでしょう。外出時には立ち並んでいるお墓を眺めながら通行しなければならず、精神的に滅入ってしまう可能性もあります。
また、火葬場も同様です。日々、霊柩車や喪服を着た人達が通行するのが目に入ってしまいます。なんとなく、重々しい気持ちになってしまうものではないでしょうか。
こういった心理的な負担があることから、評価時に減価されてしまうのは避けられません。住宅ローンを利用したいと思うのであれば、こういった心理的要因からマイナスポイントとなる土地については、熟考する必要があります。
埋蔵文化財包蔵地

次にお話するのは、埋蔵文化財包蔵地です。歴史的な貝塚、古墳、土器、石器、住居跡などといった古い時代の歴史的な文化財が埋もれている土地のことを指します。
今現在、人々が住んでいる地域は、かなり古い時代から人間が住んでいたと思われ、こういった文化財が土中に埋まっていることはあることかもしれません。
そのような歴史的な遺産が土中に埋まっているような土地であると認識されている土地のことを「周知の埋蔵文化財包蔵地」と言います。実は、全国でも数多くの場所があり、保護しなければならないとされています。
建築工事をする時は…
埋蔵文化財包蔵地に該当する土地の場合、文化財保護法により工事の60日前までに届け出をすることになっています。文化財包蔵地の管轄は文化庁ですので、届出は教育委員会となります。届出後には教育委員会の指導により、試掘をされるケースとされないケースがあります。
周辺が未開発であったり、建物が建っていない更地状態であったりするケースでは、試掘により文化財が埋まっているかどうかの確認が行われることが多いようです。
こういった遺跡調査には時間がかかってしまい、工事が先送りになるというマイナス面があります。さらに、工事が数か月遅れになるため、仮住まいの家賃費用などが余計にかかってしまうこともあります。
埋蔵文化財包蔵地を利用する際のポイント
- 工事の60日前までに教育委員会へ届け出る
- 届け出後試掘の有無がきまる。
- 試掘で文化財が見つかると工事が先送り ⇒ 仮住まいの費用が余計にかかる
古屋付の土地の場合
一方、既に中古住宅が建っているような古屋付の土地の場合は、そのままリフォームだけで済むならば特に届け出の必要はないでしょう。
また、建て替えの場合ですと届け出が必要になります。その住居が建築される際に調査をしていることが多いので、試掘をされるケースはあまりないと考えてもいいかもしれません。
ただし、過去に適切に調査がされていない場合は、新たに試掘調査が入る可能性もあります。調査費用に関しては、各自治体によって補助金が出ることもあるようです。いずれにせよ、教育委員会の指導内容に従う必要がありあります。
状況によって流れが異なるものではありますが、過去の調査が適切に行われているようなケースでは、住宅ローンの審査にもあまり影響がないと判断されることも多いです。
一般的には、住宅ローンでは仮審査よりも、本審査で担保となる物件について細かく審査されますから、埋蔵文化財包蔵地の場合も周辺の過去の出土状況などが、判断基準になります。
世田谷区の「埋蔵文化財保護のための届出」
http://www.city.setagaya.lg.jp/kurashi/106/152/d00004052.html
埋蔵文化財包蔵地を知るには
全国で、埋蔵文化財包蔵地とされている地域は、40万か所以上と相当箇所数にのぼります。不動産会社側としては、重要事項説明としてこの事実を買主に伝えなければならないとされています。しかし、説明をすることを怠り後で事実が発覚するケースも少なからずあります。
その事実を後で知ることで届出や調査に時間がかかってしまい、工事が伸びてしまうのも大変です。そもそも、埋蔵文化財包蔵地と分かっていれば購入しなかったということもあるでしょう。そこで、事前に知ることも大切です。
各自治体のホームページを見ると、遺跡に関する地図の情報を知ることができるので、事前にチェックして大まかな情報を知っておくといいかもしれませんね。気になる点があれば、不動産会社の担当者や役所に尋ねるなどしてみることも大切です。

出典:東京都世田谷区ホームページ
せたがやiMap(世田谷区電子地図情報配信サービス)より
まとめ
このように、特殊な事情が背景にある土地は、一般的な宅地と比較すると手続きや心理的な負担が大きいということを事前に把握しておく必要があります。
個人で考え方が違うため、「土地の事情に関して全く気にしない」と安く購入できるメリット優先で特殊な土地を購入する方もいるかもしれません。
しかし、一般的にはマイナス要因となるポイントも多く含まれていることから、住宅ローンを借り入れる場合には担保評価が低くなることも踏まえつつ、購入前に十分検討することを強くすすめます。