みなさん、「商工会議所」という組織をご存じでしょうか。

「名前は聞いたことがあるけれどもよくわからない」、「田舎の実家の会社は入会していた。強制加入じゃないの?」といろいろなイメージを持っていらっしゃる人もいるのではないでしょうか。 今回から商工会議所というものについて、シリーズで解説をしていきたいと思います。

商工会議所に入って活動することで、みなさんの会社や経営にとってプラスになることができれば、それは素晴らしいことではないのかと思います。そのためのお手伝いをさせてください。

商工会議所
(丸の内にある日本商工会議所の本部)

商工会議所という組織について

商工会議所とは「商工会議所法」という法律によって規定されている「特別認可法人」である公益経済団体です。わかりやすくいいますと、いわゆる「公益法人」の一種なのですが、その設立について法律で規定されているため、法律がある限りなくなることがない、極めて安定した組織になります。
 

英語で商工会議所は「Chamber of Commerce and Industry」といいます。略して「CCI」と呼ばれることも多く、この略称は憶えておきましょう。

 
「○○協会」のように任意団体ではないので、法律や制度上のバックアップが豊富で、資金的な援助が自治体や国からある場合もあります。要は「お役所」ではないけれども、お役所的な業務を行い、安定した組織基盤を持っている組織ということになります。

商工会議所と商工会

よく混同されるものに「商工会」があります。やっている内容は同じような業務が多く、検定試験など共通に行うこともありますが、その根拠となる法律などに違いがあります。

商工会議所 商工会
根拠法 商工会議所法 商工会法
主管館長 経済産業省 中小企業庁
管轄範囲 市区単位 町村単位
会員規模 中小企業に加えて大企業も加入している 地域の中小企業や個人事業主なメイン
業務内容 政策提言や会員交流事業、貿易証明、経営改善普及事業などさまざま 経営改善普及事業がメイン

 

細かく書くときりがないのですが、商工会は商工会議所よりも規模が小さく行う業務も、その地域の規模に沿って小さいものが多くなっています。これは、お金などに苦労しているということもあります。

商工会議所は「市区」単位が中心ですが、中には「国分寺商工会」のように国分寺『市』という単位であっても商工会であるところも存在するため、完全に「市区=商工会議所」「町村=商工会」という区別にはなっていません。

商工会議所の会員にならなくてはいけないのか

次に商工会議所への入会について項目を分けて、考えたいと思います。

商工会議所の歴史とその種類

まずは商工会議所の成り立ちについて考えます。商工会議所はもともと1599年にフランスのマルセイユに設立された「商業会議所」を起源にしているといわれています。その後各国で設立が続きます。

商工会議所の組織体系は大きく分けると以下の2系統が存在しています。

  • 英米系:地域の事業者の商工会議所への加入は任意です
  • 英仏系:地域の事業者は商工会議所へ強制加入となります

日本の商工会議所は上の「英米系」の体系を取っているため、強制加入ではなく任意になります。商工会議所に入会しなくても事業を進めることができますし、問題はありません。

日本の商工会議所の歴史

戦前の日本では、1878年(明治11年)に東京、大阪、神戸の3都市に「商法会議所」という名前で設立されたのが最初です。

その後、1892年(明治25年)に15の「商業会議所」が「商業会議所連合会」を結成しました。戦後は、商工会議所法に基づく認可法人の位置付けとなっていて、現在に至ります。

現在の体制としての「商工会議所」は、1953年8月に制定された「商工会議所法」に基づいています。「商工会議所青年部(YEG)」や「商工会議所女性会」などの組織も存在しています。

「青年会議所」(JC)と商工会議所青年部は異なる組織です。同じ人が加入していることもありますが、完全に組織体制としては別物だと考えてください。

 




商工会議所の加入率

地域の商工会議所の加入率(事業所の占める会員の割合)はどうなのでしょうか。
 
個別具体的な数字は公表されていないのでわかりませんが、簡単にいいますと 下記の傾向があります。

  • 大都市:低い
  • 地方都市、小都市:高い

日本最大の「東京商工会議所」(東京23区内を管轄)の加入率は10%台です。逆に考えると、大多数の東京23区内の事業所は会員ではないということです。

地方での商工会議所の加入意義

地方の商工会議所の加入率は高く、50%を大きく超えるところもあるといわれています。このことは、商工会議所のサービスが充実しているということではなく、地方のほうが「地域コミュニティ」の1つとして商工会議所が認識されているということになります。 大都市になるほど人間関係が希薄になるのと同じ現象ですね。
 
商工会議所に入会していないと、事業から外される、仲間外れにされるということもあるということです(実際に活動しているかどうかはさておき)。これは日本の任意加入という商工会議所の制度趣旨からは外れてしまうことではありますが、現実として存在すると認識してください。
 
一方で、「商工会議所会員」であることで、その企業の信用度が高くなるということもあるようです。それもやはり地方のほうが信用は高いようです。
 

商工会議所の会費

商工会議所は年会費を支払う必要があります。任意加入ですので、会員となることを希望する事業所は相応の負担をすることになります。
 
一般的に商工会議所の場合 、入会金(数千円)
と年会費があり、年会費は下記通り分かれています。

  • 法人(株式会社をはじめ有限会社、合同会社、合資会社など)
  • 個人事業主

 
東京商工会議所の場合年会費は下記の通りです。

  • 法人:15,000円以上
  • 個人事業主:10,000円

法人の会費は資本金によって変動します。簡単にいうと、資本金が大きい会社ほど年会費は高くなります。誰でも知っている大企業の場合は年会費が数百万円というところもあるようです。
 

商工会議所への加入資格

商工会議所の会員となるためには、現に事業を始めていることが条件となります。開業届のコピーが必要ということはありませんが、事業実態がない場合は入会を許可されない可能性があります。
 
開業前であっても商工会議所への事業相談は可能ですが、あくまで事業主の団体であります。法人である必要はなく、個人事業主であっても大丈夫です。商店街にある「○○商店」や、個人でライター、デザイナーを行っているという場合であっても大丈夫です。

商工会議所の会員になれない業種

商工会議所の会員になれない業種があります。具体的には下記の業種は会員になることはできません。

  • 病院
  • 一部芸能関係
  • 風俗(性的サービスがあるもの)
  • 消費者金融(銀行は大丈夫)
  • 政治団体、政党
  • 宗教団体

大学などは以前、会員になれませんでしたが、数年前より会員資格を得ています。逆に考えると、上記以外の業種でしたらまず問題ないと考えてください。
 

風俗関連であっても「マッサージ店」や「飲食店」として入会しているところもあるようです。
 
商工会議所の会員だと対外的信用度が増すので、警察などが入りづらい(本当のところは知りませんが)という意識があるようです。厳密にはこのようなことはNGです。

 

商工会議所の事業について

次に商工会議所が何をやっているのか説明いたします。細かい事業内容については、次回以降の記事で説明いたしますので、今回は大まかな分類について書きたいと思います。

一般事業と経営改善普及事業

これは内部の問題ですので、実際に会員として利用される人にとってはあまり意味のないことかもしれませんが、実は商工会議所の事業はお金の出どころが違う下記の2つの事業から成り立っています

  • 一般事業
  • 経営改善普及事業

商工会議所の収入の区別

まず、商工会議所の収入について考えたいと思います。 商工会議所は特別認可法人であると書きましたが、完全に公的な資金で運営されているわけではありません。以下の3本柱によって運営されていると考えてください。

1. 会費収入

上記のように会員の規模に応じた収入です。比率でいいますと、これがいちばん大きいところが多いです。

積極的に入会を勧めてくるのは、会費収入を増やしたいからにほかなりません。
2. 事業収入

商工会議所の簿記検定は有名ですが、そのほかの検定試験やセミナー、共済などによる事業収入です。商工会議所法によって実はできることは限られているのですが、その中で各商工会議所が工夫して事業を行い、収入を増やす努力をしています。

3. 補助金収入

各地方自治体や国からの助成金による収入です。後述しますが、この資金は使途が定められていて何にでも使えるものではなりません。

一部職員の人件費がここから支出されることがありますが、要件が厳しく年々補助金収入は減少しています。これは自治体の財政悪化とも連動しています。

 
商工会議所のお金の入り口について、簡単に理解していただいたところで、今度はお金の出口について説明します。

一般事業について

収入のうち、会費収入と事業収入をメインとして行う事業です。挙げていくときりがないので簡単に説明します。

会員交流事業

賀詞交歓会やビジネス交流会などの会員相互の親睦を図り、経営に資することができるための事業です。その規模はさまざまですが、これに参加することで横のつながりができます。

視察会やボーリング大会などが企画されることもあります。もちろん、任意参加です。
政策提言活動

地方自治体や国、政府などに政策提言を行います。「○○法」を改正してほしい、どこの道路を整備してほしい、中小企業向けの税制を拡張してほしいなど、直接要人に会ってお願いをします。

一般の会員の人にはあまりなじみのない分野です。会員向けにアンケートが送られてくる場合もあります。
国際化支援

中小企業であっても、国際化の波に遅れることはできません。どういった社内環境を整備すればよいのか、外国企業との付き合い方、定款の改正等のサポートを行います。

検定事業

簿記検定が有名ですが、そのほかにもさまざまな検定試験を企画、運営しています。

商工会議所名 行っている検定事業
日本商工会議所 簿記検定、販売士検定など
東京商工会議所 カラーコーディネーター検定、ビジネス実務法務検定、ECO検定など
大阪商工会議所 メンタルヘルスマネジメント検定、ビジネス会計検定など

代表的なものとして上記のものがあります。このほか、各地の「ご当地検定」を行っているところも多くあります。全国各地で検定試験を受験することが可能です。

研修、セミナー事業

経営者向け、あるいは一般社員向けにセミナーや宿泊研修を行っています。実費を負担していただきますが、セミナー会社のものと比べると廉価です。

商工会議所運営ということもあり、講師も著名で実績のある方が多くなっています。
共済事業

生命保険や傷害保険と同じような共済制度を持っています。経営者や社員が加入することができ、商工会議所の規模のメリットを活かして安い金額で入会することが可能です。

最近ではPL共済なども整備されていますし、生命共済や病気に対応した共済もあります。これだけで十分に保険をまかなうことができます。
福利厚生支援サービス

大企業ですと独自の福利厚生サービスがありますが、中小企業はそういうわけにもいきません。各地の商業施設、宿泊施設の割引や、フィットネスクラブ利用券などさまざまなプランを用意しています。

これも会員だから可能なサービスです。
異業種交流会

年会費とは別に会費を払って参加するサークル活動です。上述の「青年部」や「女性会」が該当します。ビジネス以上に人間的なつながりを作るためのものです。

非常に濃い仲間が集まります。正直に言いますと、合わない人は合わないので無理に参加する必要はありません。
独自の融資制度

各商工会議所単位で独自の融資制度を設けているところがあります。

例えば東京商工会議所の場合は

創業支援融資保証制度
信用保証協会と協力して、創業資金の提供を行う制度
メンバーズビシネスローン
会員であることを示すと、銀行の融資を受ける際に、金利が下がる、手数料が割引になるなどの特典があります。

これは商工会議所独自のものなので、どの商工会議所の会員でも受けられるものではありません。

 
大きな一般事業は以上になりますが、そのほかにも数多くの事業を行っていて、これは会員だけのサービスになります。
 

経営改善普及事業について

補助金収入で行う事業です。これは、完全に中小企業や個人事業主、あるいは創業希望の方向けに行っているものです。大企業の人はこのサービスは受けられません。

大前提は下記の通りです。

  • 無料である
  • 商工会議所の会員であることを問わない

自治体から依頼されていることなので、商工会議所はこれでお金を稼ぐことができません。

利用者は商工会議所の会員であることは必要なく、区別してもいけないもので、これを理由に(入会を条件に)サービスを行うことは厳禁です。

つまり、こちらのサービスだけ受けるのであれば、商工会議所の会員になる必要はまったくありません。そのことを踏まえて、以下のような事業を行っています。

経営相談

いわゆる経営コンサルティングです。決算書などを見ながら、こうしたほうがいいというアドバイスを受けることができます。

経営指導を行う経営指導員にはさまざまなバックグラウンドを持つ人がいます。 その豊富な経験によって具体策を得ることができると思います。
マル経融資

商工会議所が行う独自の融資です。これが多分、経営改善普及事業ではいちばんメインになるものだと思います。

マル経融資とは「小規模事業者経営改善資金融資制度」の略称で、日本政策金融公庫(政府系金融機関)の融資メニューの1つです。

通常、金融機関から融資を受ける場合は、担保や保証人が必要になりますが、中小企業や個人事業主の人はなかなかそれを用意することができません。そうした方向けに、ある意味国がバックアップするための制度です。 制度の概要は以下のとおりです。

  • 担保や保証人の代わりに、商工会議所が継続的に経営指導を行う(指導金融)
  • 融資限度額 2,000万円
  • 運転資金、設備資金ともに利用可能
  • 非常に低利 2015年6月現在 1.25%/年
  • 従業員数などに条件がある(本当に小さな企業しか利用できない)
  • 金利は通常の銀行からのローンと比べても異常な低さです。
  • 運営が政府系金融機関なのでつぶれることはまずありません。
審査

正直なところ審査がかなり緩いです。推薦状を書く経営指導員の腕によるところもありますが、ほかの金融機関で断られた事業所であっても、これが通る可能性があります。
 
消費者金融や高利のローン(10%以上)に頼る前にまずこれを申請するのが大切です。

既に消費者金融などからの借り入れがある場合は、マル経であってもかなり審査が厳しくなるので注意してください。消費者金融などに行く前にまずこれです!
そのほかの融資

マル経融資以外にも、融資につながるメニューがあります。 直接銀行から借りる場合であっても、経営指導を受けていると金利が下がることがあります。

日本政策金融公庫の通常融資を受ける際も、あっせん書を添えてもらえます(気持ち通りやすくなります)。
講習会

一般事業のセミナーに近いですが、こちらは無料で行うセミナーです。講師謝金が補助金から出ているため、商工会議所は受講料を取ることができません。

謝金にも基準があり、それほど高い謝金を払うことはできないため、講師の質については一般事業のほうが高いケースが多いです。無料なので文句は言えないということですね。
専門家指導

経営指導員ではなくコンサルタントや技術士、弁護士などが事業所を訪問してアドバイスを行います。これを受けることで、展示会などの出展費用の補助を受けられる場合があります。 もちろん費用は無料ですのでこれはお勧めです。

専門相談

商工会議所の窓口に弁護士や社労士、弁理士などが常駐していて、専門家による相談を受けることができます。費用は無料ですが、時間が限られています。 内容は経営に関することです。

弁護士相談ならば、取引先との契約トラブルなどは相談可能ですが、家庭内の離婚問題などはNGです。自治体の無料相談とはここが違うので注意してください。

 
補助金による経営改善普及事業は以上になります。繰り返しますが、この事業は補助金で行われているため、商工会議所の会員であることを必要としません。 「マル経融資を通すから会員になってくれ」ということは商工会議所の職員はやってはいけないことなのです。

商工会議所を通じた資金調達については、「商工会議所による創業時の資金調達について」の記事で詳しく説明したいと思います。今回は商工会議所の事業の概略です。

 

会員になるメリットはあるのか

以上、商工会議所の概略とその事業について解説いたしました。

商工会議所の2大事業

  • 一般事業
  • 経営改善普及事業

大きく分けると「一般事業 」と「経営改善普及事業」の2つがあり、特に融資を期待する場合は後者の経営改善普及事業のサービスを受けることになります。

その場合、商工会議所の会員である必要はないので、その限りにおいては入会のメリットはなさそうに思えますがどうなのでしょうか。

デメリット

まず入会することのデメリットを考えましょう。
結論から言うと「商工会議所の会員になるデメリットは会費だけ」です。

一般事業に参加する気持ちがないならば、年間数万円になる年会費は無駄になってしまいます。 マル経融資による資金調達や経営相談だけを商工会議所に期待するのであれば、入会する必要はありません。

「申し訳ない」とかそういう気持ちは全く不要です。書きました通り、その経営改善普及事業を行うために、商工会議所は補助金を受けているわけですから、補助金に見合ったサービスの提供なので、好意とかそういうものはないので安心してください。

なお、入会しても会費未納が続くと自動的に退会になります。ただし、融資のように未納、滞納によって信用情報に傷がつくということもありませんので安心してください。金融機関のデータとの連動はありません。

メリット

一般事業のサービスに期待するのであれば入会のメリットは大いにあります。

年会費だけで、福利厚生サービスや共済の元は十分に取れますし、会員交流事業に参加すれば「お金では得られない人的財産」が手に入るかもしれません。

一般事業に期待しないという人もいらっしゃると思います。その場合、無理に入会する必要はありませんが、会員の場合、商工会議所から各種のお知らせが届きます。

新しい融資制度や、マル経の制度変更(例えば以前の融資限度額は1,000万円でした)などを知らせてくれることもあります。

加えて、専門相談の日程案内なども届きますので、融資や経営を取りまく環境について最新の情報を手に入れることができます。

上記のメリットと年会費を勘案してどう判断されるかだと思います。

結論

商工会議所の入会については、資金調達だけを考えるのであれば不要。しかし、そのほかの情報やサービスを考えた場合、年会費と天秤にかけて判断していただくことになります。

何度も繰り返しますが、資金調達を含む経営改善普及事業と商工会議所の会員であることは、ひも付けされていませんので、皆さんご自身で判断してください。

「申し訳ない」とか考える必要はありません。向こうもそのためのお金をもらっているので安心してください。 次回「商工会議所による創業時の資金調達について」の記事で資金調達などについてもっと詳しく解説していきます。

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