テレビなどで闇金業者が借り手に生命保険の加入を迫るシーンを目にしますが、現実にはどうなのでしょうか?
お金を借りる際に、生命保険による返済を無制限に認めると、自殺の誘発や自殺の強要などのリスクがあります。
ここでは、生命保険による返済を認めることで起こった問題や、そうした問題への対策としてどのような制限があるのかについて、詳しく説明していきます
生命保険と返済のポイント
- 過去は知らないうちに生命保険を契約していることも有った
- 貸金業法の改正により自殺での保険金による返済はできなくなった
目次
自殺でお金を返すことはできるのか

お金を借りる際に、借り手が死亡した場合に保険金で残債を払う「消費者信用団体保険」という生命保険があります。
この保険を使うと、自殺をしてお金を返すということも可能になってしまうのでしょうか。
消費者信用団体保険とは
消費者信用団体保険は、消費者金融などの金融機関を利用する際に、金融機関が契約者となり、債務者が被保険者となる生命保険です。
通常の生命保険は被保険者が契約者となるのが一般的ですが、消費者信用団体保険の場合は被保険者に万が一のことがあった場合、保険金は金融機関に支払われます。
それによって債務者が死亡した場合に債務がなくなり、遺族等の生計を安定させることを可能にします。
消費者信用団体保険の過去の問題点
消費者信用団体保険に加入することにより、債務者が死亡した場合に遺族の負担がなくなるというメリットがある一方、法律が整備される前までは次のような問題点もありました。
債務者が知らないうちに被保険者になっていた
消費者信用団体保険契約を結ぶ際、一昔前までは、お金を借りる人、つまり被保険者になる人にしっかりとした説明が有りませんでした。
お金を借りる契約をする際に知らないうちに消費者信用団体保険の契約もさせられている、という状況が当たり前でした。
自殺の場合でも保険金がおりていた
消費者信用団体保険は自殺の場合にも保険金がおりていたため、債務者が借金を返すために自殺をしたり、消費者金融が借金を返してもらうために自殺を強要する場合がありました。
下記の表は、平成18年3月期に消費者金融17業者の消費者信用団体保険実績について、金融庁がまとめたものです。
この表を見ると、自殺による保険金受け取り件数は、消費者信用団体保険の全受け取り件数のうち約1割、死因が判明している受け取り件数のうち、約2割を占めています。
この頃は、自殺によって借金を返済するケースが非常に多かったことがわかります。
貸金業法の改正
金融庁は、上記のような消費者信用団体保険の問題を根本的に解決するため、消費者金融やカードローン商品を取り扱う金融機関など、全ての貸金業者が守らなければならない「貸金業法」という法律を改正しました。
どのように改正されたのでしょうか。
自殺では保険金がもらえないように
貸金業者は、借り手の死亡によって保険金額の支払いを受けることとなる消費者信用団体保険のような保険契約を結ぶ場合は、自殺による死亡を保険事故(※)とする生命保険契約を結ぶことを原則禁止としました。
※保険事故とは…その事故が発生した場合に、保険業者が契約者に対して保険金を支払わなければならない事故のことを言います。
自殺で保険金がもらえない場合、相続人はどうする?
債務者の自殺によって保険金が支払われる保険契約が禁止されるということは、万が一債務者が自殺した場合、相続人が借金を相続することになります。
その場合、相続人は相続放棄、相続財産の破産など、借金を相続しないための手続きをとることが可能です。
自殺を保険事故とすることができる場合(例外)
自殺を保険事故とする生命保険契約は原則禁止とされましたが、住宅ローン契約の場合は例外として自殺を保険事故として生命保険契約を結ぶことが認められています。
もし住宅ローン契約の際に自殺が保険事故として認められなければ、万が一借り手が自殺してしまった場合、残された遺族は住宅ローンを相続しないことを選択することはできますが、その場合住宅自体も失ってしまいます。
被保険者が自殺した後の遺族の居住場所を確保するために、住宅ローンの場合は例外として自殺を保険事故とすることが認められているのです。
生命保険の契約には必ず同意と書面の交付が必要
借り手の死亡によって保険金を受け取る生命保険契約を結ぶ場合、必ず被保険者の同意が必要です。被保険者の同意がない生命保険契約は無効になります。
また、貸金業者がこの同意を得ようとする際は、事前に次の事項を記載した書面を被保険者に交付することが義務付けられました。
- 当該保険契約が、被保険者が死亡した場合に貸金業者に対し保険金額の支払いをすべきことを定めるものである旨
- 貸金業者に支払われる保険金が貸付の契約の相手方の債務の弁済に充てられるときは、その旨
- 死亡以外の保険金の支払事由
- 保険金が支払われない事由
- 貸金業者に支払われる保険金額に関する事項
- 保障が継続する期間に関する事項
このように被保険者への同意に関する法律が厳しく改正されたことで、借り手が知らないうちに生命保険に加入させられているという状況を防ぐことができるようになりました。
現在の消費者信用団体保険と消費者金融
金融庁が法律を厳しく改正し、消費者信用団体保険の契約をする際は、お金を借りる契約とは切り離して手続きをするよう金融機関に指導されるようになりました。
結果、金融機関側の事務コストが増えることになり、現在では大手消費者金融は消費者信用団体保険が付いている商品を廃止しています。
この法律改正によって経営が悪化した大手消費者金融は、銀行の系列会社となっていきました。現在の大手消費者金融が大手金融機関の傘下にあるのは、このような背景からです。