フィンテック

2017年は日本におけるフィンテックの始動の年となり、多くのサービスが生まれ、また普及しはじめました。

その最たるものはビットコインをはじめとする仮想通過で、これまで投資やITに関わりのなかった人にまで認知されるようにまでなりました。

華やかな仮想通過ほどではありませんが、個人向けの資金調達についてもフィンテックの波が押し寄せてきています

個人向けの融資や調達のサービスには、ベンチャー企業からメガバンクや通信キャリアまで参入し、お金の提供方法も多様になりつつあります。

これまでの個人向け資金調達は消費者金融や銀行カードローンを中心とした借り入れが中心でしたが、今後どのように変わっていくのでしょうか。

2017年に生まれた資金調達関連のフィンテック・サービスを3つご紹介しながら、消費者金融との関係についても見ていきましょう。

 

CASH(キャッシュ)

cash

2017年6月にローンチし、サービス開始から16時間後にサービス停止(正確には新規査定の受け付け停止)となり話題となったのがCASHです。

CASHのサービスは一言でいうとネットで完結する「質屋アプリ」(※)です。自分の持ち物を質草(しちぐさ)としてお金を融資しもらえるサービスです。

※ この取引が質屋なのか古物商なのか貸金なのかの議論はありますが、サービスの理解の容易性のためにここでは質屋と例えています。

 

革命的な利用方法

質に入れる物の写真を送るだけで即座に査定され現金化できる(上限2万円)という手軽さが受け、サービス開始16時間で7万件を超える利用があり、3億円以上が融資されたとのことです。

昔ながらのリアルな質屋でお金を借りる場合は、質草として提供するものを質屋に持っていき査定してもらい、お金を借りることができました。

昔ながらリアルな質屋と比べてCASHが革命的だったのは次の点です。

 

CASHの革命的なポイント

  • アプリで持ち物を撮影し写真を送るだけ
  • 即座に査定される
  • どんなものでも査定額がついた!?

 
「身の回りの物の写真を送るだけで現金が手に入るの!?」と思われがちですが、2か月以内に「実物」を郵送しないと現金化した金額の15%が「キャンセル手数料」として取られる仕組みとなっていました。

そのためサービス開始当初は「2か月間で金利15%の消費者金融」といった批判も出ていました。

 

再開後のサービス内容

CASHは6月のサービス開始16時間後にすぐにサービス停止となりましたが、取引規約を変更した上で8月にはひっそりと(?)再開されました。再開後は下記のように変わっています。

 

サービス再開後の変更点

  • 物はブランド品に限る
  • 物品の郵送は2週間以内に短縮され(以前は2か月)、15%の買取キャンセル手数料も廃止
  • 査定額が開始当初より厳しくなる

 
このように現在は現金化できる物品がブランド品に制限され、また査定額も厳しくなっているため、「とりあえず写真を送れば小銭が手に入る」という夢のような状態は終焉を迎えることになりました。

 

消費者金融のライバルになるか?

サービス開始当初は「2万円以下の小口融資」において消費者金融のライバルになり得るのでは、とも言われていました。

しかし、サービス内容の改定後はブランド品でしか現金調達ができないため、信用のみで無担保融資をする消費者金融とはあまり競合しないサービスとなっています。

現在のCASHはネットの中古品買取業に近いサービスになっていますので、メルカリでの個人売買の競合として成長していくかが見どころとなっています。

 

Payme(ペイミー)

Paymeは在籍している会社から手軽に給与を前借りできるサービスで、著名な企業家が立ち上げたこともあり話題になっているサービスです。

給与の前借りサービスとは、文字通り「給料日の前」に「次の給与を担保に」お金を借りられるサービスです。

 

前からあった給与前借りサービス

給与の前借りサービスは実は新しいものではなく、三菱UFJ銀行など大手銀行(またはその系列会社)は以前から同様のサービスを提供していました。

2017年に入ってPaymeやenigma payが立て続けにサービスをローンチしたこともあり、給与の前借りサービスは再び世間の注目を集め始めています。

 

その他の給与前借りサービス

Paymeやenigma payは今年サービスインしたばかりで注目を集めていますが、それ以前からあるcyuricaも、サービス提供会社であるヒューマントラストとアコムと業務提携をしており今後も動向を注目していきたいサービスです。

  1. 三菱UFJ銀行 希望日受取りサービス(フレックスチャージ)http://www.bk.mufg.jp/houjin/it/keihi/kibou/index.html
  2. enigma pay https://www.enigma.co.jp/pay/
  3. cyurica.jp https://www.cyurica.jp/
  4. 前払いできるくん https://www.paytech.jp/site/
  5. アド給 http://adkyu.co.jp/index.html

 
これらの給与前借りサービスは実は誰でも利用できるわけではなく、勤務先企業がこれらのサービスと契約していることが利用条件になっています。

実態は従業員向けの福利厚生サービスの一つで、導入企業は「前借りをしたい属性の従業員」の求人応募を増やしたり離職率を低くする狙いがあります。

 

革新的なポイント

「給与前払い」サービスのフィンテックとしての特徴としては、スマホのアプリで簡単に(消費者金融のカードローン・アプリを使うのと同じぐらい容易に)借り入れの手続きができる点です。

スマホが普及する前であれば、書類を書いて給与前借りの申請をしないといけなかったところが、スマホのアプリを使うことで会社の上司や給与担当者と顔を合わせることなく前借りができるようになる点が革新的と言えます。

 

消費者金融のライバルになるか?

給与の前払いサービスのビジネスモデル(お金の流れ)はサービス提供会社により様々で、実際にはひとくくりにできないくらいに違いがあるのですが、給与を前借りする人(従業員)の観点からは、前借りをするのに手数料(利率)がかかるかどうかが重要です。

例えばenigma payの場合は従業員は前借りした金額の6%の手数料が取られます。前借りはただではないのです。一方の消費者金融の金利は、例えばプロミスだと年率4.5%~17.8%のです。

一見給与前借りサービスの方が金利が低いように見えますが、本当にそうなのでしょうか。

消費者金融の金利は実質年率の金利なので、1か月分の金利に換算すると1.49%(最大金利(年率)17.8%で借りた場合)程度で、enigma payの方がかなり金利が高いことになります。

Paymeについては「3~6%の手数料」と説明されていますが、この手数料は従業員負担なのか勤務先企業負担なのかは情報が見つかりませんでした。他の前借りサービスも従業員は数百円の手数料を負担することが多いようです。

借入金額によりますが、金利の観点からは給与前借りサービスは必ずしも消費者金融より優れているわけではなさそうです。

給与前借りサービスが普及するかは、金利的な損得以外の点からも微妙なところです。自分が給与を前借りしていることを会社の人に知られたくない人が多いと思いますので、プライバシーの観点や金利面で消費者金融よりも明らかなメリットを打ち出すことができないと、貸金のボリュームゾーンであるホワイトカラーの人たちへの普及は難しいかもしれません。

 

J.Score(ジェイスコア)

jscore

ソフトバンクとみずほ銀行が合弁会社を設立し、2017年9月にサービスを開始したレンディング・サービスです。J.Score(ジェイスコア)はレンディングサービスと呼んでいますが、要は消費者金融(貸金業)そのものです。

消費者金融と呼ぶよりもさわやかで洗練された響きがありますが、利用者(借り手)の情報を元に審査を行い、審査内容に応じた金利で無担保でお金を貸し出すというビジネスモデル自体は消費者金融と変わりがありません。

 

ジェイスコアが注目される2つの理由

ジェイスコアの消費者金融事業がフィンテックとして注目されている理由は次の2点です。

  • ビッグデータの活用
  • 完全なスコアリング

 

ビッグデータの活用

信用情報(利用者の過去の借入・返済状況)や属性情報(年齢、年収、勤務先など)を使うのは従来の消費者金融と同様ですが、以下の情報も審査に活用するすることが新しい点となります。

 

情報の新しい活用ポイント
  • みずほ銀行やソフトバンクとの取引情報など
  • 18の質問(年齢、勤務形態、最終学歴など)
  • 任意の追加質問(外食の頻度、趣味など)
  • SNSなどの投稿情報なども?

アコムやプロミスなどの消費者金融の審査では最終学歴やSNSの投稿情報などは使われておらず、ましてや外食の頻度などを訊かれることはありません。日本における個人信用の評価も一歩進んだという感があります。

 

完全なスコアリング

集めた情報を元に1000点満点の数値で評価が行われ、600点を超えた人のみが融資を受けることができます。

何が新しいかというと、AIスコアが本人に開示されることと、趣味や外食の頻度や毎月の支出などに関する追加の質問(回答は任意)に答えることでAIスコアが変わる可能性があることです。

これまでの消費者金融では審査ついては結果以外は一切教えてもらえなかったことを考えると、自分のAIスコアが開示されるというのは大きな進歩です。

またジェイスコアに追加の情報を提供することにより評価が変わるというのは、まさにフィンテックを活かした審査方法といえるでしょう。

J.Score(ジェイスコア)の公式ページ

 

未来の夢への投資

また、ジェイスコアは「(利用者の)将来の夢の実現を応援する」というさわやかな理念を掲げていることも従来の消費者金融とは違います。

ホームページの以下の記述からも「前向きなお金の使用」に対して融資していきたいという考えを感じ取ることができます。

時間へ投資するという方法を「ひとつの選択肢」としてより多くの人が利用でき、ひとつでも多くの夢や目標が実現できるようなサービスを提供できないかと、わたしたちは考えました。

「未来への投資」という選択肢
https://www.jscore.co.jp/about/services/

 

既存の消費者金融のライバルになるか?

フィンテックを活用した新しい審査項目に対して、どの程度の比重を置いてスコアリングしているかが公開されていません。

そのため、アコムやプロミスなどの既存の消費者金融の審査結果とジェイスコアの審査結果が大きく異なるようになるのか、それとも実際には大して変わらないのかは未知数です。

ジェイスコアは貸付金利の上限が12.0%で、アコム(18.0%)やプロミス(17.8%)よりもかなり低くなっています。

ジェイスコアは店舗を持たない完全なネット完結であるために金利を低く抑えられると言われています。

しかし、属性の悪い人に対してはあまり貸し出しをしない方針のために金利が低い可能性もあります。

もしそうであれば、属性の良い人はジェイスコアに集まり、属性の悪い人は既存の消費者金融に集中する、なんてことになる可能性もあります。

また、前述のとおり「未来の夢への投資」に対しては消費者金融とは大きく異なるポイントとはなるものの、商品概要では「資金使途:自由。ただし投機性資金、事業性資金はご利用できません。」となっており、後ろ向きなこと(浪費)のためにお金を借りることも可能です。

既存の消費者金融のように単なる金貸しに終わるのか、フィンテックの技術によって前向きな人への融資が増え、貸金業として社会に新たな価値を与えることができるようになるのかが見ものです。

 

まとめ

今回は2017年にサービスが開始された注目の融資サービスを3つご紹介しました。海外ではPtoP(Peer to Peer:個人間でお金の貸し借り)が進んでいる国もあります。

海外におけるPtoPを中心としたフィンテック・サービスを「フィンテックの概要と注目サービス7選 ~ bitFlyer‎、Coiney、MoneyForward」のページでご紹介しているので、あわせてご覧ください。