相関関係と分散投資
商品先物について、リスクの大きさばかりに目がいきますが、実際に取引を行っている投資家は本当に大きなリスクとリターンだけを考えているのでしょうか。
もし、実際にそうならば、一回の失敗で全てを失ってしまっている投資家が街にあふれているでしょうし、そもそも商品先物に投資する人は少ないでしょう。
商品先物の値動きは気候であったり、特定地域の政治情勢であったりと様々ですが、「こうなればこうなる」という傾向はある程度定まっています。
ただし、定まる頃には投資はできない場合がほとんどなので、そんな傾向などあってないものだと思われるかもしれません。
しかし、「ある状況であればこうなる」ことが予測しやすいのならば、その傾向を利用して保険をかけて取引をすることができる場合もあります。
例えば、傘の商品先物があったとします。この商品は梅雨が長引けば傘の価格は上がるのでそれだけ値上がりが期待できます。しかし、投資の時期は前年度の秋です。この場合に、どうすればリスクヘッジできるでしょうか。
この場合、傘の値段は日照時間が少なければそれだけ上がることになります。
ある要素に対して動きが定まっている関係を「相関関係」と呼びます。
今回の傘の場合には、日照時間に対して逆の動きをとります。このようにお互いが逆の向きに値を変化させる関係を「負の相関関係」と言います。
さて、この時、傘と逆の値動きをしそうなものを考えてみます。梅雨が短く、暑い日が増える場合に人気が出そうなものを考えてみると、バーベキュー用の肉でしょうか。これは暑い日が増えれば需要が上がりそうです。
先ほどと同じ言い方をすると、お肉は日照時間に対して同じ向きの値の変化を取ることになりますので、先ほどとは逆に「正の相関関係」があると呼びます。
「傘」と「お肉」は一見何の関係もなさそうに見えますが、今の説明から「夏の日照時間」に対してお互いが逆の値動きをする商品であることがわかるはずです。
この時に、「傘」と「お肉」の先物価格と日照時間に対する変化の大きさが等しいとすると、同じ価格で購入した場合、日照時間によるお互いの価格の変化に関わらず合計は±0になるのです。
したがって、傘だけを買ってしまうと予想が外れた時には大きなマイナスとなる場合でも、同時に逆の値動きをするお肉を買っておくことでリスクが分散されるのです。
今回はわかりやすい例として、原因まであげてみましたが、実際の投資では複数の要因が絡むことが当たり前です。
では、この知識が役に立たないかといえばそうではなく、取引されている商品は長い歴史のあるものが多いため、過去の値動きの関連性を見ることによりお互いの関係を知ることもできるのです。
したがって、相関関係について原因を考えることも重要ですし、実はとても面白い知的思索ではあるのですが、それ以上にその商品についての過去の取引実績とその時にどんなことがあったか、そして他の商品との値動きの関係を調べる方が現実的には投資対象を選別しやすくなります。
このような相関関係について、2つの投資先についてどのような値動きの関係となるかを表したものに、相関係数というものがあります。お互いの値動きについて全く同じ向き(正の相関)であれば+1、全く逆の向き(負の相関)であれば−1、お互いに関係性を認められない場合には0として表したものになります。
お気付きの方も多いかもしれませんが、複数の先物取引を行い、この相関関係が−1に近ければ近いほど安定的で、1に近ければ近いほどハイリスクハイリターンの投資を行っているということになるのです。
商品先物の場合、投資の後に約定するまで期間が必要になります。しかし、その間何が起こるかは予想できません。
しかし、値動きの大きな原因になりうる要素は判断しやすいので、それだけこの相関関係を利用したリスクヘッジが可能になるのです。
このような複数の投資先を用意してそのリスクとリターンのバランスをとってまとめたものをポートフォリオと呼びます。通常、大まかな分類によってそのリスクとリターンを分析します。
このポートフォリオを作成する時に自分がどのような目的でどのような期間、どれだけの投資を行うことでどんなリスクと利益があるのかを判断しやすくなるのです。
また、その時の状況に応じて銘柄を選び直すことをポートフォリオリバランスと呼びます。
これはその時々に応じてその投資傾向を見直し、割高なものから割安なものへ資本を動かすことで全体の強化をはかったり、目的に応じたバランスに再調整することになります。
このように、自分の持つ資産を複数の投資先に対して分けて投資を行うことを分散投資と呼びます。
一般的に分散投資はリスク軽減効果が期待されると言われていますが、その相関係数をしっかり見定めないとリスク軽減どころか運任せの一発勝負になってしまう場合もありますし、一見何の関係もなさそうな商品が相関関係を持ち、リスク軽減に一役買っていたりもするのです。
また、この分散投資によるリスク軽減効果は商品先物投資だけにとどまりません。
例えば石油先物とドル為替は負の相関関係を取りやすいことが一般に知られています。原油市場はドルによる取引なのでドル高になると実際に取引される通貨で購入できる量が減少してしまいますので、その分石油は安値に動くのです。
他にも、日本国債と日本株式はリスクヘッジを求める心理的要因から負の相関関係が存在します。
同じ国の金融資産であっても同じ向きにならないのもこの相関関係を考える上で難しいところになります。
このように、素人判断をすると自分の求める結果と逆の組み合わせをとってしまう場合もありますのでその相関には十分な注意を払った投資が必要とされるのです。
さらに、自分の望む結果に対してどの程度のリスクヘッジをとるのかということも重要です。言い換えればヘッジ(回避)だけではリターンはないわけですから分散投資にはリスクマネージメントとしての考え方が要求されるというわけです。
保険が大きければ、それだけ同じ額の投資に対してのリターンは小さくなります。
実際にはありえませんが、先ほどの傘と肉のように完全に逆の値動きならば投資したとしても結局は0に戻ってしまうのです。