基本の取引方法

商品先物の場合も、株やFXと同様、買い建てと売り建てができます。商品相場の見通しに基づき、今後上昇すると考えた場合は買い建て、下落すると予想した場合は売り建てます。

商品先物は証拠金取引となりますので、株や株の信用取引同様、レバレッジを効かせた資金効率の高い投資ができます。

ヘッジ取引

ヘッジ取引とは、現物市場と先物市場の価格の連動を利用し、双方の市場で反対の取引を行うことを言います。こうすることで双方の損益を相殺できます。

具体的には、現物取引で損失が発生する場合、先物取引の利益でその損失を相殺できるようなポジションをつくる取引です。

ヘッジ取引には、購入の際の値上がりに備える「買いヘッジ」と、売却の際の値下がりに備える「売りヘッジ」の2種類があります。

買いヘッジは、将来ある商品を買う予定で、現在の価格で商品を買いたい場合に利用します。こうすることで、商品の価格変動を受けずに買うことができます。

例えばある航空会社が、6ヶ月後にガソリンを5,000 kl購入するとします。現時点の現物価格(1klあたり 50,000円)とします。

6ヶ月後に購入価格が上昇してしまった場合、余計に費用がかかってしまうため、先物市場で6ヶ月後の限月(1/klあたり 48,000円)の取引を利用してリスクヘッジを行います。

この会社は5,000kl(ガソリンは1枚あたり50 klですので、50kl×100枚=1,000 kl)、6ヶ月後の限月のガソリン先物の買ポジションを100枚建てたとします。

6ヶ月後、ガソリン価格が値上がりし、1klあたり 52,000円になったとします。現物価格と先物価格が連動し、先物価格も1klあたり 52,000円になったとします。

そのとき、先物取引で得られる利益は
(52,000-48,000)×50(kl)×100(枚)=2,000万円

一方、現物の購入費用は
52,000×5,000(kl)=2億6,000万円

よって、購入に係る費用は
2億6,000万円-2,000万円=2億4,000万円

つまり、A社は1 klあたり48,000円でガソリンを仕入れることができたことになります。

反対に、ガソリン価格が6ヶ月後に1klあたり46,000円に値下がりした場合はどうでしょうか。現物価格と先物価格が連動し、先物価格も46,000円になりました。

この場合の先物取引の損失は
(46,000-48,000)×50 kl×100(枚)=-200万円

一方、現物の購入費用は
46,000×5,000(kl)=2億3,000万円

よって、購入に係る費用は
2億3,000万円-(-200万円)=2億3,200万円

この場合は1 klあたり46,400円でガソリンを仕入れることができた、ということになります。

そのため、もともとガソリンを買おうと考えた時点で買って保管しておくよりも、先物取引を利用したことで、より安く有利な価格で買えたということになります。

また、もし買おうと考えた時点でガソリンを買った場合、金利や保管費用もかかったでしょうから、より費用を抑えることができた、ということが分かります。

次に売りヘッジを考えてみたいと思います。

ある穀物会社が、3ヵ月後に小麦1万ブッシェル(bu)を売る契約を結んだとします。なお、1ブッシェルは小麦の場合約27㎏です。

現在の小麦の価格は1ブッシェル6.3米ドルですが、この契約によりB社は3ヵ月後の小麦価格が上昇すれば得られる売上は増えますが、反対に価格が下落すれば、売上は減ります。

そのため、この会社は値下がりによる損失を軽減するため、小麦の先物取引を利用して、リスクヘッジすることにします。

この会社は3ヶ月後の限月の、小麦先物1ブッシェル6.4米ドル2枚(小麦は1枚あたり5000ブッシェルです)で売建てました。

3ヶ月後、小麦価格が1ブッシェル6.1米ドルに値下がりしました。現物価格と先物価格が連動し、先物価格も1ブッシェル6.1米ドルになりました。

そのとき、先物取引で得られる利益は
(6.1-6.4)×5,000(bu)×(-2(枚))=3,000米ドル

です。
一方、現物売却の収益は
6.1×1万(bu)=61,000米ドル

です。
そのため、先物取引とあわせた収益は
3,000+61,000=64,000米ドル

になりますので、この会社は1ブッシェルあたり6.4米ドルで小麦を売ることができた、ということになります。

反対に、小麦価格が3ヶ月後に1ブッシェル6.5米ドルに値上がりし、先物価格も6.5米ドルになったとします。

この場合の先物取引の損失は、
(6.5-6.4)×5000(bu)×(-2(枚))=-1,000米ドル

になります。
一方、現物の売却収益は
6.5×1万(bu)=65,000米ドル

となり、
先物取引とあわせた収益は
65,000米ドル+(-1,000米ドル)=64,000米ドル

となります。
この場合、1ブッシェル6.4米ドルで小麦を売却することができ、売ろうと考えた時点よりも高い価格で売ることができた、ということになります。

このように、ヘッジ取引は価格変動リスクを軽減し、将来の現物取引に伴う利益を確保する効果があります。利益増大の機会も失う代わりに、将来の不確実性を取り除き利益を確定することがヘッジ取引なのです。

クロスヘッジ取引

先ほど例に挙げたヘッジ取引は、ヘッジしたい商品が取引所に上場されていることが大前提となります。しかし、中にはヘッジしたい商品が先物市場に上場されていないこともあります。

その場合、ヘッジしたい商品と同じような値動きをする先物取引をすることで、ヘッジをします。これをクロスヘッジ取引と言います。

例えば有名なところでいうと、ナフサがあります。ナフサは多くの石油化学工業で原料となりますが、日本国内の商品先物取引所では上場されていません。しかし、ナフサの価格推移はガソリンと高い相関性があるのです。

そのため、ナフサの仕入価格の上昇に対するヘッジとしてガソリンを買いヘッジし、ナフサが大量に在庫として残っている場合は、ガソリンを売りヘッジをする等で利用されています。

また、貴金属の場合、白金系貴金属のロジウムの値動きは、プラチナと高い相関性がありますし、大豆油の場合は原料となる大豆、コーンスターチの場合やコーンスターチを原料として大量に使う商品であれば、コーンスターチの原材料であるトウモロコシがよく似た値動きをします。

クロスヘッジを行う場合は、価格相関性が高いほど、リスクヘッジの有効性が高まりますので、両者の価格の正の相関性が高いものを選択することがポイントです。

ヘッジ取引をしても残るリスクについて

今までご紹介したヘッジ取引の例は、価格通りに注文が成立したことが前提になっています。

しかし、実際には、市場に大量の注文を出すことにより価格が不利な方向に変動してしまうことがあります。これを市場流動性リスクといいます。

たとえばある会社が6ヶ月後のガソリン先物を1キロリットルあたり5万円で300枚売り建てしたとします。

この注文を出した時点のガソリン先物価格が5万円だったとしても、300枚の売り注文に対する買い注文が市場に存在しないと、売りの方が多くなってしまい、価格が下落します。その結果、想定通りのヘッジ取引が行えなくなることがあります。

このような流動性リスクを避けるため、東京商品取引所にはEFP取引という制度があります。

EFPとは、Exchange of Futures for Physicalsの略で、現物取引の契約を結んだ売り方と買い方が、同一価格の先物の買いと売りを個別競争売買を介さずに成立させる取引のことを言い、つまり通常の市場取引を介さない取引所取引で、同一価格の先物の売りポジションと買いポジションを成立させる取引です。

この時、現物の売り方は先物市場における買い注文、現物の買い方は先物市場における売り注文を取引所に申告します。

ですので、先ほど出した例のような時に、取引所に対してEFP取引を申請し、認められれば、市場を介さず、各々のポジションを建てられるのです。

また、EFP取引は、決済時にも利用できます。また、EFP取引を利用して受渡しを行った場合には、受渡値段、品質、受渡時期や場所などの条件を個別に設定することができ、柔軟な取引ができるのが特徴です。

次にファンディングリスクについて見てみましょう。

ヘッジのために商品先物市場を利用する場合で本証や追証拠金などの資金が必要となります。特に考える必要があるのが、追証拠金など、取引途中に発生する資金です。

追加の資金の資金繰りができないと、ヘッジ取引は機能しません。これをファンディングリスクと言います。

次に、ベーシスリスクについて見てみましょう。

ヘッジ取引のところで出した例は、現物価格と先物価格が全く同じ動きをすることを前提にしていましたが、実際は全く同じ値動きをすることはありません。

というのも、ヘッジ対象資産の現物価格と、先物価格が正確に一致しない可能性があったり、商品をいつ購入もしくは売却するか、およその期日しかわからない、また、納会日以前にヘッジ取引を決済しなければならないことがあるといったケースがあるからです。

この時に問題になるのがベーシスリスクです。ベーシスリスクとは現物取引での損失(あるいは利益)と先物取引での利益(あるいは損失)が相殺されないリスクのことを言います。

ヘッジ取引でのベーシスは

ベーシス=現物価格-先物価格

で定義されています。

この、ベーシスが生じる要因としては、カレンダーベーシス、地理的ベーシス、品質ベーシスが挙げれます。

カレンダーベーシスとは、ヘッジ対象玉とヘッジの価格決定の時間の差に伴う価格差のことを言います。また、地理的ベーシスとは、現物取引と先物取引の受渡場所の違いから生じる価格差のことを言います。

品質ベーシスとは、ヘッジ対象資産と先物市場の原資産との品質や等級の相違から生じる価格差のことを言います。

ベーシスが変化することにより、ヘッジ取引の損益も変化します。

例えばある航空会社が、4~5ヶ月後にガソリンを5,000 kl購入するとします。そこでヘッジのために、6ヶ月後の限月のガソリン先物を1/klあたり 48,000円で買建てたとします。

その後、この航空会社は、4ヶ月後にガソリンを購入したので先物の方のポジションをクローズさせることにしました。この時の現物価格は1/klあたり 50,000円、先物価格は49,500円だったとします。

この時ベーシスは、「現物価格-先物価格」なので

50,000-49,500=500円

です。

先物取引による利益は、「決済価格―建玉時の価格」なので

先物取引による利益=49,500-48,000=1,500円

になります。

従って、この航空会社にとっての実質的なガソリン購入価格は、1 klあたり、

50,000-1,500=48,500円

となります。

これは、先物市場での買いポジションを建てたときの「先物価格+ベーシス」と同じです。したがって、先物価格+ベーシス=48,000+500=48,500円

このように、ベーシスがあることで、無い場合と比べて誤差が生じてしまいます。

ただし、適切な市場設計がされた流動性の高い先物市場であれば、その価格は現物価格と完全に一致しないまでも、ほぼ連動した動きになります。そのため、現物と先物価格が大きく変動することはあっても、ベーシスは大きく変動する可能性は低いといえます。

ヘッジ取引は、価格変動の高いリスクをベーシスリスクという低いリスクに変換する行為とも考えられるため、ヘッジ取引を行う際はベーシスを理解することが重要になります。

ヘッジ会計について

ヘッジ会計とは「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)に規定されている、2000年4月1日以降開始された会計年度より適用が認められた比較的新しい制度です。

「ヘッジの手段として用いられた取引とヘッジ対象との間の会計上の損益認識時期のずれを調整する会計処理」のことを言います。

ヘッジ会計は現在のところ、企業会計基準を前提としています。そのため、ヘッジに係わる会計処理が適切に行われなければ、ヘッジ対象の損益とヘッジ取引による損益とは別のものとして分けられてしまうため、お互いの損益は相殺されず課税されます。

さらに会計上の数字が悪化すると、クレジット・リスクが高まるため、資金調達で不利になるなど、会計上の取り扱いは企業実態にも影響が及ぶことになってしまいます。

ヘッジ会計はどのように行われるのでしょうか。3月末決算のある会社は、3月1日時点で、今後の需要期に備え、ガソリンの先物取引を行い、価格変動リスクのヘッジを行うとします。

3月1日時点で、ガソリンの現物価格が1klあたり48,000円だとします。A社は3月1日に、先物市場で6月限のガソリン先物を1klあたり48,000円で1万kl分のポジションを買い建てたとします。

その後、3月末の決算期末時点では、灯油の先物価格と現物価格はともに1klあたり50,000円に値上がりしていたとします。

このときの先物取引の評価益は2,000円/kl×1万kl=2,000万円になりますが、これはあくま で来期6月の燃料購入に対するヘッジ取引に伴う評価益であることがポイントです。

一方、現物価格は2,000円/kl値上がりしていますが、実際には仕入は発生しておらず、現物取引では損益は3月時点で発生していません。

そのため、この会社は、先物取引の評価益を当期の利益とはせず、現物取引が行われる来期の6月まで繰り延べることにします。このとき先物取引により発生している2,000万円の利益を来期の利益として繰り延べる会計上の手続きがヘッジ会計なのです。

クラックスプレッドについて

スプレッド取引とは2つの商品の金利差や価格差を利用して行う裁定取引のことを言います。スプレッドとは価格差のことで、「サヤ」とも呼ばれています。

スプレッド取引は一般的に、2つの対象物の価格差が広がると予想した時にはスプレッド取引の買い、縮小すると予想した時にはスプレッド取引の売りという売買戦略をとります。

割安であると考えられる方を買い、割高であると考えられる方を売ることで、その値ザヤが思惑通りに変化した場合に利益を得られます。

スプレッド取引には、限月間スプレッド取引(カレンダー・スプレッド)、異商品間スプレッド取引、異市場間スプレッド取引等の種類があります。

クラックスプレッドはスプレッド取引の一種です。原油と石油製品市場で同時に反対のポジションを建てる一種のスプレッド取引のことです。

原油先物市場のある限月で買い建て(売り建て)し、同時に、ガソリン等の石油製品先物市場において、同じ限月で売り建て(買い建て)します。仕入れ価格と販売価格を固定化することで利益を確定するのです。

クラック・スプレッドでは、原油と石油製品間のスプレッドを固定化することによって、その後の現物市場におけるこれらの価格変動による精製マージンのリスクをカバーするのです。

なお、原料と製品間のスプレッド取引は、クラックスプレッド以外にもあります。例えば、天然ガスと電力料金との価格差を利用する「スパーク・スプレッド」や大豆とその生産物である大豆油、大豆ミール間の価格差を利用する「クラッシュ・スプレッド」がそうです。

現受けについて

先物取引の決済方法には、物品の授受によって取引を終了させる方法である「受渡決済」があります。そして、受渡決済で現物を受け取って決済することを「現受け」と言います。
なお、手元にある現物を渡して決済することを現渡しと言います。

この現受けは、取引所という市場で直接買い付けるため、小売店を通す場合より安く現物が手に入れられると言うメリットがあります。また、資金は証拠金額で済み、値上がりした場合には転売して利益を得ることもできます。

ただし、受渡供用品銘柄のうち、どのブランドかは指定ができません。また、取引単位が1kg単位ですので、小さな単位での購入はできないというデメリットがあります。

また、受渡しの手続きを行ってから金が手元に届くまでに日数がかかることもデメリットと言えます。