公的医療保険制度には、医療費の自己負担額が高額になったときの負担を軽くする「高額療養費制度」、病気やけがで勤め先を休んで給料をもらえなくなったときの生活を保障する「傷病手当金」があります。
民間の医療保険などを選ぶ際、これらの制度を元に考えるべき大切な情報です。
医療費の高額な自己負担を軽くする
医療機関に支払う医療費は、一部(1割から3割)を負担すればいいとはいえ、入院が長引いたり、高額な治療を受けたりすると自己負担額は高額になることがあります。
そんなときの負担を軽くしてくれるのが「高額療養費制度」です。
高額療養費制度は、同じ月に同じ人が同じ医療機関でかかった自己負担額(入院、外来、歯科入院、歯科外来それぞれで計算する)が自己負担限度額を超えた場合に対象となります。
公的医療保険の被保険者本人と、その扶養家族(被保険者と別の公的医療保険に加入している場合を除く)が治療を受けた場合や、1人が複数の医療機関で治療を受け、同じ月の自己負担額が2万1,000円以上となった分を合計して自己負担限度額を超えた場合も対象です。
1カ月(暦の1日から末日まで)の自己負担限度額は、年齢(70歳未満と70歳以上)と所得で区分されています。同じ世帯で、直近12カ月の間に3カ月以上、高額療養費に該当すると、4カ月目以降は多数該当として自己負担限度額は軽くなります。70歳未満は、表の5区分です。
例えば、50歳の会社員が病気で20日間(その月の5日に入院して19日に退院)の入院をし、医療費の総額が100万円かかった場合、月収によって自己負担限度額がどう変わるかを見てみましょう。
●月収30万円の場合(区分ウ)
・公的医療保険の窓口負担(3割)=30万円
・8万100円+(100万円-26万7,000円)×1%=8万7,430円(自己負担限度額)
・30万円-8万7,430=21万2570円(高額療養費の支給額)
●月収53万円の場合(区分イ)
・公的医療保険の窓口負担(3割)=30万円
・16万7,400円+(100万円-55万8,000円)×1%=21万1,600円(自己負担限度額)
・30万円-21万1,600円=8万8,400円(高額療養費の支給額)
高額療養費制度の適用を受ける方法は、70歳未満の場合、2つあります。1つは加入している公的医療保険に「限度額適用認定証」を交付してもらい、病院窓口に保険証と一緒に提示する方法です。
この場合、医療機関での支払いは自己負担限度額までとなります。もう1つは、いったん窓口で自己負担分を支払い、後から還付を受ける方法です。
図表 高額療養費制度による医療費の自己負担限度額 (70歳未満)
所得区分(月収) | 自己負担限度額 | 多数該当 |
---|---|---|
①区分ア (81万円以上) |
25万2,600円+(総医療費-84万2,000円)×1% | 14万100円 |
②区分イ (51万5,000円以上) |
16万7,400円+(総医療費-55万8,000円)×1% | 9万3,000円 |
③区分ウ (27万円以上) |
8万100+(総医療費-26万7,000円)×1% | 4万4,400円 |
④区分エ (27万円未満) |
5万7,600円 | 4万4,400円 |
⑤区分オ(低所得者) (市区町村民税非課税者) |
3万5,400円 | 2万4,600円 |
※区分アまたはイに該当する場合、住民税が非課税でも区分アまたはイに該当する。
勤め先を休んで給料をもらえないときの生活を保障する
仕事以外の原因で病気にかかったりけがをしたりで、入院または自宅での療養が必要になり、勤務先を休んで給料をもらえないときの生活を保障するのが「傷病手当金」です。健保組合や協会けんぽ、共済組合に加入している人のみが受けられる制度です。
傷病手当金は、勤務先を連続して3日間(これを待機期間という)休んだ後、4日目から支給されます。
休業中の生活を保障するのが目的なので、勤務先から給料が支払われている場合は支給されません。給料が支払われていても、傷病手当金の額より少ないときは、差額が支給されます。
支給期間は、支給開始日から最長1年6カ月です。1年6カ月の間に出勤して給料の支払いがあった期間も支給期間に含まれます。また、支給期間を超えても仕事に戻ることができない場合、傷病手当金は支給されません。
傷病手当金の額は、1日あたり標準報酬日額の3分の2です。標準報酬日額は、標準報酬月額の30分の1相当額です。
例えば、標準報酬月額が30万円の人の標準報酬日額は1万円です。傷病手当金の額は、1万円×3分の2=6,667円になります。30日間、連続して療養していて、給料が支払われなかった場合の傷病手当金の額は、待機期間の3日間を差し引いた27日分の18万9円となります。
なお、仕事が原因の病気やケガについては、労災保険の補償が受けられます。