終身保険は解約返戻金が貯まっていくので貯蓄性が高い保険といわれています。低解約返戻金型の終身保険を用いると、割安な保険料で比較的高い解約返戻率を期待することができます。

解約返戻金を利用し、いざという時の資金調達に用いることができるほか、経営者の退職金準備として活用されています。

経営者の退職金準備

終身保険は平準定期保険などに比べて保険料が割高です。また、保険料の全額が資産に計上されるため、節税対策としての加入はメリットがありません。

したがって、終身保険を経営者が活用する場合は、会社の資産形成を目的とします。その代表的な目的が退職金の準備です。

終身保険を活用する場合、契約を中途解約し、解約返戻金を退職金の原資とします。

退職金を受取る時期を払込満了後にすれば、返戻率は100%を超えているため、払込総額以上の解約返戻金を退職金として受取ることができます。

返戻率は払込満了後も少しずつ増えていくため、払込満了後も解約せずに据え置き、退職金を増やしていくことも可能です。

また、低解約返戻金型の終身保険を利用すれば、保険料を抑えながら払込満了後の返戻率を高くすることも可能です。

ただし、払込満了前に資金需要が生じて解約する場合、通常の終身保険と比較して解約損が大きくなるため、その点を考慮した選択が必要です。

保険契約の譲渡

次に、解約せずに退職金として受取る方法を見てみます。経営者の退職時に、表1のとおり名義を変更し、法人で契約した終身保険を譲渡するのです。

譲渡の際、法人は資産計上されている前払保険料を取り崩し、同時に解約返戻金に相当する金額を退職金として経営者に給付します。

契約の譲渡を退職時に合わせることで、経営者は保険契約を退職所得として受取ることができるため、役員報酬で受取る場合に比べ、大きな税制メリットがあります。

法人からの契約譲渡により、経営者は個人で支払うより安いコストで大きな保障を得ることができ、さらに将来の相続対策や老後の生活資金としても有効な資産となります。

表1 終身保険の名義変更
退職前 退職後
契約者 法人 経営者
被保険者 経営者 経営者
受取人 法人 経営者の遺族

解約返戻金による財務強化

解約返戻金は財務を安定させるためにも有効です。売上の減少やコストの増加などによって資金繰りが厳しい状況になった場合でも、現金化することができる資産があれば、緊急時に対応する原資にもなります。

また、解約して現金化しなくても解約返戻金の8~9割程度の契約者貸付を受けることができます。利息は発生しますが、緊急時の予備資金として利用することが可能です。

ただし、低解約返戻金型の終身保険を利用する場合、払込期間中は返戻率の水準が7割程度に抑えられているため、通常の終身保険に比べ資金需要への対応力が劣ります。

また、保険料の以後の払込みを停止して保障を残す払済保険への変更も有効です。保険金額は下がりますが、変更後も解約返戻金は増えていき、また契約者貸付も利用することができます。

終身保険の具体的活用プラン

終身保険を契約した45歳のD社長の例で見てみましょう。退職金準備のため、表2のような低解約返戻金型の終身保険に加入したとします。

表2 終身保険の加入プラン
契約者 法人
被保険者 D社長(45歳)
受取人 法人
保険金額 8,000万円
年間保険料 306万円
払込満了 65歳
退職時の解約返戻率 107%

65歳で退職する場合、支払った保険料の累計額は6,120万円(=306万円×20年)です。その際、解約返戻金は6,548万円(=6,120万円×107%)となっています。

次に、法人からD社長に保険契約を譲渡した場合を見てみましょう。法人は資産計上されている前払保険料6,120万円を取り崩し、経営者は解約返戻金に相当する金額6,548万円で保険契約を譲り受け、8,000万円の死亡保障を得ることができます。

退職金として給付することで現金を動かす必要がなく、経営者は退職所得として税制上のメリットを得られることにもなります。

以後は契約を維持しておくこともできますし、解約して返戻金を老後資金として活用することも可能です。

一方で、契約を移転する際、会社の負担した保険料6,120万円と退職金として計上した解約返戻金6,548万円の差額428万円は、雑損失として計上されます。同年度に利益が出ていれば、法人としての節税メリットも得られます。