法人ががん保険を利用する場合、保険期間が終身で解約返戻金が貯まっていくもの(以下終身タイプ)と掛け捨ての2つのタイプから、目的に応じて選択します。

終身タイプは解約返戻金を利用し、経営者の退職金や、従業員の福利厚生として在職中の保障ならびに退職金の準備として活用されています。

保険料は、終身タイプが2分の1、掛け捨てタイプのものはその全額の損金算入が可能で、いずれも節税をしながら福利厚生を得られます。

福利厚生と退職金準備

個人でがん保険を契約する場合、掛け捨てのタイプが主流ですが、法人で利用する場合、終身タイプも多く活用されています。

どちらで契約する場合も、被保険者は役員または従業員(以下「従業員等」)とし、契約者と受取人は法人とする必要があります。

従業員等が在職中にがんに罹患した際の保障として契約しますが、福利厚生の一環であるため、原則として全員が被保険者となることが必要です。

また、契約に当たってはあらかじめ社内規程で見舞金に関する規定を作成しておく必要があります。法人に給付金が下りた際は、雑収入として益金に算入され、いったん受け取った給付金を役員または従業員に「見舞金」として支払います。

見舞金は損金算入されて非課税となりますが、給付金が高額の場合、適正な範囲を超えた部分が損金に算入されず、受け取った従業員等の所得として課税されるため、注意が必要です。

掛け捨てタイプのものは、保険料が終身タイプのものより安く、条件を満たせば全額損金算入が可能です。解約返戻金がなく、かつ保険期間が終身で60歳・65歳払込満了など、保険期間または払込期間が有期のものなどが対象になります。

従業員等が退職する際に契約者を本人に変更することで、退職後も個人の保障として加入し続けることができます。

終身タイプのものは解約返戻金が貯まっていくため、在職中に福利厚生の一部としてがんに対する保障を受けながら、退職金の準備資金として積み立てていくことも可能です。

保険料の2分の1が損金算入可能ですが、加入時の年齢から105歳までの期間を保険期間とし、契約時から前半の50%の期間2分の1ずつ損金と資産に計上します。後半の50%は資産を取り崩し、保険料は全額損金に計上します。

解約返戻金は年々増加するため、若い時に加入して長期間勤めた従業員等は、高い解約返戻金が期待できます。

退職金として支給する際は、従業員等の退職時期に合わせて解約します。

解約返戻金から資産計上された前払保険料を引いた金額はいったん雑収入として益金に算入されますが、同額の退職金を支給することで損金に算入され、相殺されます。

また、退職した従業員等が受け取る退職金は、退職所得として課税されるため、個人にとってもメリットがあるものになっています。

ただし、資金繰りの悪化などへの対応で早期解約して現金を得たい場合などは、解約返戻金が少額になるばかりか、福利厚生および退職金の原資を取り崩すことになります。

また、そもそも終身タイプは保険料が高いため、資金繰りに支障が生じて財務状況が悪化するようでは本末転倒で、業績が安定していることが前提となります。

がん保険の具体的活用プラン

終身タイプのがん保険を契約した年度の売上が1億円のC社の例で見てみましょう。従業員等の福利厚生と退職金準備のため、図表1のようながん保険に加入したとします。

図表1 終身タイプのがん保険の加入プラン

契約者 法人
被保険者 役員・従業員
受取人 法人
保険期間 終身
従業員数 20名
売上 1億円
税引き前当期利益 1,500万円
年間保険料 350万円

年間保険料350万円のうち、損金と資産に175万円ずつ計上されます。がん保険を契約することで圧縮された利益は、本来契約がなければ課税され、その分多く税金を納めていたことになります。

法人実効税率(800万円以上の所得に対する税率を33%として適用)を用いて節税効果を計算すると、がん保険を契約した当年度の税金は437万円(=(1,500万円-175万円)×33%)となり、契約しなかった場合に比べて58万円(=1,500万円×33%-437万円)の節税効果があります。

がん保険ですから、従業員等ががんと診断された場合に給付金が支払われます。例えばがん診断一時金100万円、入院給付金1日当たり10,000円、手術給付金20万円など、支払われた給付金は社内規程に基づき、従業員等へ見舞金として支払うことができます。

また、保険会社によって異なりますが、解約返戻金のピークは80%程度から、多ければ100%弱の返戻率に収まります。

従業員等によって当然退職時期が異なりますが、高い返戻率が比較的長く続くため、利便性が高くなっています。ただし、加入後しばらくは返戻率が低いため、従業員等の就業期間が短い会社の場合、退職金としての活用は効果が低くなる点は注意が必要です。