07転職後の振る舞い方

これまでの流れを通じて、希望する職場への転職を成功させました。キャリアアップ、元の会社の劣悪な労働環境からの脱出、個人によって色々と転職理由に差はありましたが、転職が決定してしまえばこちらのものです。

あとは、すんなりと転職先に馴染んで、戦力となり活躍していくことが求められますが、最後の仕上げとして新しい職場を俯瞰して、どんな世界なのか把握しましょう。職場に入る段階こそ客観的な価値観で評価ができるものです。

企業風土の違いを感じてしまった場合

転職してみて、その企業風土と言いますか色々な環境に戸惑ってしまうケースもあるかと思います。

「転職先がやっぱりブラックだった」のようなケースはこれだけ企業研究してきたわけですからあまり考えられないですが、これまでの習慣と違うことに戸惑うこともあるかと思います。これは「正解」がない問題ですし、1人でそれに対抗しようと思っても入社したばかりの人の意見を聞くことはまずないでしょう。

まずは「習うより慣れろ」「朱に交われば・・」の精神を肯定的に持ってやってみることしかないと思われます。そこで自分の仕事ぶりが評価され始めたら徐々に自分のカラーを出していく、これしかないと思います。「和して同ぜず」が大事です。

面白い例を出しましょう。主に金融機関など「お堅い、古い」職業から転職した人の笑い話です。稟議書や有休届などに印鑑を押して提出しますが、自分の印鑑、例えば「㊤」を左に傾けて押して出さないといけない暗黙のルールがあるそうです。

なぜ㊤を左に傾けなければならないのか、それは書類を提出する上司に対して常に頭を下げている(お辞儀をしている)姿勢を示すためだと追われています。この話を聞いて転職先の人は思わず大笑いしてしまったそうです。そこまで「形」にこだわりそれが無言の圧力になっているなんて信じられないということですね。

転職先で指摘されてその人はその習慣をやめたようですが、逆のケースもあり得るわけで、これまで自分が思いもしなかったような変な慣習が転職先にある可能性があります。事前の企業研究である程度つぶせるものもありますが、給与や残業など労働条件に関わるもの以外については分からないかもしれませんね。

流れとしては上で示したように
①とりあえず従う→②仕事上評価される→③少しずつ自分から変えてみる
にしていくしかないと思います。

残念ながらどんな人間であっても、今自分が属しているコミュニティの「掟」のようなものには無意識のうちに従ってしまいます。それが脳の原理であり、違和感を持ちつつも働かないと食べていけないので無理やり納得させてしまうのです。

転職直後はそうした人間の「適応機制」がないためギャップを強く感じてしまいます。どんな「ホワイト企業」と言われるところであっても、転職者が全て定着するわけではなく3か月くらいで辞めてしまう人はいます。

その人に「こらえ性」や「我慢」が足りないということではなく、合わないところは合わないのです。それを我慢しているとうつ病などに陥ってしまいます。ひょっとすると同じ会社の別の部署だったら問題なく仕事ができたかもしれません。

どんなに事前に調べても「複数の人間」という要素が介在するので、思っていた風土とは違う、どこかおかしいと思ってしまうことがあり得ます。そのような場合、心と体を壊すようなことがあってはなりません。

具体的に何をすれば良いのか、答えはありませんが、以下の順番にやってみることを提案します。

まずこれまでの価値観を1回捨てて、転職先の風土に馴染んでみる

ひょっとすると印鑑を傾けるような変な習慣に染まっているのはご自身かもしれません。これまでの自身の「常識」を洗いなおしていただいてみてください。ひょっとすると転職先のほうが理に適っているかもしれません。

自身の業務の評価を上げながら人事などに訴えてみる

違和感は会社全体のものなのかその部署、あるいはその上司だからなのかによっても変わってきます。部署や上司など属人的要素によるものであれば異動できればそれが解消されるかもしれません。

転職後1年で部署異動する人は珍しくありません。ただし1年は我慢してその中で評価を上げないと今後のその会社でのキャリアは厳しいものになってしまうでしょう。何とか1年我慢する、その上で実績を上げれば人事なども勘案して異動させてくれることになると思います。

再転職等キャリアを変えることを検討する

会社自体の風土が「無理」と拒絶反応を起こしてしまった場合は、心身の安定のためにも再転職を検討するしかありません。しかし、短期間での転職はマイナスでしかなく、履歴書に傷がついてしまうことは確実です。そのデメリットも許容したうえで、その会社を去る決断をしなくてはいけません。

ひょっとすると、ご自身は会社員という雇用関係の中で生きること自体が合わない人かもしれません。独立開業する、フリーランスでやっていく等の選択肢も視野に入れると良いかもしれません。ただし、年齢や家族の有無などによって、そうしたリスクを取れない可能性があります。これ以上は別の独立開業のマニュアルを見てください。

この順番に検討していくことになりますが、一番はそうならないように事前に十分に企業研究をし、転職サイトや転職エージェントで厳選することが不可欠です。やはり転職の際はそのチャンネルを広く持っていたほうがリスクを下げることになると言わざるを得ません。

業務に上手に溶け込むために

転職先が問題なく自分の肌に合う、今後もやっていけそうな雰囲気であれば積極的にその中に入って溶け込んでいきましょう。「孤高の存在」キャラで行くことも悪くはないのかもしれませんが、いきなりだとやはり色々な面で不利益が生じてしまいます。意識して周囲の輪に入ることで評価もされやすくなります。やはり「和して同ぜず」で行きましょう。

転職者だから注意したいこと

新入社員が気を付けるべきこと、例えば「返事をしっかりとする」「雑用でも積極的に引き受ける」「あいさつを欠かさない」・・・等は転職した皆さまは当然のことと思います。

できて当然ですし、周囲もこうした社会人スキルについてOJTで教えるということもないでしょう。あくまで即戦力として期待されて採用されたわけですからその部分で評価を下げることのないように、今一度行動については振り返ってみてください。それを踏まえて、転職者が見落としてしまいがちなポイントについて説明いたします。


①前職のやり方にこだわらない

印鑑を斜めにして押す例を書きましたが、前職の常識=転職先の常識ではありません。違和感があってもどちらが間違っているとは言い切れない面もあります。「前の職場では●●が当たり前だった」と口に出してしまうと周囲は引いてしまいます。

心で思うことは構いませんし、ご自身で周囲を改善していくことも時には必要かもしれません。ただ、転職当初は前の職場を引きずった行動、習慣を意図的に取らないようにしてきましょう。そうすることで周囲も「自分たちの仲間である」と認めやすくなります。

あと、「前職でこんなに成果を上げた」などと自慢するのもやめましょう。ただでさえこういうタイプは煙たがられますが、転職していきなりこういうことを言われると「ではなぜあなたは転職したのか。人格的に問題があるのでは?」と思われてしまいます。やはり得策ではないことを意識してみてください。

②経費の支払いについて注意する

前職では当たり前のように取引先とお茶をしたときに領収証をもらってそれを経理に提出していたかもしれません。その会社によって経費と認められるラインが異なります。もちろん、初めは自腹で出せということではなく、どの程度ならば経費として認められるのか確認しておきましょう。

「食事を挟むときは2000円まで」
「お茶だけの時は1000円。お菓子は含まない」
「取引先がその場にいないと経費として認められない」

など、経費として認められる基準も会社によって違いがあります。前の会社と同じような感覚でいきなり領収証を出してしまうと、金銭感覚について疑念を抱かれてしまいます。最初に確認する、を意識してください。

③他人への呼称に注意する

前職では部下や同僚を「○○ちゃん」とかあだ名で呼んでいた人もいるかもしれません。こうした他人への呼称に注意してください。

転職してきた人がいきなり下の階級の人を呼び捨てにすれば反感を買います。管理職待遇で転職した人ならなおさらです。会社は学校などではなくあくまで一緒に働くメンバーです。打ち解けてきて、呼び捨てなどが可能になることもあるかもしれませんが、最初はまず「○○さん」と(年下でも、部下でも)呼ぶようにしましょう。

特に対異性の場合は(男→女に限らず)下手に「○○ちゃーん」とか「○○くーん」と呼ぶとセクハラに取られてしまう可能性があります。こういう呼び方は繰り返しますが、完全に打ち解けて親しくなってからです。注意してください。

社会人としての振る舞いをもう1度チェック

新入社員ではないのだから基本的なことをくどくどとは述べませんが、以下の内容はできて当然ですので注意してください。

・雑用など庶務を行い、業務全体を把握する
・自分から他人へ積極的に声掛けをして仕事を引き受ける
・遅刻・無断欠勤など信頼を損ねることをしない
・受け身にならず能動的に動く

など

当たり前のことですが今一度注意してみてください。ただ、「絶対に休むな(有休を使うな)」「始業30分前に行って掃除をしろ」「他人が帰るまで残業をしろ」など、ブラック企業的な「積極性」を実践することはありません。あくまで業務の範囲内、就業規則上の中でアクティブに動くことが大切です。「休むな!」みたいなことを求めてくるのであれば、そこはブラック企業かもしれません(対策は前述の項目参照)。

転職先での評価はあくまで業務で結果を残せるかどうかになります。マナーが良いだけの人では全く評価されませんので注意してください。「人の仕事をたくさん引き受けて全然終わらずに残業を続ける人」と「与えられたことを時間内に完全にこなして、できる範囲で他人のサポートができる人」では後者の方が高評価になります。

「無能な働き者」は評価されません。「有能な怠け者」「有能な働き者」を目指して転職先では活躍してください!