決算書

キャリアアップのために「数字に強くなりたい!」と思っているビジネスマンも多いことでしょう。

今回はビジネススキルの一つである「ファイナンス」の中でも「決算書」、特に「損益計算書」について、解説していきたいと思います。

 

決算書の目的と種類

ここでは、決算書の具体的な項目に入る前に、そもそも決算書とは何か?どういう目的で作られているのか?そして決算書の種類について解説します。

 

決算書はなぜ作らなければいけないの?誰のために作るの?

会社は当たり前のように、毎年決算書を作成し決算報告しています。

でも、なぜ決算書を作る必要があるのでしょうか。また、決算書を作ることで、誰にどのような利益があるのでしょうか。

決算書は、会社法でその作成が定められています。会社法第四百三十五条にその旨が明記されています。

会社法 第四百三十五条(計算書類等の作成及び保存)
2 株式会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る計算書類(貸借対照表、損益計算書その他株式会社の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるものをいう。以下この章において同じ。)及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならない。

出典:電子政府の総合窓口 会社法
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=417AC0000000086&openerCode=1

では、なぜ決算書の作成が重要なのでしょうか。

実は様々なステークスホルダー(利害関係者)が、決算書を見ることで独自の視点で各々の意思決定を行っています。

決算書をチェックするステークスホルダーは以下の4つです。

  1. 経営者
  2. 株主
  3. 金融機関
  4. 自治体

 

経営者

まず、決算書を最もよく見るのは経営者自身になります。

経営者が自身の会社の決算書を見ることで、経営の現状把握および次の一手を考えるための判断材料にするのです。経営者にとっては、決算書は自身の通信簿のようなものです。

 

株主

次に株主です。会社というのは、株主が資本金を出し合って設立するものです。そのため会社の持ち主は、狭義では「株主」になります。

彼らは決算書を見ることで、自分たちの会社が正しい運営をしているか、投資を続けるに値するかをチェックしています。

その会社の株式を3%以上保有すると、会計帳簿閲覧請求権を持つようになります。

 

金融機関

株主と同じように、銀行をはじめとする金融機関も重要なステークスホルダーです。

会社がある程度の規模になると、自己資本だけでなく他社からお金を借りて、事業をさらに大きくしていく必要があります。

そのお金を借りる際に金融機関の判断材料として決算書が重要になってくるのです。金融機関は、決算書をもとに会社を定量的に評価していきます。

 

自治体

最後に自治体も大きなステークスホルダーです。

会社は、法人税を支払う必要があります。彼らは法人税を正しく徴収するために決算書を読み、正しく必要事項が記載されているかをチェックします。

税金逃れのために、決算書を改ざんすると罪に問われます。

 

決算書ってそもそも何?財務三票とは?

実は、法律では「決算書」という言葉は定義されていません。

先ほども述べたように会社法第四百三十五条で、計算書類および事業報告、並びにこれらの付属明細書を作成しなければならない、と明記されているだけです。

この「計算書類」というのが、いわゆる「決算書」になります。会社法ならびにその下にある「会社計算規則」では、計算書類は以下の4つに定められています。

  1. 貸借対照表
  2. 損益計算書
  3. 株主資本等変動計算書
  4. 個別注記表

 
1つ目は貸借対照表です。これはバランスシートと呼ばれるもので、会社の決算時点での資産・負債を明記したものになります。

2つ目は損益計算書です。バランスシートは決算時点での資産状況を明記したものなのに対し、損益計算書は前期の決算時点から今期の決算までの企業活動を明記したものになります。

3つ目は株主資本等変動計算書です。貸借対照表の資本の部の変動については、増減を明らかにする必要があります。新株予約権や配当などについても、この計算書に記す必要があります。

この3つに加えて、それぞれの注意点を記した「個別注記表」の4つが会社法として定められている決算書類になります。

 

キャッシュフロー計算書

一般的に、財務三票は「貸借対照表」「損益計算書」に加えて、「キャッシュフロー計算書」の3つを合わせたものをいいます。

キャッシュフロー計算書とは、その期間におけるキャッシュ(現金および同等物)の変化を現した表になります。

会社は現金がなければ、いくら黒字でも事業が立ちいかなくなります。

なので、法的に作成義務がないキャッシュフロー計算書ですが、損益計算書や貸借対照表と同じくらい重要視されています。

 

なぜ、「損益計算書」が最も重要なの?

財務三票の中でも、損益計算書は最も重要と言われています。なぜならば、損益計算書は企業活動に最も直結しているからです。

売り上げや費用等は、財務三票の中でも損益計算書にしか書かれていません。

キャッシュフロー計算書や貸借対照表も重要ですが、営業活動に最も直結するという意味では損益計算書が最も重要視されます。

 

損益計算書の項目の基本的な解説

では、具体的に損益計算書とは、どのようなものでどのような項目があるのでしょうか?

日本を代表する企業である、「パナソニック」の2016年度損益計算書をベースに、解説していきます。

パナソニック決算書
出典:パナソニック 有価証券報告書
http://www.panasonic.com/jp/corporate/ir/pdf/Report2016.pdf

 

営業利益までの各項目

売上に関する項目

まずは売上高から見ていきましょう。

売上高は、その名の通り「期間中にいくら販売したか」になります。いわゆるトップラインというのは売上高を指します。

売上原価というのは、売上を作るためにかかったコストです。売上原価は、期首棚卸高+今年度仕入高-期末棚卸高で計算されます。単純に仕入れた金額だけでなく、在庫も計算に関係してくることにご留意ください。

製造業においては、製造原価報告書と呼ばれるものを作成しています。これは、今年度仕入高を計算するためのものです。

製造原価は、材料費・労務費・製造経費で分かれることが多いです。材料費を計算する場合も、同じように在庫を計算に考慮します。

売上総利益は、売上高-売上原価で計算されます。いわゆる粗利というのは売上総利益のことを指します。

パナソニックの決算書では

パナソニックの決算書を見てみると、売上高は減少しましたが、売上原価も減少しているため、売上総利益は昨年比で増加しています。

 

経費などに関する項目

販売費および一般管理費が、いわゆる経費の部分になります。

役員報酬や給与手当、地代家賃、広告宣伝費、交際費等もここに入ってきます。開示されていない場合が多いですが、多くの企業は販管費明細を作って管理しています。

販管費明細の中で注意したいのは「租税公課」と「減価償却」です。いずれも聞きなれない言葉ですね。租税公課とは、固定資産税や印紙税・自動車税等、かかる税金のことを指します。

減価償却は、資産を取得した際に経費としての計上を何年かに分割することができる、という仕組みです。

たとえば1億円の機械を取得した際に、その年に1億円の経費として申告するのではなく、10年にかけて1000万円ずつ経費処理するという方法です。

これにより、経費が安定しひいては経営が安定するのです。資産によって、耐用年数はそれぞれ厳密に定められています。

たとえば機械一つをとっても、食料品製造用機械は10年、家具製造用機械は11年等、厳密に設定されています。

売上総利益から販売費及び一般管理費を引いたものが営業利益です。この営業利益は、ボトムラインと呼ばれることが多いです。

パナソニックの決算書では

販売管理費が増加したため、営業利益は昨年に比べ減少しています。

 

当期純利益までの各項目

営業利益より下の項目は、どちらかというと財務的な視点が強いです。では、それぞれの項目について解説します。

営業外収益と営業外費用については、営業外で発生した収益、費用についての項目です。配当金や、銀行への利息の支払い、逆に銀行からの利息等がこちらに計上されます。

営業利益に営業外収益を足し、営業外費用を引いたものが経常利益です。

パナソニックの決算書では

営業外収益が増え、営業外費用が減少したため、経常利益ではプラスになっています。

 

その期の特有なもの

経常利益までが通常の経営活動での収益を現すのに対し、特別利益・特別損失はその期特有で、継続性がない事象に関する収益や損失を現します。企業の直接の収益とは関係ないので、あまり企業評価には結びつきません。

項目としては、固定資産等の売却における収益・子会社の取得や子会社の譲渡による特別利益・特別損失・債務引き当ての免除等が挙げられます。

ここは財務会計的な要素が強く、通常のビジネスとは性格が異なるものです。

なので専門で会計をやっている人以外は「その期だけ固有の事象の損益だ」ということと、「特にビジネス本業には関係ない」ということを理解しておけばよいでしょう。

ここまでで税引き前当期純利益です。ここから法人税、住民税等を支払ったものが当期純利益になります。

 

損益計算書の分析ポイント

では、実際にビジネスマンとして、どのような視点で損益計算書を分析すればよいかについて解説します。

 

損益計算書の分析はココが肝

損益計算書は、時系列でみることが大事です。もちろん単体での数字も大事ですが、昨年に比べてビジネスがどう変化したかに注目することで、その会社の強みや課題が見えてくるからです。

単年で儲かった儲かっていないを評価するよりも、昨年に比べて売上がどうか費用がどうかを分析することの方が重要です。

たとえば金融機関等でも最低でも3年分は決算書を取得し、時系列で分析を行ったりします。

他には、同業他社と比べてみることも有効です。

例えば、人材派遣会社と鉄鋼業だと、費用構造が大きく異なり比較してもあまり意味がないかもしれません。

同業他社や業界平均と比べることで、その会社の強み、弱みが見えてくる場合もあります。

 

損益計算書で注目すべき4つの指標

損益計算書を知るために、4つの指標を知ることでビジネスに対する理解がぐっと深まっていきます。4つの指標について、それぞれ解説したいと思います。

 

売上高総利益率

まずはじめは、売上高総利益率です。売上高総利益率は、売上総利益÷売上高で計算することができます。これは、「どれくらい扱っている商材に魅力があるか」を表します。

一般的に製造業や小売業は、サービス業に比べ売上高総利益率が低い傾向にあります。

業種によって大きくことなるので、同業他社どうしで比較するとその会社の商材に魅力があるかが判断しやすくなります。

 

販管費率

次に注目すべきは、販管費率です。販管費率は販売費および一般管理費÷売上高で計算することができます。

これは「企業がどれくらい効率的に商材を販売しているか」を表します。販管費率が低いほど、ビジネスを効率的に行っている形になります。

売上原価はある程度流動的ですが、販管費は人件費等・固定費として支払う必要があるものも多いです。

なので、販管費率が高い会社は、業績が厳しくなると赤字に転落しやすい傾向があります。

 

営業利益率

上記二つをあわせたものが、営業利益率です。営業利益率は、営業利益÷売上高で計算することができます。

営業利益は、「その会社の収益性の最も重要なところ」です。

経営者は、売上高よりも、営業利益を出すことを求められます。なぜなら投資家や金融機関は、営業利益から配当金や利息を受け取るからです。

いくら売上高が大きくても、営業利益率が下がり営業利益を出せない経営者を市場は評価しません。

仮に減収しても、きちんと営業利益率をあげ営業利益を出せる経営者の方が評価は高くなります。

 

EBITDA

最後はEBITDAです。聞きなれない言葉ですが、こちらは「Earnings before interest, taxes, depreciation and amortization」の略です。

費用の中には、減価償却という項目があるのは先ほど説明しました。減価償却とは、「実際に支払いは発生していないのに、会計上マイナス」という状態です。

なので、減価償却を加味せずにキャッシュの増減を見るものとしてEBITDAは有効です。

特に、設備投資の大きい業界においては営業利益よりも本業の収益力を見る指標として、重用されています。

EBITDAの計算式は以外と簡単です。営業利益+減価償却で算出できます。

 

決算書から未来が見える?決算書の見方の基本 まとめ

決算書の意義と損益計算書の見方、分析の視点を知ることで、ビジネスに対する理解はぐっと深まります。

ビジネスで数字がわかる、というのは大きな武器になります。ぜひ、今後のビジネスのシーンで活用してみてください。