実際に創業にあたり、資金調達を行うわけですが、具体的な融資制度の説明に入る前に、そもそも創業資金を借りるために必要な3つの要素について理解しておきましょう。具体的には「創業計画書」「事業計画」「経営分析」になります。

これらをしっかりと行うことで、金融機関の信頼も得やすくなり融資につながるだけでなく、実際に事業を展開していくうえでも大きな武器になります。この記事では一般論ではなく、創業の現場の本音ベースで語ります。ほかでは得られないこともありますので、期待してください。

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創業計画書について

何よりも重要なのは「創業計画書」になります。決算書という「通知表」がない状態で融資を受けるわけですので、具体的に自分の事業がどのようなもので、今後の売り上げの見通しが上がっていくということについて説得力を持って示さなければいけません。

ここでは、説得力のある創業計画書の書き方について考えていきたいと思います。

創業計画書の記載事項

創業計画書は金融機関ごとのフォーマットがありますが、大きな部分は共通しています。指定のファイル(エクセルやワード、PDF)に入力して提出することもできますが、個人でわかりやすく整理して書くことでも大丈夫です。

できれば自分でまとめた創業計画書を

指定フォーマットは入力できるスペースが少ないので、自分でまとめる方法をお勧めします(ただし、それが許可されない場合は指定フォーマットへの入力をお願いします)。

記載事項の項目紹介

今後、融資を受ける際にまず選択肢に入るであろう、日本政策金融公庫の創業計画書を例に記載必須事項を確認していきます。

創業の動機

何を目的に始めたのか、いちばん重要なことです。いろいろ理由があったとしても前向きな理由が求められます。

創業者の略歴

過去の職歴や学歴を記入します。基本的にすべて書きます。転退職を繰り返していたとしても正直に書きます。

取扱商品・サービス

どのような事業を行うのか記入します。既存の業種であれば書きやすいのですが、新しいサービスを始めようとする場合は、書き方に注意する必要があります。

取引先・取引関係

顧客が一般の人なのか、企業や団体なのかによって変わってきますが、販売先が決まっている場合は必ず書きましょう。また、仕入れ先、外注先などもあれば書きます。

取引先が決まっていることで、信頼のある事業者だと認識されやすくなります。
従業員

ご自身以外の方を雇う予定のある場合はそれを記入します。当然、その方の人件費も支払うことを前提に審査が行われます。

借り入れの状況

ご自身の借り入れについて記入します。ここは非常に重要です。

借り入れを正直に書かないと、発覚した場合融資が受けられなくなると思ってください。
資金の調達方法

事業に必要な資金はすべて借り入れれまかなうことは基本的にできません。自己資金、借り入れを合わせて必要な資金を調達するものとなっています。

事業の見通し

事業計画のことです。これは別に項目を設けて解説します。ここには、ごく基本的なことだけを書いて別紙参照、あるいは初めから別紙に事業計画を作る必要があります。

基本のフォーマットに入る分量ではまったくダメだということを理解しておいて下さい。

創業計画書の記載事項については、以上になります。次に、具体的に「評価される」創業計画書の書き方について解説いたします。

審査に通る創業計画書とは?

ここでは、審査に通るための創業計画書のポイントについて解説いたします。「創業計画 書き方」などで検索すると、いくつものサイトがヒットするかと思います。基本的な書き方についてはそこにあるとおりですが、ここではあくまで「本音ベース」で解説していきます。ここだけのお話です。他にはないことの補足として利用してください。

嘘は絶対にダメ!

少しでも見栄えよく、なおかつ融資が通りそうだと思って、計画書の中身を盛って書いてしまうことがあるかもしれませんが、それは絶対に(!)止めてください。

金融機関のチェックで判明すると大きなマイナスポイントになるということだけではないのです。

融資の判断をするのは金融機関の人だけではなかった?

実は融資の判断をする際には、金融機関の人だけではなく専門家の人もその審査に加わっているといわれています。要は、その人たちは長年の経験から見抜いてしまうのです。

  • 「こういう書き方をしている人はまず嘘だ」
  • 「この経歴には抜けがある」
  • 「前職がこれでこの自己資金は多すぎる」

など、金融機関が持っている情報以上の「裏」をこの人たちは見破ってしまいます。「誇張しているのではないか」といわれるかもしれませんが、本当です。我々が思っている以上に、その「プロ」の眼はごまかさないのだと思ってください。

正直にすべてを打ち明けて、それでも可能な融資額や創業プランを考えることが、失敗しない経営の秘訣です。

具体的な正直に書くべきポイントは?
職歴・・・意外な評価も?

何度も転職していても、空白期間があっても必ず書いてください。苦難の道のりを逆に評価される場合もあり、説得力も出ます

学歴・・・畑違いの業界が逆にPRになることも

詐称はNG。文学部なのにITの仕事を始めようと思っても、それを説明できれば大丈夫。むしろ他者との差別化で積極的にPRすべきです

借り入れ・・・友人間のことまでしっかりと

金融機関はもとより、親族、友人間に借り入れがある場合も絶対に書いてください。なお、その場合は「借用書」を取り交わして提出することになります

自己資金・・・自分の誠実さをアピール

今自分の資金がどのくらいあるのかすべて書きます。出し惜しみはいけません。あくまで創業融資は「自己資金では足りない部分」を補うためのもの。融資側も生活費まですべて出させるようなことはしません。その人が誠実で信頼できる人かを判断するもっとも重要な要素であるということです。

例え消費者金融から借り入れがあったとしても・・・

正直であることは極めて重要です。、それを正直に書きましょう。おそらくすぐに融資は実行できず、その返済を優先することになりますが、消費者金融からの借り入れが発覚した時のダメージ>正直に告白した時のダメージ、です。前者の場合、その金融機関をはじめ他の金融機関にも信用情報として伝わります。おそらく、2度と融資を受けることはできないでしょう。

そもそも、事業を行う人が消費者金融から借り入れをすることは、絶対にNGだということを理解してください。そうなる前に、日本政策金融公庫や商工会議所に相談に行くべき。万策尽きても消費者金融に行ってはいけません!

下手でも自分の力で誠意をもって書く

よくありがちな話ですが、創業計画書を他人に書いてもらう人がいます。コンサルタントや中小企業診断士の人にお願いすれば(有料でしょうが)、代行してくれると思います。見栄えがよく、わかりやすく、しっかりと分析されている創業計画書のポイントは高いのは事実ですが、これもまた、審査の際に「プロ」によって見破られてしまいます。

おそらく、融資前の面接の際に創業計画書について詳細な質問、といいますか、厳しいつっこみが入ると思います。他人の書いた論文の口頭試問を受けても全く答えられない、そうした状況に陥ります。

自分自身が理解していない、体裁だけ揃えた創業計画書に厳しいツッコミをされては全く答えられません。そんな状況がどのような結果に繋がるかは容易に想像できるでしょう。

特に、自分の理解と他者の書いたものに差がある場合、それが如実にわかります。他人が書いたものと分かった場合、論文の盗作と同じように最悪の評価になってしまいます。他人の指導や書物、このようなサイトを参考にするのは一向に構いませんが、他人に書かせるというのは絶対にやめてください。

とにかく、心を込めて丁寧に書くことが大事。エクセルのグラフや図表を必ずしも挿入する必要はありません(あるに越したことはないのですが)。

「売れ線」の創業は計画書が多少荒くても審査側は評価してくれる

創業計画書はご自身が書いた内容をしっかりと理解していることが、何よりも重要になります。そもそも、優れている創業は、多少計画書に粗があっても、審査する側がわかっていて評価してくれます。「売れ線」の創業というのは、どこの金融機関であっても理解していますので安心してください。

ある資料は全部添付する

必要書類にはありませんが、創業計画書にはご自身のPRできる材料はすべて添付してください。

  • 何かの資格
  • メディアで取り上げられた記事のコピー
  • 自分が出ているサイト
  • 何かのコンクールの入賞作品

など、一見、創業内容と関係なさそうなものであっても、PRできるものはつけてください(マイナス方面の実績は添付しなくていいですよ)。

過剰な資料の添付は煙たがられる?大丈夫、マイナスにはなりません!

外部の評価がある場合、今後事業を進めていくうえで、「この人は信頼できそうだ」ということをアピールできる材料になりますし、その信頼を裏切るような迂闊なこともできないということを審査側に伝える意味もあります。あまり添付しすぎて、煙たがられると思うかもしれませんが、積極的に自分の実績をアピールすることは、創業融資についてはマイナスにならないことを理解しておきましょう。

創業計画書の分量について

創業計画書の分量についてお話します。どこの解説サイトを見ても、簡潔にわかりやすくとあるかと思います。基本的にその線は間違っていないのですが、ここは本音ベースなのであえて書かせていただきます。

そもそも、金融機関指定のフォーマットは、1枚におさまるようになっていますので、これだけ書いても到底合格いたしません。そこにはあくまで概略の概略を書くか、省略できる場合は書かず別紙にまとめることになります。

上でも書きましたが、創業計画書は

  • 嘘は書かない
  • 下手でも自分で書く

ということが大前提になります。従って、上手にまとめられなくなり多少分量が増えてしまっても問題ありません。一般的に創業計画書の分量は、A4で10枚程度といわれていますが、それよりも増えてしまっても問題ありません(数十枚はさすがに・・・と思いますが)。こう理解してください。

  • 金融機関既定のフォーマット→「概要版」
  • 自分で作成したオリジナル→「本編」

概略を伝えたうえで、本編で理解していただく流れだと非常にわかりやすいですよね。これは創業者の配慮を審査側に伝えることにもなり、評価されます。

枚数が増えることを気にするよりも重要なのは、伝えるべきことをすべて伝えるということです。

わかりやすく相手に響く事業計画

続いて事業計画について考えていきます。上記、創業計画書の項目「事業の見通し」に該当します。金融機関のフォーマットでは記入欄はわずかですが、ここがいちばん重要になるため、そこの記載だけでは当然不十分。みなさんの思いと、如何に緻密な計画なのかを叩きつけましょう。

創業前と創業後の違いを理解しましょう

まず、資金調達をする時点で、どの段階なのかによって事業計画の重要性が変わってきます。以前の記事で書きました通り、「創業」カテゴリーは、実際に事業開始前だけのものではなく、開業3~5年後まで認められています。

つまり、実際に事業を開始していて、決算書等が作られている場合は、それが事業計画以上の重要性を持ちます。

創業後の事業計画の重要性(低)

創業し、実際に2期、3期と決算を済ませている場合は、はっきり言うとそれをもとに融資の判断がされるため、それほど事業計画は重要ではありません。

売り上げが右肩上がりであれば、伸びている事業だと判断されますので、通常の融資以上に投資費用も含めて融資を受けられる可能性もあります

「実績値」+「期待値」で融資が受けやすくなるというわけです。

ただし、決算書があれば何でもいいというわけではありません。

  • 売り上げが右肩上がりで伸びている
  • 自己資金も存在する
  • 最低でも2期以上の決算を済ませている

ことが条件になります。「線」で見て業績が拡大していることを示す必要があります。まだ開業直後や1期しか決算が済んでいない場合、あまり業績が伸びていない場合は、創業前と同じような判断になりますので、次に述べる事業計画をしっかりと作成する必要があります。

創業前の事業計画の重要性(高)

実際に創業する前の段階では事業計画は非常に重要になります。これをもとに審査をするしかないのですから、説得力のある事業計画の作成が求められます。次の項で具体的な書き方について考えていきたいと思います。

こうした具体的な事業計画があって、初めて審査の俎上に乗ると思ってください。

事業計画の内容

創業計画書に添える事業計画ですが、以下の6つの項目を網羅する必要があります。

  • 販売計画
  • 仕入計画
  • 資金計画
  • 収支計画
  • 本文
  • 返済計画

販売計画について

自分の商品やサービスを誰に対して売るのかを細かく書いていきます。ターゲットがはっきりしていなければ、審査をする側はどのくらい売れそうなのかを判断することができません。

具体的には

誰が?

自分が事業を行うのはもちろんですが、その他に家族や従業員がいるのかを検討します。当然、人数が多くなれば資金的にもきつくなるわけです。これも正直に記入します。自分一人で不可能な事業を、自分だけで行うとすれば、審査の際に疑問符がついてしまいます。

誰に

顧客層を考えます。一般顧客なのか、卸売業のようにBtoBなのか、その両方なのか、もし対企業の場合は、その相手先がいかに信頼できる企業なのかを説明できる必要があります。

何を売る

 
実際に販売する商品やサービスを詳述します。この段階で具体性がなければいけませんので注意してください。

販売方法

 
店舗で売る、通信販売にする、ネット上の情報のやり取りにするなど販売方法を考えます。現実性のない方法(例えば、都心でセルフサービスにする)などはマイナス評価になります。

立地

店舗の立地です。実際に店舗を構えて売るのか、情報やサービスの場合、自分の住居兼事務所にするのか、立地条件と販売するものの関連性が求められます。

自分1人でできる情報サービスなのに、都心一等地に広い事務所を構えるから融資してください、などということは不適切になります。
販売条件

現金、カード、掛け売りなどの方法を考えます。掛け売りの場合、そのサイトも考慮する必要があります。

営業時間

現実的な営業時間を考えます。個人なのに24時間営業の計画を立てるなどは現実性がありません

仕入計画について

仕入れが必要な事業の場合は、詳細な仕入計画が必要になります。仕入れが必要ないIT業などはこの項目は不要です。

仕入れるもの

何を仕入れるのか考えます。実際の安定した仕入れが難しい貴金属や、季節ものの食品などを取り扱う場合は注意が必要です。

仕入先

安定した信頼できる仕入れ先を確保する必要があります。必要な時期に、必要な商品を、供給してくれることが営業計画を立てる上では極めて重要です。

仕入条件

現金仕入、あるいは買掛や手形の支払いは可能なのか考察します。何かあったときに支払いを待ってくれるところであれば、事業の安定性が増します。支払いまでのサイト(間隔)もここで確認します。

在庫

過剰在庫にならないような仕入計画を立てます。一気に仕入れてしまうと資金繰りが悪化してしまいます。かといって、少量を幾度も仕入れてしまうと支払額は大きくなるため、その加減を考えなければなりません。

資金計画について

創業にあたり、「このくらい資金が必要」「その資金を準備するために融資を受ける必要がある」ということを示します。

必要資金・・・α
  • <設備資金>として、店舗、機械、工場、車両などの費用を計上します。
  • <運転資金>として、仕入れ資金や諸経費の支払いの費用を計上します。
調達方法・・・β
  • <自己資金>として自分の預貯金などを計上します。
  • <家族等からの借入>として、金融機関以外からの資金調達を計上します。なお、その場合、返済方法や期限も明記します。
  • <金融機関からの借入>として、本件融資の希望額を計上します。
  • <その他金融機関からの借入>もし、当該金融機関以外からの借入をする場合、それを計上します。なければ結構です。
この計算で「α=β」になるようにしてください。ある意味、創業前の「貸借対照表」だと解釈してください。
自己資金について

創業融資の基本は「自己資金では足りないのでそれを補うための融資を受けたい」というものです。自己資金がない場合や、あっても事業計画に計上しない場合は、融資は受けられないと思ってください。

事業計画にあたって、自己資金の計上額は、総資金の30%~50%だといわれています。(もちろん、それ以上自己資金があるのはOKです)。

つまり、開業資金が500万円必要な場合、200万円~250万円は自己資金で賄い、残りを融資で補うということになります。

500万円全部融資を受けることはできませんので注意

売上予測について

現実的な売上予測を立てる必要があります。業種にもよりますが、直線状に売上が上がっていくことはまずありません。

100→130→170→220→300
のような立て方が現実的なものになります。
まして、
50→150→400→1000
など二次曲線のような売上計画はかなり不適切です。無理やり売上を上げるようなことは審査の際に大きくマイナスポイントになってしまいます。

細かいポイントは次項で説明いたします。

収支計画について

創業後の見通しを考えていきます。創業当初、1年後、3年後・・・と時間が経つにつれて売上は上がっていき、収支は改善していくはずです(そうですよね!)。当初は赤字、あるいは収支トントンでも、だんだん黒字が拡大し、経営的に軌道に乗って行くことを示していきます。この収支計画を立てていくためには、経営分析が必要になります。それは3番目の重要な事柄として独立項目で後述いたします。

当然初年度から大幅に黒字、のような計画は現実性がないです。

返済計画について

実際に創業した後の「損益計算書」を作ってみます。より現実性のあるものだと評価が高いです。

損益計算書とは

①売上高(売上予想)
②売上原価(仕入れ費用)
③営業経費(人件費、家賃、減価償却費等)
をもとに
①-(②+③)で利益を予想します。

借入金の返済はこの利益の中から行わななければなりませんので、これがマイナスだと返済ができないことになってしまいます。返済ができる計画を立ててください。

なお、既に創業後の場合、損益計算書はできていますので、これは不要です。ただし、返済できる余力がないと融資は難しくなってしまいますので注意してください。

この余力がない場合、返済できる余力ができるように新しい計画を立てる必要があります。

説得力のある事業計画を作るためのテクニック

実際の営業計画は上記に加えて、後述の「経営分析」を添えることでより説得力が増すことになりますが、営業計画の段階で審査側に好印象を与えるちょっとしたテクニックを解説いたします。

信頼できる取引相手をすべて記す

取引企業の情報を添付

取引相手、仕入相手(販売計画、仕入計画)について、法人や企業と取引をする場合は、その企業についての情報を添付しましょう。ご自身の実績資料をすべて添付してくださいと述べましたが、相手についても同様にしてください。これは融資相談の際にはアドバイスされないと思いますが、非常に重要なことです。

相手が信頼に足ると判断されれば「その信頼できる相手から信頼されている自分」をアピールすることができます。大きなポイントにつながりますので、積極的に資料を添付してください。

これは非常に重要で、しっかりとした会社と取引ができることは新規創業の場合あまりないため、効果的なアピールになるのです。

あまり実績がない会社しかない場合は・・・

もし可能ならその会社のHP、あるいは本当に相手に信頼されているのであれば、許可を得て、相手企業の決算書のコピーを添えるという方法もあります。よほど信頼されていないとできないことですが、こういう「裏技」もあるということです。

売上予測は現実で達成可能な範囲で

売上予測は難しいものです。高すぎても経営センスが問われてしまいますし、低いと本当にこの事業は成功するのかと思われてしまいます。

その加減が難しいのですが、もし同業他社の資料があればそれを参考に(なぞれというわけではありません)、自社のオリジナルを加える形でいいと思います。過去に成功している会社以上の実績を示すことは、かなり(よほど説得力がないと)難しく、現実的なラインに納めるのがポイントです。

過去に成功している企業以上の「売り」があるのであれば高い予測を立てていただいても構いませんが、かなりの説得力が必要になります。

新規分野は通りにくいことを覚悟し、とにかく具体例を入れる

融資企業に同様の事業の融資をした経験がある場合は、担当者もその計画について妥当かどうか判断がつきますが、担当者自身も未経験の事業の場合は手探りになります。

例えば、
「女性専用の妊活SNS」というものを作るために融資を受けたい、という人がいた場合どうでしょう。SNS事業はFacebook、Twitter、LINEに代表されますが、現在SNSで利益を上げるのは難しいといわれています。

SNSの収益モデルは、有料会員の課金と広告収入なのですが、その実績のある企業が非常に少なくサンプルにならないのです。いくら1年で何万人会員が増えて・・・、と計算しても、ベースとなる会員の母集団が限定されている場合は、どう説得力を持たせるのか非常にハードルが高くなります。

新規事業に参入したい場合は商工会議所などにも相談を

このようなSNS分野に限らず、完全新規の分野の場合は審査側を説得できるだけの材料をそろえるのは非常に難しくなります。こうした場合近くの商工会議所などに相談し、経営指導員を含めた対応を取ることも必要になります。

経営分析の手法を活用し経営を客観視する

最後に経営分析の手法を1つ紹介いたします。分析手法はたくさん存在しますが、これがいちばん簡単で誰でもでき、かつ説得力があるものになります。その方法とは「SWOT分析」です。

SWOT分析とは?

SWOT分析とは、自分の事業が置かれている状況を、「強み」「弱み」から客観視して分析する経営分析手法です。それをもとに、「強みを伸ばす」方向がよいのか「弱みを克服する」方向がよいのかを決めます。融資を受ける際はどちらの目的で申し込むのかはっきりとさせておくことが重要です。

SWOT分析の方法

創業後、自分の事業や会社が置かれている状態を以下の4つの見地から分類します。

①S:強み(Strength)
②W:弱み(Weakness)
③O:機会(Opportunity)
④T:脅威(Threat)

①②が自社の強み弱み:内部要因
③④が外部環境の強み弱み:外部要因

この4種類から、どう自社のブランド力を強めていくことが必要なのかを分析していきます。

Sとは?

自社が持っている他社にない、武器のことを指します。技術力が高い、秘伝の●●がある、特別な仕入れルートを持っている、財務内容が健全で自己資金が多いなど、融資を受ける際にも積極的にPRできる材料です。

Wとは?

自社が他と比べて劣っていることです。販売ルートが開拓されていない、商品仕入ルートが弱い、ありきたりの料理しか出せない、経験が乏しいなどです。これもしっかりと把握して、弱みを知ることが大切です。どんな人でも弱みがない人はいません

Oとは?

外部環境で有利な点です。お店が人通りの多いところにあり集客が期待できる、最近注目が集まっている分野である、他社では扱えない商品、サービスがあるなど、自社の強み以外で他社と差別化できて有利になる分野を指します。

Tについて

外部環境として不利な点です。同業他社でナンバーワンの専門店チェーンが近くにオープンした、近くのイベント会場が閉館になった、自社の分野がメディアで叩かれている、など運悪く自社の経営にとって「悪雲」となってしまった要素になります。

SWOT分析の戦略の立て方

これらS・W・O・Tを書き出したうえで、表でクロスさせます。そうすることで、客観的に自分の事業のよい面、悪い面をあぶりだします。

必要とされている事業なのか?

この段階で、S・Oが「少ない」あるいは「ない」場合は、この事業は求められていないと解釈してください。おそらく成功する可能性はかなり低いと思います。

実は飽和状態の分野ではないか?

また、W・Tが多すぎる場合はこの事業に参入することが妥当かどうかを判断してください。よほど内容がよくなければ、参入できずはじかれてしまいます。また、W・Tが少なすぎる場合適切な分析ができていない可能性があります。本当に「ニッチで需要がある」ものならばいいのですが、いざ参入した場合思わぬ落とし穴に陥る危険性があります。

これらをもとに、

  • 強みを活かす:Oを利用してSを高めるための融資を行う
  • 弱みを克服する:Tに負けないようWを減らすための融資を行う

のいずれの戦略で行くのか判断します。

SWOT分析のサンプル

ごくごく簡単にSWOT分析がどのようなものか書いていきます。仮定の会社です。ごくごく簡単な分析です(本当はもっと細かく行います)。

会社の現状

  • 都内にある飲食店。基幹駅に近く人通りが多い。
  • 営業時間は夕方から昼まで。夜勤明けのお客が利用できるスタイル
  • スタッフは交代制
  • 独立店ではなく、オーナー会社に売上を納めてそこから一定金額を受け取るスタイル
  • 売上は増加しているが、上納金が多く利益が出ない

融資の目的

店舗ごと買い取って、上納金をなくすようにしたい。制度として店舗を買い取ることは可能である。店舗買取のためには3000万円必要。

このお店SWOT分析

S:営業時間が昼まで
W:利益が出ないスタイル
O:人通りが多く客足が絶えない
T:基幹駅近くなのでライバル店が多い

これをもとに、あくまで店舗を買い取れば、売上そのものが自分の会社のものになるということを強く訴えます。客自体は来ていて問題ありませんからWを改善するための融資として申し込むことが可能です。

このようにこの簡単な条件であっても分析することができます。これを創業計画書に添付することで、より説得力があるものになるわけです。

以上3つの視点から、創業に際して重要なポイントをまとめさせていただきました。あくまで要点だけですので(書きだすと膨大な量になります)注意してください。実際に書いてみてわからないところなどは、金融機関の窓口や商工会議所の指導を受けるとよいでしょう。

本音ベースということでしたが、融資の審査担当者はかなり「プロ」ですので、上辺だけのテクニックや嘘は簡単に見抜いてしまうということを強く意識してください。

最後に、すぐに参考にできる創業計画書の見本テンプレートを添付しました。より質の高い計画書作成にぜひ役立てて下さい。
創業計画書事例1