具体的な創業計画書について理解していただいたところで、創業時の資金調達方法について解説いたします。創業融資は民間金融機関でも可能ですが、お勧めしたいのは「日本政策金融公庫」と「地方自治体+信用保証協会」の2パターンです。どちらも、金利などが優遇されていて、融資を受けやすくなっていますのでまずは、こちらにトライしていただくことをお勧めいたします。

目次
日本政策金融公庫の創業融資
日本政策金融公庫という金融機関があります。以前は「国民生活金融公庫」と呼ばれていた政府系金融機関が、いくつかの政府系金融機関と合併してできたものです。
日本には郵便局も含めて、国営の金融機関はないのはご存じのとおりですが、この金融機関は政府の意向を反映した経営が行われていて、税金などの投入もされています。当然ですが、利率なども一般の民間金融機関と比較して優遇される傾向になります。
日本政策金融公庫の創業融資は1種類ではなく、創業時の立場などによって複数の中から選ぶことができ、より有利なものを選択することができます。以下ではそれぞれの創業融資について解説していきます。
新創業融資制度
公庫で最もメジャーな創業融資になります。一般的な創業融資のイメージでいてよいと思います。条件はいろいろありますが、無担保、無保証人であることが特徴です。特に不動産などを持っていなくても、しっかりとした創業計画書と自己資金があれば、創業資金を調達することが可能です。
新創業融資制度は「特例」扱い
この制度は公庫に存在する各種創業融資の「特例」という扱いです。「新規開業資金」「女性、若者/シニア起業家資金」「再チャレンジ支援融資(再挑戦支援資金)」といった創業融資のメニューはもっと幅が広いのですが、担保や保証人が必要になります。それが不要な代わりに、融資限度額などに制限を設けていると思ってください。各創業融資の「特例」が「新創業融資」という位置づけです。
融資の要件
新創業融資を受けるにあたっての資格は以下のようになります。これを満たすことが最低条件になります。
創業時期
創業前はもちろん大丈夫ですが、創業後であっても税務申告を2期終えていなければ大丈夫です。それ以上申告をしている=創業から時間が経過している場合は、この制度を利用することはできません。
事業内容
HPには細かな要件が記載されていますが、公庫の通常融資の対象業種であればまず問題ありません。つまり、金融業やギャンブル、風俗業などでなければまず大丈夫だと思ってください。ただし、要件を満たすのと融資が出るのでは別の話になります。
自己資金
例外もありますが、創業資金総額の10分の1の自己資金があることを条件にしています。ただし、10分の1あれば問題ないかというとそうではなく、「要件」としては10分の1ですが、実際融資の審査に当たっては、創業融資一般で言われる30%~50%の自己資金がないと厳しくなりますので注意してください。
融資の金額、返済期限
融資の金額
この制度の融資限度額は3000万円になります。うち運転資金のMAXは1500万円。つまり、設備資金であれば最大3000万円まで融資が可能ですが、運転資金に限ってはその半分までしか融資ができないということです。
事業を開始するにあたってそこまでの運転資金が必要になることはあまり考えられず、不透明な資金使途を防止する意味でも制限が設けられていますのでご理解ください。
返済期限
返済期限ですが、元となる創業融資に準じます。ただし、無担保、無保証人ですので、返済期限は短くすることが求められる場合が多いようです。5年~15年がMAXの場合が多いですが、それよりも短い期間の設定でも構いません。
返済期間を延ばすことはマイナスですが、途中で短縮することは、むしろプラス評価になります(ただし、無理をする必要はありません。しっかり毎月返済できることを優先してください)。
一定期間返済をしなくてもいい「据置期間」
また「据置期間」と言って、借入を受けてから一定期間(経営が軌道に乗るまで)は、返済をしなくてもいい期間も存在しています。据置期間を設けなくてはいけないということではありませんが、もし経営に不安要素があるならばこれを設定するのもOKです。据置期間の設定はマイナス評価にはならないので安心してください。
担保、保証人
この制度最大の特徴ですが、担保も保証人も必要ありません。その代わり、各種制限が設けられていると思ってください。なお、経営者ご本人を連帯保証人として設定することもできます。その場合は金利が0.1%下がりますが、連帯保証人というのは経営上の債務を個人がかぶる可能性があるということです。経営者ご本人の借金が増える可能性もありますので判断は慎重に行ってください。
担保、保証人を設定すれば当然利率は低くなる
一般的に担保や保証人の設定があるほうが利率は低くなります。「借金のカタ」があるわけですから当然と言えば当然の話ですが、ご理解ください。新創業融資ではない創業融資の場合、これよりも利率が低くなる可能性があります。
融資の流れ
新創業融資の流れは、創業融資一般に準じます。
↓
②創業計画書の作成、各種資料の準備
↓
③審査
↓
④融資の実行
となり、創業計画書の作成が何より重要になります。なお、この場合、商工会議所の創業融資のように指導を受けながら創業計画書を作成することはできません。
公庫の担当者も一般的な融資相談の枠を出てまで指導を行うことはありませんので注意してください(そもそもそれは担当者の仕事ではないからです)。
その他の創業融資について
新創業融資制度は公庫が既に有している創業融資の中から、「無担保、無保証人」である条件でピックアップしたものです。
もし、その条件が必要ない、つまり、担保や保証人の設定があっても大丈夫という場合は、元の制度を利用することができます。そのほうが融資の限度額も高く、金額の高い融資を受けられる可能性があります。
新規開業資金
融資可能額が高い創業融資です。主に社会人経験が長く、専門知識や技能が高い人向けに融資が行われます。ポイントは以下のとおりです。
- 創業前~創業後7年まで融資可能
- 限度額7200万円(運転資金の上限は4800万円)
- 返済期間
運転資金5年(例外的に7年まで可)
設備資金15年(例外的に20年まで可)
女性、若者/シニア起業家支援資金
女性や若い方、あるいは現役の引退が視野に入っている方向けに融資を行います。創業しづらい環境にある人たちの創業をサポートする制度です。概要は以下のとおりです。
- 女性、35歳未満の男性、55歳以上の男性が対象
- 創業前~創業7年後まで融資可能
- 限度額7200万円(運転資金の上限は4800万円)
- 返済期間
- 技術・ノウハウ等に新規性がみられる方については金利の優遇があります
運転資金5年(例外的に7年まで可)
設備資金15年(例外的に20年まで可)
再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)
何らかの理由で廃業した方の再起業を支援する制度です。ただし、事業がうまくいかなかった人向けですので条件があります。
- 廃業歴等を有する個人、または廃業歴等を有する法人
- 廃業時の負債が新規創業に影響を与えない程度に整理されている、あるいは見込みであること
- 廃業の理由がやむを得ないものであること
以上の3要件を満たすことが必要になります。
融資の内容は他の創業融資と同じようなものになります。つまり、
- 創業前~創業7年後まで融資可能(創業し7年以内に廃業しているケースです)
- 限度額7200万円(運転資金の上限は4800万円)
- 返済期間
運転資金5年(例外的に7年まで可)
設備資金15年(例外的に20年まで可)
であり、「女性、若者/シニア起業家支援資金」の条件に該当する人は金利などで優遇があります(女性や若者、シニアの場合は優遇されるということです)
その他創業融資メニュー
公庫の融資メニューはこれだけではありません。以下のものが存在し、それぞれ条件を満たせば金利などで優遇されます。
- 新事業活動促進資金
- 食品貸付
- 生活衛生貸付(一般貸付、振興事業貸付および生活衛生新企業育成資金に限る)
- 普通貸付(食品貸付または生活衛生貸付(一般貸付)の対象となる方が必要とする運転資金に限る)
- 企業活力強化資金
- IT資金
- 海外展開・事業再編資金
- 地域活性化・雇用促進資金
- 事業承継・集約・活性化支援資金
- ソーシャルビジネス支援資金
- 環境・エネルギー対策資金
- 社会環境対応施設整備資金
- 企業再建資金
これらの融資は「新創業融資」として無担保、無保証人の条件を付けて融資を受けることができます。もちろん、金利が高くなる、融資限度額が低くなるなどハードルができますので注意してください。
被災者向けの特例措置や優遇
また、政府系金融機関であることから、東日本大震災や原発事故、その他の自然災害で被災された方向けに特例措置や優遇メニューが存在しています。もしご自身の会社や現在の境遇がそれに該当する場合は、窓口で相談してみるといいと思います。せっかく優遇されるのであれば利用しない手はありません。
日本政策金融公庫を通じた創業時の資金調達については以上になります。公庫の支店は各地に存在していますので、1度相談してみるといいかと思います。
「地方自治体+信用保証協会」を組み合わせた創業融資
続いてもう1つの創業時の資金調達方法として「地方自治体+信用保証協会」のケースを紹介いたします。こちらは公庫の場合とは少し異なりますので注意してください。
自治体、保証協会、金融機関の関係を理解しましょう
公庫の融資の場合は、公庫が審査をして、公庫がお金を貸して、公庫に返済をすることになりますが、このケースはそれと異なるため注意をしてください。それぞれの役割分担があります。
自治体の役割
都道府県や市区町村の中には、地域経済を活性化させるために創業を促すための制度融資の制度を有しているところがあります。
実際にお金を貸すのは自治体ではなく、金融機関なのですが金融機関も地域経済あっての存在ですので、それには協力的です。創業融資における自治体の役割は以下のとおりです。
条件の決定
融資条件を決定するのは自治体です。創業●年以内、●●万円まで、同じ自治体で開業していることなどの条件設定を行います。
融資の受付
融資の受付は自治体が窓口になります。ここから保証協会→金融機関へと書類が渡り審査が行われることになります。大きく3回の審査があると思ってください。
自治体の規模
基本的大きな自治体にはその制度を持っているところが多いと解釈してください。また、都道府県、市区町村、それぞれに創業融資の制度を持っているところもあります。例えば東京都の場合
- 東京都の創業融資
- 23区各区の創業融資
いずれも存在しています。
創業融資を希望する人は、どちらかを選択してより条件の優れたところを選ぶことになります。
メニューも違っていて、区単位の創業融資の場合はその地域性を活かしたメニューがある場合があります(例えば、地域の伝統工芸のための創業など)。一度、お住まいの自治体それぞれの融資メニューを確認していただくことをお勧めいたします。
信用保証協会の役割
ここが公庫の融資とは違うところですので抑えてください。創業融資の場合、その経営的な実績がないため、担保や保証人を添えることがありますが、それを必要としない場合は「公的な保証人」を用意する必要があります。それが信用保証協会になります。
信用保証協会とはどのようなところ?
信用保証協会は各地にあり、それぞれの管轄が決まっています。簡単に役割を説明いたしますと、創業融資にあたって返済できないリスクをヘッジするために、創業者は信用保証協会に「保証料」を支払います。保証料は数%でそれほど高いものではありません。もし、融資が滞る、事業に失敗するなどアクシデントが起きてしまった場合、実際に融資を行った金融機関に対して保証協会が立て替えて支払いを行います。金融機関は貸し倒れにならないということです。
そうした意味もあり、創業融資の場合は金融機関以上に保証協会の審査が厳しくなると思ってください。融資の書類は保証協会→金融機関へといきます。ここでストップすると融資は実行されません。
金融機関の役割
全ての金融機関が持っているわけではありませんが、創業融資のメニューをそろえているところがあります。地元密着の信用金庫、あるいは地域の銀行、大手銀行も創業融資のメニューを持っています。実際にお金を融資するのは、この金融機関です。利率は公庫よりも低いこともありますが、これは保証協会の保証があるからです。実際に保証料を上乗せした場合は、公庫とそれほど変わらないか、若干高めになるようです。
自治体の窓口から申し込まれた融資は、保証協会を経由して各金融機関の融資を申し込むことになり、自治体、保証協会、金融機関の3段階で審査が行われることになります。
保証協会を通さない金融機関独自の創業融資もあるようですが、金利などの条件はよくなりますが、審査は非常に厳しいものになります。
それぞれの関係を整理します
公庫の場合と違い、このケースでは自治体、保証協会、金融機関の3者それぞれの役割があることがわかりました。創業者が融資を受けるにあたっては以下のようになると思ってください。
(融資)創業者←金融機関
(保証料)創業者→保証協会
(貸倒れ時の建て替え)保証協会→金融機関
保証協会からの建て替えがあるために、金融機関はリスクの高い創業融資を実行できるということです。それに自治体の信用があるため、あまり不可解な事業者は排除されることになります。こうした各プレーヤーの協力とバランスによってこのケースの創業融資は成立しています。
公庫の融資との違い
このように、日本政策金融公庫の創業融資と、「自治体+保証協会」型の創業融資とでは違うことがわかりましたが、どちらが有利なのでしょうか。
融資の難易度、通りやすさ
両者を比較してどちらのほうが融資を受けやすいのでしょうか。ケースにもよりますが、一般的には「自治体+保証協会」型のほうが通りやすいと言われています。
これには理由があり、公庫は政府系金融機関とはいっても単独で融資のリスクを負うことになりますが、保証協会の保証が得るのであれば、万が一のリスクも回避することができるため、融資もしやすいということになります。
融資の制度の違い
両者の融資は基本的に中身は同じようなものですが、一部異なるところがあります。どちらのほうが有利になるのかは、その人によるかと思います。
創業年次
創業前がOKなのは共通していますが、公庫(新創業融資)は創業後2期目までと決められています。一方保証協会はそれよりも長く、5年、7年までOKというところもあります。
自己資金
公庫は自己資金10%という基準(実際は30%~50%は欲しい)がありますが、保証協会はありません。ただし、自己資金がまったくない中での融資は難しいでしょう。現実的には自己資金は必要で、その割合が高いほうが融資の審査が通りやすくなります。
借入上限
公庫(新創業)は3000万円ですが、保証協会はそれと同じか少し低いようです。実際にそこまで借りられるかどうかは別の話になります。
返済期限
これも異なりますが、どちらがより有利かとは言えないようです。
金利、保証料
公庫:4%前後
保証協会:2%前後+保証料2%前後です。
保証料は融資実行時に一括して支払うものとされています(つまり前払い)。貸し倒れを防ぐための保証料ですので当然と言えば当然ですね。
連帯保証人
保証協会の場合は法人だと連帯保証人(代表者)が必要になります。公庫は任意でつけると金利優遇になるのは記載した通りです。
創業計画書
保証協会の融資の場合も創業計画書は必要になります。保証協会の審査は厳しいですので、精密で確実な創業計画書の作成は不可欠です。もちろん本人が作成する必要がありますので注意してください。
創業計画書の書き方は基本的に変わりません。どちらがどうということはないので、事前に作成していてより有利な方に申し込むということで構いませんので安心してください。
結局どちらが有利なのか
以上、日本政策金融公庫の創業融資と「自治体+信用保証協会」の創業融資について解説、比較してきましたが、どちらがより有利なのでしょうか。これは実は、結論としては甲乙つけがたいものといえます。
- 金利はそれほど差がない(若干公庫が有利)
- 審査は保証協会が通りやすい
- 融資限度額は公庫が少し高い
- 連帯保証人が保証協会では必要になる場合がある
というように、どちらも利点があるため決められません。ただし、1点注意していただきたいことがあります。
保証協会の審査で✕になると・・・
保証協会の審査で×がつく、あるいは信用情報に問題がある場合は、提携している創業融資すべてが不可能になってしまうということです。
保証協会とつながっている糸は多いのでそれだけ影響も大きいということになります。
公庫の場合、影響は小さい
一方で公庫の場合は何かあってもそれは公庫だけに留まりますので、その後、保証協会の融資を受けることも(理論上は)可能です。
もっともその段階で経営がおかしくなっているので、実際は難しいとは思います。波及するものが大きいのは保証協会だと思ってください。
自分の経営に自信があるのであれば、結局どちらを選んでも構いません。
困った時は相談を
どちらの資金調達を受けるにしても1人では難しいということもあるかと思います。外部のコンサルタントや中小企業診断士の指導を受けるのも1つの方法ですが、お金がかかってしまいますし「悪徳業者」も存在しています。
おすすめは商工会議所の無料相談
お勧めは商工会議所に行き、無料で経営相談を受けることです。商工会議所では公庫とも保証協会ともパイプがありますので、あっせんしてもらうことや、実績のあるコンサルタントの紹介を受けられるかもしれません。こちらも選択肢に入れてみてください。